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“ブレない政治家”石原慎太郎氏「都有化目指した尖閣問題」実はブレブレだった。知られざる「2009年対談」の中身

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2009年10月、2016年開催の夏季五輪開催地決定(結果は落選)を前に記者会見した石原慎太郎・東京都知事(当時)。2022年2月1日、89歳で死去した。

REUTERS/Pawel Kopczynski

東京都知事など要職を歴任した石原慎太郎氏が2月1日、89歳で死去した。

石原氏はほぼ10年前の2012年4月に沖縄・尖閣諸島(中国名・釣魚島)の東京都による購入計画を表明。それが同年9月の尖閣国有化の契機となり、日中関係の悪化を招いた。いま日本を覆う反中世論の基礎をつくったと言っていいだろう。

その石原氏が実は、領土問題について、日中両国による「主権棚上げ、共同開発支持」を公言していたことはほとんど知られていない。

尖閣問題「棚上げ」に反対続けた石原氏

石原氏の自宅を弔問した岸田文雄首相は、報道陣に対して「あらためてその存在の大きさを痛感」と語り、ジャーナリストの田原総一郎氏は「批判もあるが、ぶれない政治家」(朝日新聞、2022年2月1日付)と評価した。

確信犯的な挑発で周囲をふり回し続けた印象が強いが、「死者に鞭打たず」との日本的伝統に従ってか、メディアに掲載された石原氏への評価は総じて肯定的だった。

石原氏を語るときに忘れてはならないのは、やはり尖閣問題だ。

50年前(1972年)の日中国交正常化交渉では、歴史認識と台湾問題についてまず合意したあと、尖閣問題が最後まで争点として残された。最終的には、田中角栄、周恩来両首相(いずれも当時)が「いまは触れないでおこう」と棚上げすることで暗黙の了解に達したとされる。

このとき自民党の参議院議員だった石原氏は、台湾との断交に反対し、反共(反共産主義)を旗印に党内グループ「青嵐会」を結成した。

青嵐会は1978年の日中平和友好条約にも反対。石原氏は日本外務省の尖閣問題棚上げを「弱腰」と批判し続けた。

さらに、平和友好条約が締結されたあとも、青嵐会は学生有志を派遣して尖閣諸島に灯台を建設させている。

この動きに続いて、右翼結社「日本青年社」が同島に自らの資金で航路標識用の灯台を建設。石原氏もこの灯台の許可申請を支援するなど、日本による尖閣実効支配を強化する行動を展開してきた。

尖閣「国有化」狙ってまずは「都有化」

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2012年9月、当時購入を計画していた東京都の調査団が撮影した尖閣諸島の風景。

REUTERS/TOKYO METROPOLITAN GOVERNMENT/Handout

そうした経緯のあと、10年前の石原氏の尖閣購入計画表明、さらには尖閣国有化があるのだが、その前に、国有化の事実そのものを知らない、あるいは詳細を忘れてしまった読者も多いかと思う。あらためて当時の経緯を追っておきたい。

石原氏がアメリカの保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の講演で、東京都として尖閣諸島を購入する計画を明らかにしたのは2012年4月のこと。

その理由について、石原氏は「本当は国が買い上げたらいいけどね、国が買い上げるとシナ(表現ママ)が怒るからね、なんか外務省がびくびくしてやがる」と説明。尖閣諸島は日本の所有であることを国家の意思として示すべきとの考えを示した。

石原氏は同講演の最後で「(尖閣に)日本の漁船が行くようになったら、外国の船が追っ払える」とも語っている。

「都有化」計画の狙いはそれだけではなかった。領土問題という妥協不可能なテーマを設定することによって日中関係を緊張・悪化させ、あえて中国から強硬な姿勢を引き出し、「平和ボケした」(石原氏)日本人の国家防衛に対する意識を高めることにあったと筆者は考えている。

当時の民主党・野田佳彦政権はまんまとその術中にはまり、2012年9月に魚釣島など3島の所有権を国として民間地主から買い上げ、国有化した。

この動きに対して中国側は、尖閣問題の棚上げという「暗黙の了解を日本側が一方的に破り、実効支配を強化した」と非難。それまで控えていた中国公船を大量に尖閣領海に送り込み、中国全土で反日デモを展開するなどの強硬対応に出た。それも石原氏の計算通りだったろう。

尖閣諸島の現在

国有化から10年。尖閣諸島では近年、日本の右派団体が雇った漁船が数多く領海に出現し、操業を名目にした「挑発活動」を続けている。

日本漁船の尖閣上陸阻止を狙う中国海警局の船が領海内に侵入して漁船を「追尾」するケースも増え、いわば「イタチごっこ」状態だ。

石原氏死去前日の1月31日には、尖閣の実効支配強化を主張する石垣市の中山義隆市長が自ら、主張を同じくする東海大学の山田吉彦教授とともに、魚釣島の「周辺海域実態調査」を実施している。

これらの動きから思い出されるのは、石原氏が先述のアメリカ講演の最後に語った「日本の漁船が行くようになったら、外国の船が追っ払える」という言葉だ。ただし、外国船を「追っ払える」という石原氏の想定とは真逆に「追いかけ回されている」実情ではあるが。

「主権棚上げに賛成」と石原氏のブレブレ発言

ここまで、石原氏の尖閣諸島との関わり、その影響をさまざまな形で受けている現在の尖閣をめぐる状況を紹介してきた。

しかし、当の石原氏は生前から、冒頭で触れた田原総一朗氏の「ぶれない政治家」との評価とは裏腹に、尖閣について「ブレブレ」のスタンスを露呈していた。このことはあまり語られてもこなかった。

一橋大学時代の同級生である凌星光・日中科学技術文化センター理事長(福井県立大学名誉教授)との対談記事(同センター会報『きずな 2009夏』)がその貴重な証拠だ。

東シナ海の日中中間線付近で中国が進めるガス田開発問題について、凌氏が「主権棚上げ」「中間線も大陸棚延長線も引かないで共同開発」すべきと主張したのに対し、石原氏は驚くべきことに次のように語っている。

『主権棚上げ、共同開発』の意見に賛成する。21世紀は温暖化問題など地球的問題に取り組まなくてはならない。軍備拡大競争をやるような時代ではない。それぞれの国の主権は尊重すべきだが、主権争いで戦争になるようなことは避けなくてはならない」

尖閣諸島の領有権について語ったものではなく、あくまで東シナ海ガス田開発の話、と弁解してもそれは無理筋だ。

石原氏は「主権争いで戦争になるようなこと」は避けるべきと言うのだから、尖閣諸島だけは別という論理は通らないだろう。

それにしても、石原氏はなぜ長年貫いてきた「(尖閣問題の)棚上げ反対」との信条を、自ら裏切るような発言をしたのか。

それを理解するキーワードが「五輪」だ。

対談相手の凌氏は筆者の取材に対し、石原氏発言の真意について、東京五輪に名乗りを上げた東京都(=2016年大会の開催地に立候補、2009年10月に落選決定)にとって、招致には中国からの支持が不可欠と判断したからだと語った。

五輪招致という実利のために、従来の「反中」イメージを薄める必要があったわけだ。対談の別の箇所で石原氏は、「私は反中でも反米でもない。『競い合い、共栄する』ことを主張している」とも発言している。

凌氏は「石原氏の発言は私の提言への答えでしたから、とくに驚きはなかった」と対談を回顧している。また、対談の内容は事前に石原氏に見せて了解をとったという。

ちなみに、凌氏は上記対談の最後で、石原氏の長男で元自民党幹事長(対談当時は幹事長代理)の石原伸晃氏について、「よく勉強していること、人間関係に幅があり、将来、有望だと思っている」と持ち上げている。

それに対し石原氏は、「自民党が引き続き政権を担って行けるのであれば、(伸晃氏は)首相になるチャンスがあるかもしれない」と語り、いわゆる“親バカ”ぶりをのぞかせた。凌氏によれば、石原氏は「うれしそうに話していた」そうだ。

「凡人」としての石原慎太郎

生前の石原氏の挑発的な発言は、世間からくり返し批判を浴びた。

2000年の「災害が起きたら三国人の騒じょう事件も予想される」との発言は、死去に際してさまざまなメディアに引用されている。それも含めて、在日コリアンや中国人、女性へのさまざまな差別発言は「ヘイトスピーチ」の先鞭をつけた。

東京都内の朝鮮学校への補助金削除、日の丸・君が代の強制および職務命令違反の教職員に対する懲戒処分強化なども、石原氏の都知事時代に導入されたものだ。

もちろん、本稿で触れたように尖閣問題について強硬な発言をくり返し、日中関係の「抜けないトゲ」にした責任はきわめて重い。

挑発的な発言や態度の数々と、対談でのネポチズム(=身内へのえこひいき)発言から垣間見える「凡人」ぶりとの、何とも形容しがたい矛盾。

それは石原氏がコンプレックス(=無意識のなかに抑圧された感情や観念の複合体)のかたまりだったことを示しているように筆者には思える。

強国化していく中国に対して日本国民が抱くコンプレックスを巧みにつかみ、それを「反中」へと昇華させた石原氏は、稀代のデマゴーグ(煽動的民衆指導者)だった。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。『21世紀中国総研』で「海峡両岸論」を連載中。

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