リリースしたアプリが多くのユーザーに支持されて、世界的にヒットする——。そんな成功を夢見ているスタートアップ企業は多いだろう。だが実際、夢を現実に変えるにはどうすればよいのだろうか。
ビデオメッセージツール「Loom」を開発し、現在世界1400万ユーザーを抱えるまでに成長させた同社の共同創業者兼CTO、ビネイ・ヒレマス(Vinay Hiremath)が、最初の100万ユーザーに到達するまでにどんなことに取り組んだのかを明かす。
僕たちが開発したアプリ「Loom」は、最近ユーザー数が1400万人を突破し、ユーザーの分布も230カ国に広がった。Loomはカメラとマイクとデスクトップ画面を同時に使って動画を録画できるビデオメッセージツールだが、使い途はさまざまで、ユーザーからこんなふうに使っていると聞くたびに驚かされている。
ヒレマスはまずProduct Hunt上でLoomをリリースした。
Vinay Hiremath
最近の成長は、コロナ禍でリモートワークやハイブリッドワークが増えたせいでもあるが、最初の100万ユーザーを達成したのはコロナ以前のことだ。
以降では、僕らのアプリがどのように100万ユーザーを達成したのかを説明しよう。
1. ユーザーの声を聞く
僕らのこれまでの成功はなんと言っても、Product Hunt(新しいプロダクトが投稿されるウェブサイト)上でリリースしたことも含め、ユーザーの声をよく聞いてきたことだと思っている。この「ユーザーの声を聞く」は、時間を経るごとに活動の幅を広げていった。
Loomは現在200カ国以上で使われている。
Loom
2016年にProduct Hunt上で行われた「Product of the Week」投票で、Loomは1700件弱の高評価を獲得。たった3カ月でユーザー数が0人から1万2000人超にまで増えた。プロダクト自体に興味を持ってくれた人が多かったが、僕たちの側でもできるかぎりユーザーとのオープンな対話をするようにした。そこから得られた教訓は次のとおりだ。
- Product Hunt上で活発に活動する:Product Huntには玄人ユーザーになりうる人がいるため、質問や懸念にはすぐに答えられるよう、チェックを欠かさないように。質問への回答というスタイルではなく、フォーラムにおける発言のように扱うことで、会話がおもしろい方向に転がることもある。その会話に加わることの価値を見せると、さらにフィードバックが得られるため、これは重要なポイントだ。
- Twitter上でも頻繁にツイートする:コメントするだけで登録はしていない人でも、プロダクトに関するツイートにはすべて反応しよう。こうすることでシェアされる可能性が高まる(ユーザーからのフィードバックを促し、どんな課題があるかを理解するために、僕は今でもTwitterをかなり活用している)。
- ユーザーとのコミュニケーションのルートをたくさん作る:ウェブサイト上に連絡方法を複数用意したり、メールアドレスが見つかりやすいようにするのもいい。また、ホームページ上でやりとりができるチャットボットを用意するのも重要だ。最近のユーザーはこういったツールを好むし、サイトを訪れてくれた人がユーザーになってもらううえで非常に役立っている。
- ちゃんと声を聞いているのだと示す:僕たちは早い時期から、新機能の要望はすべて文書化し、その内容は誰でも見られる掲示板の形にしてきた。どの機能が今後リリースされるか、どれが検討段階で、どれが最近リリースされたかの情報を入れたプロダクト・ロードマップを公開している。
ヒレマスによれば、Loomの成功の秘訣はシェアのしやすさにあるという。
Loom
2. 共有可能にする
Loomのユーザー数が急拡大した大きな要因は、動画の録画と共有のスピーディーさにあり、これが人気の秘密にもなっている(Loomでは動画の長さに関係なく、録画を終えるとすぐに共有用リンクが作成される)。
アップロードしたりファイルの拡張子を変えたりといった、それまでの動画ファイルにまつわる煩わしさをLoomでは排除している。この点は重要で、最近まで業務に使う動画ではそうしたツールが存在しなかった。TikTok、Instagram、Snapchat、helloなど、プライベート用では短尺で取り回しのいい動画はいくらでもあるのに、仕事に使う動画で使い勝手がいいのはLoomが初めてだった。
Loomは共有しやすいため、口コミが広がるのも速い。素晴らしい経験をしたら、同僚や友人、家族と共有したくなるのが自然の流れだ。僕らは当初からひとつのURLに統一したが、自然なコミュニケーションの流れをつくるうえではこれが重要な役割を果たした。
3. 指標を気にしすぎない
2019年にユーザー数が100万人を突破し、2022年の初めには1400万人を超えた。これはひとえに、ユーザーの問題を解決し続けた結果だ。
「ユーザーをサポートし、課題を解決する」ということこそが、僕らの原動力であり、僕自身のモチベーションになっている。2021年を振り返ると、コロナ禍でも勉強ができるよう学生たちをサポートしたり、起業家が資金を調達できるようにしたり、対面の会議や長々としたメールを減らすことに貢献したりしてきた。こうした結果が僕たちのやりがいになっている。
もちろん、プロダクトのリリースでユーザー数が大きく増え、成長を感じられるのはうれしい。投資家にとってはとても大事なことだ。けれど本音を言えば、そういう数字は一過性のものでしかない。毎日自分たちのしていることがどれだけ人の役に立っているかを感じることの方が、意義を感じるものなのだ。
4. ユーザーがなぜプロダクトを使うのかを厳密に理解する
なぜユーザーはLoomを使うのか。どこで使うのをやめるのか。なぜやめるのか。僕らは当初から、あらゆるものをトラッキングしていた。
プロダクトの中には、これを使えばこんな深刻な問題が解決できるのだから、すぐにでも使いたいと思わせるようなものもある。Loomのことも最初からそう感じて使い始めてくれたユーザーもいたけれど、重要なのは多くのユーザーが「これはいい」と感じる瞬間を理解することだ。試すだけでなく、日常的に使おうと思うようになるのはどのポイントなのかを理解することが、成長を遂げるためのカギとなる。
僕たちは当初、Loomに登録して動画を録画するときがその瞬間だと考えていた。しかし実際には、1本目の動画は単なる試し撮りにすぎなかった。Loomで作られた動画を受け取って視聴することではじめて、Loomの価値を感じてもらうことができ、その後の使用につながるのだ。
それが分かってからは(そして、その後の試行錯誤を経てからは)、Loomのユーザー獲得戦略を策定しやすくなった。
また、プロダクトのローンチ前にはユーザー行動について慎重に仮説を立て、プロダクトのロードマップの次のステップを明確にするようにしている。というのも、僕らは初期の段階でこんなことに気づいたからだ。
ひとたびリリースすると、リリース前に遡ってデータを収集することも、特定の見地からユーザーの行動を事後に捕捉することもできなくなってしまう。
そこで、通常より数日長く時間をかけて分析を行い、外部とのコミュニケーションを自動化することで、プロダクトライフサイクルの導入期に欠点や大ヒットから多くのことを学べるようになるのだ。