2021年上半期に空売り投資家に対抗する個人投資家の「牙城」と呼ばれた交流サイト「レディット(Reddit)」。団結投資の対象となった「ミーム銘柄」に2022年再び脚光が?
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「月にも届け(トゥ・ザ・ムーン)」との祈りは通じなかったか。月に届く前に、株価上昇の勢いは衰えてしまったようだ。
2021年のミーム銘柄(=SNSサイトの投稿情報に応じて価格が上下動する「ネタ的な」株)のパフォーマンスは、個人投資家の機関投資家に対する反乱か、刹那的な流行か、それとも仕手筋の仕業か。
人によって見方は違って、おそらく明確な答えは出ないだろう。
いずれにせよ、投資経験の浅いごく少数のにわか成金(なりきん)投資家や、交流サイトを通じて結束した個人投資家から集中砲火を浴びて痛手を負った空売りヘッジファンドを除けば、ウォール街関係者のほとんどは当時の熱狂を抜け出し、気持ちの切り替えを済ませたようだ。
ミーム銘柄の現在の価格を見れば、それがよく分かる。
ほとんどのミーム銘柄は2021年中に深刻な下落を経験した。さらに、多くの投資家がリスク回避志向を強めて人気のテック銘柄から手を引き、金融やエネルギー分野のバリュー株(※)に殺到する足もとの状況も、ミーム銘柄の株価を一段と引き下げるのに貢献している。
※バリュー株……利益や純資産などで評価した企業価値に比べて株価が割安のまま放置されている銘柄。株式市場全体が下がるときでも、バリュー株の下落率は相対的に小さいとされる。
しかし、誰もにとって話はそれで終わりというわけではない。
米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)ストラテジストのジュリアン・エマニュエルは次のように指摘している。
「感情は移ろいやすく、投資家に弊害をもたらすことが多く、ボラティリティ(=価格変動性)が高い時期には特にそうです。
2021年に一度は大成功をおさめながら、いまや売りに売られ、イメージ先行で大した利益を生み出さないミーム銘柄ですが、恐怖と憎悪(=ジョニー・デップ主演の映画『ラスベガスをやっつけろ!』の原題に重ねた表現)に満ちた2022年に、まさにそれらが再び株価上昇に向かう可能性は考えられないでしょうか?」
「弱気すぎた」ことに気づく投資家たち
新型コロナウイルスが世界中に広がり、人々の生活を根底からくつがえし、経済活動を急激に停滞させた2020年上半期より、現在のほうがさらに投資家たちは悲観的になっている——前出エバーコアISIのエマニュエルは調査レポートでそう指摘している。
エマニュエルによれば、投資家がそのように悲観的になっているときこそ、またとない買いのチャンスであることが多い。
最近次々と発表されている好調な企業業績や経済指標の力強さは、ウォール街の安定ムードを下支えする役割を果たしてくれるという。
エマニュエルは、投資家たちがいまと同じように弱気姿勢だった2016年前半に、現在の状況を重ね合わせる。
「2016年1月の絶望に満ちた空気は今日と似ています。当時はその後、2年近く株価上昇が続きました。結果として59%という大幅上昇を記録したその最初の一歩は、当時敬遠されていたエネルギー株と小型株がけん引したのです」
市場が落ち着きを取り戻し、投資家たちが自分たちの判断はあまりに弱気だったとふり返るようになれば、一部のミーム銘柄が際立ったバーゲン価格で取引されていることに気づくはずだとエマニュエルは予測する。
そうしたミーム銘柄はただ割安なだけでなく、ショートポジション(=売り持ち高が上回っている状態)の投資家が多い、すなわち空売り比率が高いので、バーゲン感がさらに際立つ。
空売り比率が高ければ、ショートカバー(=売り持ち高の買い戻し)による踏み上げ相場(=買い戻し圧力による株価上昇がさらなるショートカバーを呼んで相場が上がる展開)が期待できるからだ。
これは一部のミーム銘柄が2021年1月に急騰したのと同じダイナミクスの新たなバージョンと言える。
個人投資家が束になって株価を押し上げると、空売り投資家は損切りのため買い戻しを強いられる。そうやって買い戻しが増えることで株価はますます上昇するので、損切りの需要はさらに高まり株価も上昇を続ける。
そうした技術的な要因から起きる株価急騰が(2021年に急激に知れ渡った専門用語の)「ショートスクイーズ」で、先述のように日本語では踏み上げ相場と呼ばれたりする。
ゲームストップやAMCエンターテインメント、エクスプレスなど2021年中に何度か起きたミーム銘柄のショートスクイーズは壮観だった。空売り筋はそのたび数億ドル単位の巨額損失を計上している。
エマニュエルが2022年に予測しているのはそこまでの劇的な展開ではないものの、『ダイヤモンドハンズ』(=ひたすら月への到達を目指すゲーム、ここでは「月に届くような」大幅株価上昇を意味する)を狙う投資家にはそのチャンスがあるという。
下に紹介する26銘柄は、2021年上半期に記録したピーク株価から少なくとも50%以上下落しているものだけで、その空売り(=売り持ち高)比率は、浮動株(=流通する可能性が高い株式)全体の少なくとも10%以上を占める。
「これらの銘柄は今後数週間で『投資家の間に(一部のバーゲン価格に対する)冷静な評価』が広がれば、相場が反転する可能性があります」(エマニュエル)。
以下では、2021年上半期のピーク株価からの下落率が最も小さい銘柄を26位、最も下落率が大きい(それだけ株価のバーゲン感が際立つ)銘柄を1位としてランキングした。
各銘柄の数字は1月30日時点のものを使っている。
【26位】ベントブライト(Eventbrite)
セクター:通信サービス
空売り比率:16.1%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:51.3%
【25位】ヴェリセル(Vericel)
セクター:ヘルスケア
空売り比率:15.2%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:54.0%
【24位】アダプトヘルス(AdaptHealth)
セクター:ヘルスケア
空売り比率:10.2%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:57.0%
【23位】シフトフォーペイメンツ(Shift4 Payments)
セクター:情報テクノロジー
空売り比率:20.1%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:57.2%
【22位】ウェイフェア(Wayfair)
セクター:一般消費財
空売り比率:22.5%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:61.9%
【21位】カードリティックス(Cardlytics)
セクター:通信サービス
空売り比率:13.5%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:63.1%
【20位】オリーズ・バーゲン・アウトレット(Ollie Bargain Outlet)
セクター:一般消費財
空売り比率:20.5%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:64.3%
【19位】インスティル・バイオ(Instill Bio)
セクター:ヘルスケア(バイオ製薬)
空売り比率:14.1%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:64.5%
【18位】ケモセントリックス(ChemoCentryx)
セクター:ヘルスケア(バイオ製薬)
空売り比率:10.3%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:65.7%
【17位】リレー・セラピューティクス(Relay Therapeutics)
セクター:ヘルスケア(がん遺伝子治療)
空売り比率:21.2%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:68.3%
【16位】サンノバ・エナジー・インターナショナル(Sunnova Energy International)
セクター:ユーティリティ(太陽光発電)
空売り比率:17.3%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:69.3%
【15位】シグニファイ・ヘルス(Signify Health)
セクター:ヘルスケア(医療統合プラットフォーム)
空売り比率:30.7%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:72.0%
【14位】ビヨンド・ミート(Beyond Meat)
セクター:生活必需品
空売り比率:36.9%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:74.4%
【13位】プラグパワー(Plug Power)
セクター:工業(燃料電池)
空売り比率:10.9%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:75.8%
【12位】ツイストバイオサイエンス(Twist Bioscience)
セクター:ヘルスケア(半導体ベース合成DNA製造)
空売り比率:10.9%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:76.0%
【11位】サンラン(Sunrun)
セクター:ユーティリティ(太陽光発電)
空売り比率:18.2%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:76.9%
【10位】オーク・ストリート・ヘルス(Oak Street Health)
セクター:ヘルスケア(公的医療保険受給者向け初期診療サービス)
空売り比率:18.3%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:77.4%
【9位】ロケット・ファーマシューティカルズ(Rocket Pharmaceuticals)
セクター:ヘルスケア(希少疾患向け遺伝子治療)
空売り比率:18.8%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:77.5%
【8位】ノババックス(Novavax)
セクター:ヘルスケア(バイオ製薬)
空売り比率:12.8%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:78.0%
【7位】テラドック・ヘルス(Teladoc Health)
セクター:ヘルスケア(遠隔仮想医療サービス)
空売り比率:14.9%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:78.1%
【6位】AMCエンターテインメント(AMC Entertainment HD)
セクター:通信サービス
空売り比率:18.9%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:80.0%
【5位】パシフィック・バイオサイエンシズ・オブ・カリフォルニア(Pacific Biosciences of California)
セクター:ヘルスケア(遺伝子解析プラットフォーム)
空売り比率:10.2%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:82.5%
【4位】エディタス・メディシン(Editas Medicine)
セクター:ヘルスケア(ゲノム編集)
空売り比率:16.6%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:82.6%
【3位】レモネード(Lemonade)
セクター:金融(インシュアテック損害保険)
空売り比率:37.0%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:85.4%
【2位】ペロトン(Peloton)
セクター:一般消費財(フィットネス機器)
空売り比率:12.0%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:86.0%
【1位】スティッチ・フィックス(Stitch Fix)
セクター:金融(オンラインAIスタイリング)
空売り比率:16.8%
2021年上半期のピーク株価からの下落率:87.0%
(翻訳・編集:川村力)