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「中間管理職」と聞いて、あなたはどんなことを連想しますか?
役職に就いていない20~50代の正社員男女400名(回答数332名)を対象にマンパワーが2020年に行った調査によると、管理職にはなりたくないという人が全体の8割にものぼったそうです。その理由のトップは、「責任の重い仕事をしたくない」というものでした。
(注)N=332、複数回答可。
(出所)マンパワーグループ調べ。
何がそんなに大変なのか?
そもそも、中間管理職は何がそんなに大変なのでしょうか?
「中間管理職」という言葉を検索すると、「ストレス」「板挟み」「耐える」などという言葉が出てきます。せっかく会社から期待されて管理職になったのに、上と下の板挟みになってストレスに耐えなければならないのなら(しかも大変なわりに管理職手当は少ない)、世の大半の人が「なりたくない」と思うのも頷けますね。
管理職になるまでのメンバー時代は、自分の成果を出すことが最優先でした。ところが中間管理職になると、上司と部下の間に入って成果を出すことが役割の中心になります。必要なスキルが異なるのです。
管理職としてのスキルが身についていないのに、管理職として期待される成果を出すのはなかなか大変なことです。しかも最近はリモートワークも増えて、さらにマネジメントの難易度が高まっています。
にもかかわらず、企業が新任の管理職に対して研修やフォローアップをする割合は2割程度しかないという調査結果もあるように、新しい役割をこなすうえで企業からのサポートは驚くほど少ないのが現状です。だとすれば、自分自身でセルフマネジメントできるようになるしかありません。
そこで今回は、実はあまり教わる機会のない、「中間管理職が上司と部下の間に入って成果を出すスキル」についてお話ししたいと思います。
私が経験した「特殊な」中間管理職
まず確認しておきたいのですが、中間管理職が「板挟み」になってしまう大きな理由は、上司と部下の思惑が違うからです。
上司が持っている情報や視野・視点は、部下のそれとは異なります。両者を上手に調整できなければ、自ずと板挟み状態に陥ってしまいます。これをセルフマネジメントでうまく調整する必要があるわけです。
私がこのポイントに気づいたのは、リクルートに勤務していたときのことです。
29年間の在職経験の中ではもちろん一般的な中間管理職も経験したのですが、かなり「特殊」な経験もしました。この時に学んだ経験をいまの中間管理職の方に伝えると、役立ったと言っていただくケースがとても多いのです。
どのように特殊だったのかというと、よくある「上と下に挟まれた管理職」ではなく、「上と上に挟まれた管理職」というポジションだったのです。片方の上司はリクルート本社の副社長。そしてもう片方は、私より役職が上の取締役という構図でした。つまり、両方とも私より上位役職者だったということですね。
編集部作成
こういうケースは一般的ではないものの、皆無というわけではありません。例えば「本社のCFO直下のメンバーが、子会社のCFOをしている」なんていうケースもありますね。本社CFOの直属の部下でありながら、子会社のCEOのお目付け役をするのが仕事です。
みなさんも想像がつくと思いますが、この仕事はなかなかストレスフルです。
一般的に、マネジメントスタイルには次のように4種類あります(詳しくは、こちらの記事を参照)。
- 委任型:権限移譲し、事前に明示した範囲を超えない限り見守る
- 援助型:聞き、促し、褒めることでモチベーションを高める
- コーチ型:コーチングスキルを活用して部下自ら考えるように援助をし、必要に応じて指示する
- 指示型:細かく指示、コントロール、監督をする
管理職はこの4種類のマネジメントスタイルを必要に応じて使い分けることがポイントです。ところが、2人の上位役職者に挟まれたポジションだと、4つめの「指示型」が活用できない(正確にはしづらい)。つまり、マネジメントスタイルの選択肢が少ない中でマネジメントをしなければならないという制約があるのです。
では以降で、私がこの「特殊な」中間管理職でどのように両者の間でマネジメントしたのかを説明していきましょう。このような制約があるなかでも機能した手法ですから、制約がない一般的な状況ではより役に立つはずです。
1. ゴールを握る
一番重要なのは、ゴール(目的、実現したいこと)を確認することです。先ほどお話ししたように、中間管理職が板挟みになるのは上司と部下の思惑(≒ゴール)が異なるからです。
よくあるパターンを、分かりやすく示したのが下図です。図中に書かれたA〜Fの合計6つのアルファベットは、具体的なゴールを表します。
筆者作成
このケースでは、CとDは副社長も取締役もお互いに実現したいと思っているゴールですから、両者の思惑は一致しています。ところがAとBは、副社長は取締役に実現してほしいと思っているものの取締役はそれをゴールとは考えておらず、EとFは取締役だけが実現したいと思っているものの副社長はゴールとは思っていないのです。
ちなみに具体的な内容を明かすと、Aは「提携案件」、Bは「業界団体対応」でした。あいにくこのときの私には、A・Bどちらの案件もスキルや経験がありませんでした(興味もありませんでした)。
Cは、中期戦略を実現するための「担当領域の最大売上規模シミュレーション」、DはCを実現するための「最適な組織体制と幹部人事」でした。そしてEは短期戦略を実現するための「取締役配下の本部機能の強化」、Fは「中間管理職の育成」というゴールでした。これら4つについては、私自身にはスキルも経験も興味もありました。
さて、こんなときあなたならどうしますか?
ポイントは2つあります。1つはA・Bの案件について、取締役に実行することを納得してもらう。もう1つは、取締役がE・Fを実行することを副社長に承認してもらう。この2つです。どういうことかもう少し詳しくお話ししましょう。
副社長の視点から見ると、A~Dさえやってくれれば、E・Fをどうするかは預かり知らぬことです。ということは、私がE・Fに関わることについて副社長から了解をとりつけるのは比較的容易ですね。
しかしA・Bに関しては、取締役に納得してもらう必要があります。加えて、スキルもやる気もない私が副社長と取締役の間に入ることで、2人の思惑に齟齬が出るかもしれません。
そこで考えた末、私は2人に「A・Bについては直接やりとりしてください」と交渉しました。一方で、E・Fに関してはスキルも経験も興味もありますから、この2つのゴールについては私が支援することにしました。
- A・B(副社長だけが実現したいこと) → (スキルも興味・関心もない)私が関与するのはやめ、副社長と取締役に直接やりとりしてもらう
- C・D(2人とも実現したいこと) → 私が得意な領域なので支援する
- E・F(取締役だけが実現したいこと) → 私が得意な領域なので支援する
つまり私がやるべきは、4−2+2=4つのゴールにしたわけです。
なお中間管理職である私にとっては、A・Bを手放せたことも特筆すべき点でした。仕事だからと興味や関心やスキルがない業務を担当しても、成果は出ません。このようなときは正直に交渉することをおすすめします。
筆者作成
2. マネジメントスタイルを握る
次にやるべきは、A~Fに対して、副社長や取締役と私との間でマネジメントスタイルについて握ることです。
例えばA・Bは「委任型」になります(私は関与しないので、正確には「放任」ですね)。
余談ですが、日本のマネジメントでは「委任」と「放任」をはき違えているビジネスパーソンがことのほか多くいます。「委任」とは権限移譲すること。上司の権限の一部を部下に渡すということです。その際に上司は、ゴール、ゲームのルール、OBゾーン(やってはいけないこと)、そして報告の頻度と内容を部下に伝えなければいけません。
C~Fについては、取締役自身のスキルとモチベーション(やる気)によって、私のマネジメントスタイルを変更しました。私の方がスキルがあったので、基本コーチ型のマネジメントスタイルとを選択しました(※詳しくはこちらの記事をご参照ください)。
マネジメントスタイルを決める際の最も重要なポイントは、「人ごと」ではなく「仕事ごと」(この例ではA~F)に決めるということです。これも、重要なポイントでありながら知らない人が多いですね。
マネジメントスタイルを決める際、「○○さんはベテランだから委任型にしよう」「新人だから指示型にしよう」と、人を見て決めることが多いのではないでしょうか。
しかしベテランであっても、初めての仕事は不安なものです。ベテランの本部社員が、現場に異動にして初の仕事をこなすときを想像すれば分かりやすいでしょう。このようなケースでは、援助型やコーチ型が必要な場合もあります。場合によっては指示命令型のほうがいいこともあるかもしれません。
逆に新人であっても、例えば学生時代にインターンや起業を経験していて、特定の分野にはかなり詳しいというケースもあります。そのような場合は委任型でもよいかもしれません。
3. 「30MR」で段取りを確認する
マネジメントスタイルの「援助型」「コーチ型」「指示型」の3つに関しては、かなりの頻度で部下とコミュニケーションを行います。しかし「委任型」は、その頻度が相対的に低くなりがちです。委任した側は「任せたのだからあまり聞くべきではないだろう」と勘違いし、委任された側は「任されたのだから自由にやっていいだろう」と勘違いするケースがあるからです。
そのようなボタンの掛け違いがないように、委任した場合でも、事前に報告の頻度と内容を決めておくのがポイントです。
マネジメントスタイルを決める際に有効なのが30分のレビュータイム(30 Minutes Review)、略して「30MR」です。この方法は、ある戦略コンサルティング会社の社長が実践していたもので、かなり応用範囲が広いので私もよく活用している方法です。
手順は次の3ステップです。
- 上司は、30分程度でミッションの内容について説明する
- 1の後、担当者は30分程度でその進め方(段取り)を考える
- 担当者は、考えた段取りを上司に説明し、30分で合意を得る
※万が一合意が得られない場合は、合意が得られるまで2〜3を繰り返す
上司は30分でミッションを説明し、担当する人は30分かけて進め方を考え、その後2人で30分かけて段取りを確認するということです。
たったこれだけの手間で、仕事を任せた担当者のスキルの過不足がよく分かります。業務がうまく進まない場合、理由の大半は段取り、つまり事前準備のプロセス設計の段階で失敗しているものです。業務を伝えた直後にプロセス設計を確認しておけば、失敗を予防することができるわけです。
ちなみに、担当者が新人など経験が浅い場合は、30分でミッションを説明し、翌日に30分のミーティングを設定するなど、3のステップまでの時間を調整することも有効です。
これで、「委任型」の仕事についても担当者がどの程度こなせそうかを把握できました。ここまでできたら、各ゴールに向かって実行フェーズに入ります。
4. 事前に「振り返り」の日付・内容を決めておく
何かプロジェクトや施策を実行することを承認したときには、同時に「振り返り」の日付・内容をあらかじめ決めておくことをおすすめします。プロジェクトが終了してからおもむろに振り返りの日程調整をしていたのでは、実施まで時間がかかってしまいますし、プロジェクトが終了しているのでメンバーも解散し、そうこうするうちに記憶が風化して有効な振り返りができなくなってしまうからです。
「振り返り」と聞くと、とたんに顔が曇る人がいますね。もしうまくいかなかったら責められそう、失敗したときの「犯人探し」なんてやりたくない、という心理が働くのかもしれません。
「悪いのは私です、申し訳ありません」という言葉が思考停止を生み、懺悔の言葉が聞けたら振り返りはそれで終わり、という組織が少なくありません。これは非常にもったいない話です。
振り返りは、決して犯人探しのためにやるものではありません。もちろん、うまくいかなかった原因は担当者の悪意や怠慢によるものだったという場合もあるでしょう。しかしそれでも、そのような人にその業務を任せたマネジメントや仕組みに問題があるのです。
振り返りの本当の目的は、うまくいった場合はなぜうまくいったのかポイントを押さえ、再現性を高めること。うまくいかなかった場合は、次回は成功するように予防策と発生時対策を確認することです。
つまり振り返りとは、仕事の成功確率を高める方法論なのです。「振り返り」ができる組織は、さまざまな知恵が組織内にたまっていき、大きな財産になります。
なお、プロジェクトマネジメントの段取りの仕方や振り返りの上手な進め方については、連載第9回でも詳しくお話ししていますので、ぜひ参考にしてください。
いかがでしたか? ゴールを握り、マネジメントスタイルを握り、定期的なミーティングで段取りを確認し、プロジェクトが終わったら振り返りをして組織内にナレッジをためる——上司と部下の間に立って成果を出せる中間管理職は、こういう仕事の仕方を心得ているものです。あなたもぜひ実践してみてください。
※次回は、2022年3月11日(金)を予定しています。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェロー、TEPCOフロンティアパートナーズ投資委員も兼任。新著に『1000人のエリートを育てた爆伸びマネジメント』『世界一シンプルな問題解決』がある。