渋谷区にあるココナラのオフィスでインタビューに応じた南章行会長。
撮影:横山耕太郎
「ココナラのミッションはスキルを可視化し、必要とするすべての人に結びつけること。VC(ベンチャー・キャピタル)事業はココナラのミッションのど真ん中の事業です」
2022年2月8日に開かれたスキルシェアサービス・ココナラの記者会見。ココナラ創業者で、現在は会長職に就く南章行氏は、ココナラのVC事業への参入を発表した。南氏は、「なぜココナラがVCなのか」について説明を繰り返した。
一般的なVCは、ベンチャー企業に対して資金提供することが事業の柱だ。しかし、ココナラVCでは資金提供に加え、「ハイスキル人材」をスタートアップに紹介することで支援するのが特徴という。
ココナラの主力サービスは、450以上のカテゴリー50万件以上のサービスが出品される国内最大級のスキルマーケットで、2021年3月に上場したばかりだ。一見サービスとは無関係に見えるVC事業に乗り出す理由を南氏に聞いた。
元メルカリCTOなど10人が参加
ココナラVCに参加したハイスキル人材の10人。
提供:ココナラ
VC事業は、ココナラの子会社「ココナラスキルパートナーズ」が運営する。出資対象は、シード期(ビジネスの方向性だけが決まっている時期など)や、アーリー期(ビジネスを開始した直後の時期など)の国内スタートアップ企業で、ファンドサイズの目標は10億円~15億円。投資額は1件1000万円~5000万円を想定している。
最も多くの額を投資し、資金調達のまとめ役となる「リード投資家」の役割ではなく、あらゆるVCとの協調投資だけを担当する。
ココナラVCが擁するハイスキル人材として参加するのは、現状では10人。ココナラVCと業務委託契約を結び、活動期間やサポート内容などに応じて、ココナラVCから報酬が支払われる。
プロダクトマネージャーやエンジニア、PR、SEOの専門家など第1線で活躍する人材をそろえ、noteを運営するピースオブケークCXOの深津貴之氏、元メルカリCTOの柄沢聡太郎氏、弁護士の増島雅和氏、人事コンサルタントの曽和利光氏などの参加が発表された。
第1号の出資先は…
ココナラVCの第1弾の投資先となったCashi Cake inc. は、三木アリッサさんがアメリカで起業した会社だ。
提供:ココナラ
ココナラVCでは、南氏が投資先のスタートアップの助言役を担い、成長段階に合わせて、必要とされているスキルを持つ10人の人材とマッチングする。ケースによっては数人のハイスキル人材に依頼するという。
この日の記者会見では、ココナラVCの出資第1号企業も発表された。第1号に選ばれたのは、和菓子のD2Cブランド「Misaky.Tokyo(ミサキ・トウキョウ)」をアメリカで展開するCashi Cake inc.。
ミサキ・トウキョウのお菓子は、アメリカでセレブらが紹介したことなどで人気に火が付き、生産が追いつかない状態のため、調達した資金で生産体制を増強に充てるという。
同社の三木アリッサCEOもオンラインで記者会見に参加し、ココナラVCのハイスキル人材支援についてこう話した。
「将来的にはナスダックのIPOを目指しています。スタートアップはスキルもリソースもない中で、巨大な夢に向かって全力で走らないといけません。その中で専門家からフォローしてもらえるのは起業家にとって魅力的です」(三木CEO)
ココナラVCでは三木氏に対し、海外での店舗運営のノウハウや、多国籍の従業員が働くうえでの人事制度の整備などで協力するという。
VC設立の理由「ココナラ創業期の苦労」
ココナラのVC事業では、スキルを通じた支援が特徴だ。
提供:ココナラ
ココナラがVC事業を始める理由の一つは、南氏の原体験がある。
南氏は1999年、住友銀行(当時)に入行し、その後、企業買収ファンド・アドバンテッジパートナーズに転職。英オックスフォード大学でMBAを取得後、2012年にココナラを起業した。しかし「当時はあらゆる領域で困っていた」と振り返る。
「PR(広報)もSEO(検索エンジン最適化)もデザインもエンジニアも人事も全部わからないのに、自力でやるしかなかった。スタートアップで本当に大事なのは、新事業にチャレンジし、その仮説検証をすること。そこに全力を注ぎたいのに、僕がプレスリリースも書くこともありました」(南氏)
南氏が起業した10年前に比べ、スタートアップの起業数も増えた。起業に関する情報も得やすくなったが、専門スキルを持つ人材から直接のアドバイスが役立つ場面も多い。
「起業直後でお金がないスタートアップにとって、本当に優秀な人材に協力してもらうのは難しい。そこを変える仕組みを作りたかった」(南氏)
「気持ちよく」支援できる仕組みを作る
VCを立ち上げた2つ目の理由は、ハイスキル人材にとって、実際にスタートアップを支援するとなると、資金面などの課題があるからだ。
一般的なスタートアップ支援としては、顧問契約を結ぶこともあるが、多忙なハイスキル人材にとって長時間の契約を結ぶことは難しいという。
また資金面でも、現金報酬が十分にもらえず「もやもやした気持ち」を抱えがちだったり、ストックオプションをもらう場合などでは、その株の価値がなくなったり、逆に高額になりすぎてしまう事例もあるという。
そこでココナラVCではIPOやM&Aによってリターンが得られた時に初めて、報酬を受け取れる仕組みを採用している。
「すぐに報酬が得られるわけではないが、依頼を受けた時間で仕事をするという感覚ではなく、成功すれば報酬が得られる形。支援する側も心理的に気持ちよくサポートできると思います」
また将来的には、ココナラVCに参画するハイスキル人材も増やしていきたいという。
「会社で働くハイスキル人材にとっては、スタートアップ支援で大きなリターンが得られるという、夢のある新しい働き方を提示していきたいとも考えています」
“スキル”による支援、広めたい
記者会見で記念撮影する南氏。
撮影:横山耕太郎
スキルを通じたスタートアップ支援の仕組みを作る事も、狙いの1つだ。
南氏が起業した約10年前と違い、スタートアップへの投資額は、ここ数年伸び続けおり、資金面でのハードルは大きく下がった。
「スタートアップにお金を流すという面では、起業支援が成功してきている。これからはスキルもスタートアップに流していきたい。日本の知の結晶みたいなスキル保有者がこぞってスタートアップを応援するという世界になれば、もっと起業家も増えるはず」
また南氏は、VC事業の野望についてこうも語る。
「10年後20年後を振り返ったとき、『ココナラがVCを始めたからスタートアップの支援の流れができたよね』と言われるのが、成功の1つのイメージ」
新規事業を生み出す「DNA」を制度化
VCに挑戦する4つ目の理由は、会長である南氏が、あえて新規事業への挑戦を打ち出すことで、内外に企業としての姿勢を示すことにもある。
「ココナラが永続的に成長するためには、起業家精神を仕組みとして取り組む必要がある。今回のVC事業は、10年単位の話の一歩目です」
ココナラVC事業は、企業が「非連続の成長」をするための方法の一つだと南氏は話す。
「スキルシェアサービス・ココナラには大きなポテンシャルがあり、投資を続けていくのは当然。ただ私は、いい企業とはお金の力をうまく使える企業だと思っている。
事業がファイナンスを引っ張り、ファイナンスの面からもM&Aなども含め事業拡大を目指していく。ファイナンスでグループの力を伸ばすDNAを、今後10年で育てていきたい」
(文・横山耕太郎)