SB新型コロナウイルス検査センターが開発した「移動式PCR検査車」。
撮影:房野麻子
ソフトバンクグループの100%子会社のSB新型コロナウイルス検査センター社は、全国各地に出向いて唾液PCR検査が行える「移動式PCR検査車」を開発。2月7日、報道関係者向けに公開した。
移動式PCR検査車は、全国各地を移動し、移動した先で検査できる車両だ。
検体を受け付けてから、最短2時間で検査結果が得られる。利用想定として、山間部や過疎地といった検査キットの配送による検査も難しいような地域、もしくは学校や保育園などにおける集団検査、イベント会場などでの活用が念頭にある。
同社では新型コロナウイルスの唾液PCR検査ができる検査施設を東京、札幌、福岡の3カ所に設けている。この移動式検査車では、そこで使われているものと同じ試薬を用いたPCR検査ができることを売りにしている。
外部にウイルスが漏れ出ないHEPAフィルターを搭載した換気システムやエアカーテンを装備。また、検体は三重で梱包され、万が一、移動検査車が事故に遭った場合でも、陽性の検体が飛散しないように厳重に管理される。
撮影:房野麻子
検査料金は、現在、同社が配送で対応しているPCR検査料2200円(税込)と同額だ。ただし、検査車を利用し、移動させる車両費や燃料費、さらには運転手などの費用は車両の派遣を依頼した自治体や事業者などの実費精算となる。
検査を実施する際には、検査当日に、申し込み者側(自治体や事業者)が検体の採取場所を設営して検体を採取し、提出。検索結果は、検体の提出者のスマホにそれぞれ通知が届く仕組みになっている。同社広報によると、その後の対応は、サービスを申し込んだ自治体、事業者ごとに差がある、とする。
移動検査車を利用した場合の料金。検査自体は従来と同じ料金だが、検査車を使うことによる費用がかかる。
撮影:房野麻子
検査車は、運転手1名と検査スタッフ2名、合計3名で移動する。1日の検査数は、9時から18時まで8時間稼働した場合、最大376検体。発表会で展示された1台に加え、2月中に2台追加され、合計3台が稼働する予定だ。
車内の見取り図。約3m×1.8mのコンテナの中に安全キャビネットや備品が配置され、2人の検査スタッフが背中合わせのような状態で検査する。
撮影:房野麻子
車内の様子。検査スタッフは防護服を着て検査を行う。
撮影:房野麻子
検査の流れ。移動車両での検査だが、結果通知はスマホに届く仕組みになっている。
撮影:房野麻子
検査の流れがデモンストレーションで紹介された。採取した検体が検査車のスタッフに渡される。車内には検査スタッフしか入れない。
撮影:房野麻子
同社の検査センターで採用されているタカラバイオ社の検査試薬をそのまま活用。検査手順なども、検査センターの方法に準拠して実施する。2時間程度で結果が分かり、検査した1人1人にアプリを通じて結果が通知される。
撮影:房野麻子
「今日実施して、今日結果が分かる」
SB新型コロナウイルス検査センター社は、2020年9月に千葉県市川市にある国立国際医療研究センター国府台病院内に検査センターを発足して以来、唾液によるPCR検査を、無利益提供による低料金で実施してきた。現在、1日に約2万1000件の検査が可能で、2022年1月までに約370万検体を超える検査を行ってきたという。
一方で、PCR検査に関するアンケートなどから、「即時に検査結果を知りたい」というスピード感、「料金の安さ」が求められていることは認識していた。
しかし、従来の同社の検査は、検査キットを配送しなければならず、「(検体を提出して)今日の今日、検索結果を知りたいということについては難しい環境」(SB新型コロナウイルス検査センター池田昌人社長)だった。
SB新型コロナウイルス検査センター社長の池田昌人氏。
撮影:房野麻子
この移動式PCR検査車は、さまざまな場所に出向いて、即日検査結果が分かるのが利点だ。
このアイデアは、2年以上前、新型コロナウイルス感染症が流行しだした直後から、国立国際医療研究センター臨床研究センターの杉浦亙センター長から提案があり、検討してきたという。
国立国際医療研究センター 臨床研究センター センター長 杉浦亙氏。
撮影:房野麻子
しかし、臨床検査技師等に関する法律では、検査機関が検査する場合、その所在地の都道府県または市区ごとの衛生検査所登録が必要となる。そのため、現在は登録を受けた所在地とは別の場所での検査ができない状況にある。
「運用部分で承認が下りず、残念ながら当時は断念しました。昨年(2021年)9月27日に、規制改革推進会議の場で(移動式で検査ができる体制を構築すべきと)提言したところ、厚労省が前向きに検討され、この移動式PCR検査車の登録について推進が進んだ訳です」(池田氏)
現在、事前に必要な手続きなどについて厚生労働省が各自治体との調整を進めている最中だ。サービス開始はその調整を終えてからということになる。まずは自治体向けに提供を開始し、その後、一般の事業者などにも展開するとしている。
なお、SB新型コロナウェルス検査センターによるPCR検査は、無利益販売という考え方で提供されている。
「この事業そのものでは利益を上げないということを前提に運用していく予定です。ですので、売上としては立ちますが、実質的には利益が出ない、もしくは利益が出た場合には、その利益を自治体や医療機関に寄付します」(池田氏)
また、現在、PCR検査は試薬の不足などが報道されているのも気になるところだ。
SB新型コロナウイルス検査センター社は大規模に検査をするため、メーカーと連携して長期にわたって試薬を確保しており、「試薬がないというような状況は、とりあえずないので安心してください」(池田社長)とした。
(文・房野麻子)
房野麻子:新卒で某百貨店に就職後、出版社に転職。男性向けモノ情報誌、携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年にフリーランスライターとして独立。モバイル業界を中心に取材し、Web媒体や雑誌で執筆活動を行う。