フェデックスの「Same Day City」サービスは、主要34都市で荷物の即日配達を行っている。
FedEx
「勝利したフットボールチーム、医師、ミュージシャン、難民救済ワーカーの共通点は何か? 彼らの成功の陰には、フェデックスがある」というのは、最近のフェデックス(FedEx)の広告に書かれていた言葉だ。
「私の仕事(My Work)」と題したこの広告は、ここ数カ月で多くの求人を募集するためにフェデックスが作った広告の一つだ。労働力不足の問題がトラック輸送や船舶の輸送コストを押し上げているため、フェデックスやUPSのような物流企業にとって労働者の確保は喫緊の課題なのだ。
フェデックスのマーケティング・コミュニケーション担当シニアバイスプレジデントであるジェニー・ロバートソン(Jenny Robertson)は、「フェデックスは人材獲得競争の激しい市場で事業を展開しています。フェデックスについてもっと知ってもらい、最終的には当社でのキャリアを追求してもらいたいと考えています」と言う。
「大退職」時代が本格的に到来し、企業は欠員補充に苦労している。そこで、自分たちの広告を使うことで新たな社員を獲得しているのだ。広告媒体資料のポータルサイトを運営するメディアレーダー(MediaRadar)によると、2021年には6600ほどのブランドが採用を目的とした広告に3億5400万ドル(約407億円)以上を費やした。これは、前年比22%増の数字だという。
テレビ広告を計測するiSpotによると、オールステイト(Allstate)、アメリカン・エクスプレス(American Express)、UPS、チック・フィレ(Chick-fil-A)、グーグル(Google)、日産、ターボタックス(TurboTax)が2021年5月以降にこうした広告を展開したという。
「パンデミックを経て、人々は自分なりのやり方で物事を行い、自己改革し、新たに得た自由を享受しています」とクリエイティブ・プロダクションであるツール・オブ・ノースアメリカ(Tool of North America)のダスティン・コーリフ(Dustin Callif)社長は言う。「ブランド各社は、こうした根本的な変化を活用しようとしているのです」
世界最大の広告代理店グループWPPの傘下にあるベルリン・キャメロン(Berlin Cameron)の社長、ジェニファー・ダシルバ(Jennifer DaSilva)は、「広告を使って自社の福利厚生や社内体制、文化を潜在的候補者にアピールしている企業もある」と述べる。
「例えば(オンラインマーケットを運営する)Etsyなどは、このトレンドに先駆けて #ShowUsYourLeave(あなたの休暇を見せて)というキャンペーンを行い、男女問わず子どもが生まれた従業員全てに、26週間の完全有給休暇を提供しています」とダシルバは言う。「このような福利厚生は、安易な採用戦術とは違い、従業員へのコミットメントを示すものです」
企業の人材獲得のためのこのような取り組みは、早くも効果を生み始めている。UPSの広報担当者は、直近のクリスマス・新年の休暇中にテレビとオンラインで行った採用広告が、10万人の季節労働者の採用に役立ったと述べている。
ニューエコノミーもブランド広告のテーマに
マーケティング企業のメディアリンク(MediaLink)のEMEAマネージングディレクター兼グローバルタレント・アドバイザリーリーダーであるキャサリーン・サックストン(Kathleen Saxton)は、必要に迫られて求人応募を増やすために分かりやすい形で広告を使う企業がある一方、もっと微妙な使い方をする企業もあると言う。
デジタルクリエイターや暗号資産のトレーダーなど、かつては一般的でなかった職種が主流になりつつあるなか、リンクトイン(LinkedIn)やターボタックスなどは、ニューエコノミーを称えるような広告を出している。
例えば、2月半ばに行われる今年のスーパーボウルのためにターボタックスが作った広告は、デジタルノマドや自営業のクリエイター、そして暗号資産投資家に至るまで、「アメリカの納税者の多様性を称賛する」ものになっていると、同社マーケティング担当副社長のキャスリーン・ライアン(Cathleen Ryan)は言う。
一方のリンクトインは、ブランドキャンペーンの最新版「Welcome Professional 2.0(ようこそプロフェッショナル2.0)」を発表した。これは、進化するプロフェッショナルの定義を表したキャンペーンだと、同社のグローバルブランドおよび消費者マーケティング担当副社長のミンジャエ・オルメス(Minjae Ormes)は言う。
このキャンペーンはリンクトイン独自の考えに基づいており、企業各社から同社のプラットフォーム上により魅力的な求人情報を掲載してもらうことを狙いとしている。例えば、2020年3月にリンクトインに掲載された求人は、67件中1件しかリモートワークを認めていなかったが、現在ではそれが約6件に1件に増えている。
「私たちの製品、ブランド、そしてコミュニティは、これらすべての職場におけるマクロ的変化の中心にあります」とオルメスは言う。
米労働省の最新の雇用動態調査によると、2021年12月には430万人の労働者が離職しており、大退職のトレンドがすぐに収まることはないだろうと見られている。クリエイターエコノミーも驚異的な成長を続けそうだ。
そして、採用やニューエコノミーは、今後数カ月間、ブランド広告の大きなテーマであり続けるだろうと専門家は述べる。
「人は基本的なところで、自分と仕事の関係を見直し始めています」とリンクトインのオルメスは言う。「ですから我々は、可能な限り人々のニーズに答えられるよう、こうした動きに注目しているのです」
(翻訳、編集・大門小百合)