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オーディション番組「THE FIRST」成功の裏側 ── SKY-HIと山内奏人に聞く、日本音楽業界の課題

山内奏人さん(左)とSKY-HIさん(右)

レシート買取サービス「ONE」などを開発するWED CEOの山内奏人さん(左)と、音楽事務所「BMSG」CEOのSKY-HIさん(右)。

撮影:伊藤圭

Business Insider Japanはビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS 2022(ビヨンド・ミレニアルズ)」を1月24〜28日に開催した。4回目となる今回は、課題をビジネスで解決しようと挑戦するミレニアル世代・Z世代を表彰するアワードと、今年注目すべきビジネステーマを深掘りするトークセッションをオンラインで開催。

25日には「SKY-HIと山内奏人が語る、日本の音楽ビジネスの“勝算”」をテーマに、Rapper/ Producer/BMSG代表取締役社長のSKY-HIさんと、WED代表取締役の山内奏人さんが登壇した。

音楽業界の改革、10年前だったら干されていた

SKY-HIさん

ラッパー/プロデューサーのSKY-HIさん。大手音楽事務所エイベックスに所属しながら2020年、個人事務所「BMSG」を立ち上げる。2021年に私財1億円を投じて主催したオーディション「THE FIRST」は一大ブームに。

撮影:伊藤圭

——まずは2人の出会いを聞かせてください。

SKY-HIさん(以下、SKY-HI):元・ぼくのりりっくのぼうよみこと「たなか」を介して、ちょうど1年前の正月に一緒に桃鉄をしたのが出会いです。

山内奏人さん(以下、山内):それをきっかけに、経営課題の解決みたいなことをお手伝いさせていただいてます。

——レシート買い取りサービス「ONE」を創業したことで知られる20歳の起業家・山内さんと、ラッパーでありプロデューサーのSKY-HIさん。異色の組み合わせのようにも思えますが……。

SKY-HI:そもそも、世の中に異色の組み合わせって存在しないんですよね、人間みんな異色なので(笑)。当時は起業1年目だったので、弱点を晒す作業になりかねない相談というものを気軽にさせてもらえることがすごく助かりましたね。

——SKY-HIさんが2020年に立ち上げた音楽レーベル兼マネジメント事務所「BMSG」はどのような経緯で始まったのですか?

SKY-HI:元々、いつか起業して音楽活動をしようとは思っていたんですが、日本の音楽業界には課題が多すぎると感じていました。そこで「才能を殺さないために。」というスローガンを掲げて、新しいアーティストの発掘や育成も行うような会社を起業するに至りました。

SKY-HIさん

日本およびJ-POPは、90年代のビジネスモデルのスキームが一切変わっていないとSKY-HIさんは指摘する。

撮影:伊藤圭

——日本の音楽業界の課題とは?

SKY-HI:90年代のアジアの音楽市場において、日本およびJ-POPはビジネス、影響力、認知度の全てにおいて強かった。それゆえ、当時のビジネスモデルのスキームが一切変わらないまま今まで来てしまいました。

他の国がインターネットの力を借りて、音楽をエンターテインメントやアート、またビジネスとして大きくしていく一方で、未だに日本は昔のまま。リニアモーターカーに乗る時代に、新幹線の「ひかり」と「こだま」で悩んでいるような状況になってしまっています。

——山内さんから見て、音楽業界はどこに課題があると思われますか?

山内: SKY-HIさんと話して、そういえば課題だなと気付かされたことが多いです。例えば、K-POPのミュージックビデオはすごくお金がかかっていそうだけど、J-POPのものはそんなにお金がかかっていなさそうという話とか。

ファンとのコミュニケーションについても、K-POPと違って日本では精神的な意味で断絶されているような感覚がどうしてもあるという話もSKY-HIさんと話して気付いたことです。

CDありきのビジネスモデルはもう成立していない

——日本の音楽ビジネスの課題といえば、まずはCDを売らないと儲からないという旧態依然としたビジネスモデルが挙げられると思います。

SKY-HI:CDというメディア自体、90年代をピークに流通数も少なくなるのが世界では当然の流れとしてありました。ただ、日本ではアイドル文化の中で、CDを大量に買うことを応援の表現とする文化がなぜか生まれてしまいました。

CD全盛期の90年代に設定された利益分配の構造は、今も変わっていなくて、1枚1000円のCDに対してアーティストの取り分が1〜2%なんてことも普通にあります。

特に不健康だと思うのは、ファンの方はそれがアーティストの応援になると思って購入していること。実際に利益が行くのはレコード会社や著作権者なので、本当に応援したい人に金銭的な意味では届かない。

——一方で音楽ストリーミング(配信)サービスの収益構造にも議論があるのではないでしょうか。例えばSpotifyだと1再生あたり0.3円程度という数字も出ていて、アーティストに十分還元していないと批判されています。

SKY-HI:ストリーミングが儲からないかと言うと、そうではないと思います。今独立してやっているラッパーは、実は10年前には考えられないくらいの潤い方をしている人もいます。月に何百万もの収益が入ってくる人が少なくない。

マネタイズ(収益化)やプロモーションの方法が、ジャンルごと、またアーティストごとに無数の可能性があるのはすごく優しい時代だなと思いますね。

WED CEOの山内奏人さん

山内さんは「質の高いコンテンツを作る意義がビジネス的な側面からも生まれているのは面白い変化だ」と話す。

撮影:伊藤圭

——山内さんは音楽業界の新しいビジネスモデルについて、どのような形が理想的だと思いますか?

山内:今まで動画や音楽は、制作してリリースしたらその時は儲かるけれどもその後は儲からないという「フロー型」でした。それが、制作物がちゃんと資産になってマネタイズされ続ける「ストック型」に変わってきています。

例えばYouTuberは投稿を1回すれば、それが明日だけでなく来年、再来年の収益にもなってくる。これをCAC/LTV(※)って言ったりするんですが、収益を挙げられる期間が長くなったことで、かけられるコストが以前と比較して圧倒的に高くなってきたと思います。

※CAC/LTV:1顧客あたりの平均獲得コスト/顧客生涯価値。ひとりのユーザーを獲得するためにかかるコストと、そのユーザーが長期に渡ってその企業にもたらす利益の総額(価値)を算出したもの。

——SKY-HIさんも、質の高いコンテンツへの投資がしやすくなった実感はありますか?

SKY-HI:ありますが、まだまだ難しいこともたくさんあります。レコード会社は基本的に予算をCDの枚数から逆算して組むので、およそ何万枚位のCDが売れるであろうからこのくらいのミュージックビデオを作ろうという考え方です。

だから年々予算はしぼんでいく一方だし、予算がしぼむとミュージックビデオのクオリティは落ちるし、それによって影響力が落ちるという負のスパイラルにいる。

一方でBMSGを立ち上げて良かったと思うのは、予算が自分たちで決められることです。「ここでお金をかけるぞ」というタイミングを考えたりすることは確かにできています。

オーディション番組では埋もれていた才能を発掘した

BMSGの最大のプロジェクト「THE FIRST」

SKY-HIが1億円もの私財を投じ、クオリティ、クリエイティビティ、アーティシズムの3点を第一に掲げて実施した、ボーイズグループオーディション「THE FIRST」は大成功を納めた。

提供:BMSG

── BMSGの最大のプロジェクト「THE FIRST」についてもお聞かせください。そもそもなぜオーディション番組をやろうと思われたんですか?

SKY-HI:先ほどもお話しした、自分が活動する中で感じていた苦しみが、帰属させられることにあったと思うんです。

AAAというアイドルグループをやっていたので、アンダーグラウンドやヒップホップの世界からは「アイドルのくせに」と言われるし、アイドル側の方からしたら、「ラップって『Yo Yo チェケラッチョー』みたいな感じでしょ?」と言われたり。ロックフェスはどうかって言ったらその両方だったり(笑)。

ジャンルとしてないものになるという苦しさを感じていたんです。僕と同じ想いを若い世代のアーティストにはしてほしくないという気持ちがまずありました。

——アイドルとアーティストが両立できることを「THE FIRST」で証明したかったと。

SKY-HI:K-POPには、歌って踊って作曲もできるアイドルがたくさんいますよね。海の向こうには同世代にG-DRAGON(BIGBANG)がいる。下の世代にもどんどんそういったタイプの“アイドル”が増えていくのを見て、すごく悔しかったです。

だからこそ演出も筋書きもない、ただ本気で音楽にのみ集中するさまを見せる、本質を見失っていないオーディションにしたいとずっと思っていました。

第62回グラミー賞でLil Nas Xと共にパフォーマンスをするBTS

第63回グラミー賞授賞式で韓国人歌手として初めてノミネートされ、単独パフォーマンスも披露するなど世界を席巻するBTSも「セルフプロデュース型アイドル」だ。

REUTERS/Mario Anzuoni

——「THE FIRST」、これほどの反響は想定されていましたか?

SKY-HI:放送開始した2021年4月初めには合宿はほぼ終わっていたのですが、その時点で反響や数字はともかく、企画としては絶対に成功すると思っていましたね。

数字的な意味では、『Be Free』という楽曲の合宿審査でのパフォーマンス映像の再生回数が1週間で100万回に到達することを一つの目標としていたので、それが数日で達成した時点で反響の大きさを確信しました。

——オーディション番組にとどまらず、「THE FIRST」から誕生したボーイズグループBE:FIRSTもデビュー曲から音楽チャートを総なめにしました。

SKY-HI:今までのボーイズグループとは違うことをやるという意思表明が伝わったのかなと思います。また、番組の最終回でピークを終わらせず、「THE FIRST」出身者を含めたドラマが続いていってほしいという想いもありました。

応援するファンも特定のメンバーだけではなく、BE:FIRST全体やBMSG全体を面白がって応援するという状態を作りたいと思っています。

メタバース展開は?女性アーティストも手がける?一問一答

SKY-HIさん

SKY-HIさんは「好意であれ悪意であれ、顔の見えない人が自分の話をしていること自体がそもそも人間として不自然なこと」だと語る。

撮影:伊藤圭

—— 読者からも質問が来ています。BMSGで女性アーティストをプロデュースする予定はありますか?

SKY-HI:ないですね。自分がガールズグループのメンバーとして活動したことがないので、(プロデュースの仕方が)分からないというところが大きいかもしれないです。

仲の良い女性アーティストはいますので、彼女たちが企画したことを手伝うような形でBMSGに新しい音楽を生むということは全然あるかなと思いますね。

── 「メタバース」上での音楽展開はどうお考えですか。またNFTなどの新しいビジネスの展開についても教えてください。

SKY-HI:音楽はメタバースのようなものとは非常に親和性は高いと思います。ただ、今はアートやエンターテインメントの可能性より、ビジネスとして大きな収益を生む可能性の方が注目されているのかなと。そこで強烈な音楽体験が作れるという確証があればやりますが、今のところは3匹位はどじょうを見送ろうかなと思っています。

山内:メタバースの本質は「個人の経済圏の可視化」だと思っています。アーティストや作り手の人にとって、活動によって生まれる収益が流通総額(GMV)として可視化されることはものすごく価値のあることだと思います。

一方で、その流通総額(GMV)をただ最大化するためにメタバースに参入しよう、という本末転倒なことにもなりかねない。僕も、今のバブルが過ぎ去った後にメタバースがどうなるかを見てみたいなと思っています。

——今アーティストのメンタルヘルスが問題になっています。社長として所属アーティストのメンタルヘルスのケアについてはどのように考えていますか?

SKY-HI:まずは信頼をしてもらうことが一番大切です。そのためには会話するしかないと思います。その点で言うと「THE FIRST」の合宿で、1カ月をアーティストと共に過ごしたのは強いと思います。

これは非常に大きい問題なので、事業化して広める必要性も感じていますが、テンプレートを作るわけにもいかないですし、とても難しいですね。僕の場合、悩んだ時に相談を聞いてもらっている中で傷付けられることが多くあったので、それを忘れないようにしたいです。

── SNSとの距離感について、アーティストにアドバイスしていることはありますか?

SKY-HI:基本的にはSNSは見ないでほしいというのが正直なところです。好意であれ悪意であれ、顔の見えない人が自分の話をしていること自体が、人間として不自然なこと。

応援の気持ちを受け取る場所は、ライブなどできちんと設けられているので、年がら年中それに晒され続ける必要はないと思っているんです。とは言いつつ、SNSは見ちゃうじゃないですか。だからこそ現実社会で信頼されている関係性にある人間が「何があっても僕はあなたの味方ですよ」ということを伝え続けるしかないと思います。

一緒にいるのは利益のためだけでないということを伝えることが大事な気がしますね。

(聞き手・西山里緒、構成・稲葉結衣、撮影・伊藤圭)

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