BASEは2つの新サービスについて発表した。
出典:BASE
「創業以来やりたかったことに、ようやく取り組むことができる10年」
ECサイト作成サービスの「BASE」は創業10年目(2012年12月創業)を迎えた。CEOの鶴岡裕太氏は2月9日に開催した決算会見の場で、次の10年についてこう意気込む。
BASEが新しく発表した内容は大きく分けると以下の2点だ。
- 月額利用料ありの新プラン「グロースプラン」を4月にリリース
- 消費者向け決済サービス「Pay ID」にて、今後後払い決済(BNPL)の提供を検討
BASEはコロナ禍で高まった“EC需要”の影響もあり、2020年から2021年にかけて大きく成長。2022年1月末時点の累計ショップ開設数は170万、2021年通期のGMV(サービス内の流通金額)は1000億円を突破した。
鶴岡CEOが語る「創業以来やりたかったこと」は何なのか。発表内容を解説しよう。
月間売上16万円以上なら手数料が安くなる新プラン
新プランを発表するBASEの鶴岡CEOと、“BASEオーナー応援団長”を務める香取慎吾さん。
出典:BASE
まず、1点目は新プランについてだ。BASEは従来、初期費用および月額利用料は0円で、1オーダーあたり決済手数料3.6%+40円、サービス利用料3%の料金プランを提供してきた。
これは初期費用が抑えられ、また注文が入らなければ加盟店の負担はないため、コロナ禍などで「売り上げの見込みは未知数だが、ECを試してみたい層」に好評だった。
新プランのグロースプランでは、月額サービス利用料5980円が固定費としてかかるようになる一方で、都度発生する手数料は2.9%のみになる。
新プランは従来プランと比較すると最初は固定の月額利用料の分、従来プランより高くなるが、月間16万円を超えると逆転する。
図:BASEリリースより、Business Insider Japanが作成(2022年2月10日時点)。
月間売上に対する総手数料(決済手数料+サービス利用料)を単純計算してみると、月間16万円を境にグロースプランの方が手数料を抑えられる。
月間売上が16万円を超えるような加盟店にとって、新プランはお得だ。しかし、BASE側からすると、多くの(売り上げの大きな)加盟店が新プランに移行してしまうと、収益に影響を与えかねない。
収益への影響について、BASE広報はBusiness Insider Japanの質問に対し「利益ベースでは短期的には影響があると思いますが、長期的には全体のGMVを伸ばしていけると考えています」と回答している。
BASEは3つのKPIを定めており、1ショップあたりのGMVはそのうちの1つ。
出典:BASE
BASEの1ショップあたりの月間平均GMVは2021年第4四半期で17万円であり、「今までは個人やスモールチームで、売り上げがそこまで大きくないみなさま(をサポートすること)が創業以来のテーマ」(鶴岡氏)であることから、既存加盟店の移行による収益減はそこまで大きくないだろう。
Shopifyなどをけん制、収益性の高い加盟店の獲得目指す
BASEは現在、個人またはスモールチームであまり売上規模が大きくない加盟店にシェアがある。
出典:BASE
今回の新料金プラン導入の背景には「BASEで取れていたはずのお客様が、我々を使っていただけていないのではないか」(鶴岡氏)という考えがある。
つまり、現在は競合他社に、売上高の大きない顧客=より収益性の高い顧客を取られている状況にある、という懸念だ。
発表会や決算会見の大部分では競合の具体名は避けられたが、唯一鶴岡氏の口から出た名前は、カナダ発の大手ECサイト作成サービスの「Shopify(ショッピファイ)」だ。
「世界だとやはりShopifyがスターフロントとしてはリードしているが、(BASEは)今のところShopifyほどの(事業)規模は予想していない。Shopifyが使えないような売上規模(の加盟店)はすべてカバーしたい」(鶴岡氏)
従来プランは月間11万円を超えればShopifyのベーシックの方が安かったが、月間53万円を超えるとグロースプランが最安となる。
図:各社ホームページの情報より、Business Insider Japanが作成(2022年2月10日時点)。
実際、BASEの従来プランでは月間売上11万円前後から、Shopifyの下位プランである「ベーシックプラン」(月額29ドル)の方が手数料が安くなる※1。
これに対し、BASEの新しい「グロースプラン」であれば、月間売上54万円の場合、単純計算で総手数料は2万1640円。Shopifyの「ベーシックプラン」では2万1690円※1と、逆転する。
BASEのグロースプランが最安になる売上規模を図式化した。なお、メルカリShopsの手数料無料キャンペーンは図上では考慮していない。
図:各社ホームページの情報より、Business Insider Japanが作成(2022年2月10日時点)。
ちなみに、鶴岡氏はBASEのグロースプランを「他社より安い」とアピールするが、Shopifyだけではなく国内競合である「STORES(Hey)」や「メルカリShops(メルカリ)」※2の手数料を計算すると、グロースプランが最安値となるのは月間売上55万円を超えた時だ※1。
※1 Shopifyの手数料は、日本の購入者が「Shopify ペイメント」でJCB以外の日本のクレジットカードを利用、1米ドル=115円として計算。
※2 メルカリShopsは月額利用料0円+決済ごとに10%の手数料だが、最初の売上10万円分は手数料無料となるキャンペーンを実施している(終了日未定)。
各ECサイト作成サービスには掲出できるプラットフォームや支援機能がプランによって異なる。手数料だけで優劣を決めることはできないが、BASEが今後注力していく売上規模であれば「業界最低水準」(鶴岡氏)と言って、差し支えないだろう。
後払いは自社開発、Pay IDアカウントごとに与信審査
BASEもBNPL(Buy Now Pay Later:後払い)市場に参入する方針。
出典:BASE
グロースプランの提供がBASEが今まで取り逃がしていた加盟店開拓の施策とすれば、もう1つの「後払い決済(BNPL)の提供」は新規だけではなく既存のBASE加盟店にも影響する施策だ。
鶴岡氏は後払い決済について「検討中」とし詳細は濁したが、決算会見の質疑応答で「大部分は自社開発」「クレジットカードのような機能をアジャストしていく」とした。
「(米Block傘下の)Afterpayに近い」とも話していることから、自社の決済アカウントサービス「Pay ID」のユーザーに対し、与信審査をして個別に利用上限額を設定し、ユーザーは翌月一括もしくは数回に分けて利用金額を支払う形式を想定しているようだ。
BASEはすでに「後払い」を提供しているが、これはBASE自身ではなくAGミライバライによるもの。
出典:BASE
なお、すでにBASEではAGミライバライに委託する形で、後払い(請求書が後日自宅に届き、コンビニやLINE Payで支払える)を提供しているが、AGミライバライは決済ごとに審査しているのに対し、新しいPay IDの後払い決済では「アカウントごとの与信審査」になる点が大きく異なる。
クレジットカードを持たない/持てないユーザーや、コンビニ払いを利用していたがコロナ禍で余計な外出を控えたいユーザーにとって、後払いは新たな支払いの選択肢となり、GMVの増加に寄与することが期待される。
競合を気にせず、BASEがあるからBNPLをやる
BNPL市場は昨今盛り上がりを見せている。
出典:BASE
一方で、国内のBNPL市場を見ると、2021年7月に米PayPal(ペイパル)が国内スタートアップのPaidy(ペイディ)を3000億円で買収した。そのほかにも、2002年からサービスを展開する「NP後払い(ネットプロテクションズ)」も存在する。
なぜBASEはECショップ市場と同様またはそれ以上に競合ひしめく状況に、独自の後払い決済を提供するのか。
「Pay ID」はBASEを使うECショップやPAY.JPの支払いAPIを使うサイトで利用できる決済アカウントサービスだ。
出典:BASE
鍵を握るのはPay IDだ。Pay IDはBASEが唯一「消費者向け」に提供するサービスで、BASEの加盟店や、同社傘下の「PAY.JP」の決済APIを採用する一部のECサイトでのみ使える。
厳密にはPay ID自体が決済するのではなく、Pay IDには氏名や住所などの購入者・発送先情報と、クレジットカードやキャリア決済、コンビニ払いなどの既存の決済方法を紐づけておく。
購入者はいずれかのサイトでの購入時にほぼ1クリックでPay IDを作成でき、その後は他のBASEやPAY.JP導入サイトで、それらの情報を新たに入力することなく購入できる、という仕組みだ。
BASE加盟店にあるPay IDの登録フォーム。名前や住所、支払い方法を入力した後に聞かれるため自然な流れで登録できる。
撮影:小林優多郎
ここでポイントなのは、Pay IDは主にBASE加盟店むけのアカウントであり、他社が入り込む余地がないという点だ。Pay IDに紐づけられる決済方法はもちろん、実際の決済画面での表示順序の仕方までBASEの一存で決められる。
すなわちBASEプラットフォームでは確固たる優位性がある。逆に言えば、BASEプラットフォーム以外では、ほとんど活用の幅がない。シンプルに言えば「BASE(Pay ID)の後払いは専用サービス故に、競合が発生しない」。
実際、鶴岡氏も決算会見で後払い決済の参入について「他のプレイヤーと競い合うことにはならない」と明言。また、「(BASEが)ECにプラスして決済の会社と言ってもらえるような10年にしたい」とも語っており、新プランに合わせて後払い参入が同社の肝入り施策なのは間違いなく、その動向にはこれからも注目だ。
(文、図版・小林優多郎)