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コロナで出向、その後に転職した人、戻った人…。24人を社外出向させたベンチャー企業で起きたこと

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コロナ禍で他社への出向を経験したアソビューの社員3人。出向を告げられたとき何を思ったのだろうか?(撮影時にのみマスクを外してもらいました)。

撮影:横山耕太郎

コロナ禍で注目された「社員出向」。国は2021年2月から社員出向に対して助成金を支払う制度を始めたが、それよりもずっと早く、2020年5月に社員出向を始めたベンチャー企業があった。遊びやレジャー予約サイトを運営するアソビューだ。

アソビューでは当時約130人の従業員(アルバイトなど含む)が働いていたが、そのうち24人の社員を1年間、他の企業に出向させた。出向を終えてアソビューに戻ってきた社員は14人、出向先にそのまま転職した社員は8人、2人の社員は別の企業に転職するなど離職した。

社員出向により会社の存続と、社員の雇用は守られたが、結果として人材の流出につながったことも事実だ。

出向を告げられた社員たちは、その時どう思ったのか?そして他社への転職を決めた社員は、1年後に何を思ったのか?

出向を経験したアソビュー社員3人に話を聞いた。

アソビュー:リクルート出身の山野智久氏が2011年に起業。コロナの影響で2020年4・5月の流通金額は前年比95%減少し、予定していた大型の資金調達も止まった。山野氏は2020年4月、noteなどで社員の受け入れ先企業を募集したところ、80社が集まった。アソビューはその後、オンラインチケットシステムなどSaaS事業への転換が奏功し、V時回復を達成した。

「遊び」から「弁護士」の衝撃

向井地さんがインタビューに応じる様子

新卒2年目のだったアソビューの向井地宏明さんは、弁護士ドットコムに出向した。

撮影:横山耕太郎

「人事部から『(出向先は)弁護士ドットコムに決まりました』といきなり連絡が来ました。これまでの『遊び』から『弁護士』ですよ。最初はこの先どうなるのかと不安もありました」

アソビューでマーケティングを担当していた新卒2年目・向井地宏明さん(26)は、出向先を告げられた時をそう振り返る。

名古屋市内の大学に通っていた向井地さんは、大学3年生の時に1年間休学し上京。アソビューで1年間のインターンを経験し、その後、新入社員としてアソビューに入社した。

他のベンチャー企業からも内定をもらっていたが、将来的には起業にも興味があり「事業企画や経営に携われる」とアソビューを選んだ。向井地さんは入社後、サイト訪問者を増やすためのマーケティング業務や、観光施設へのチケットシステム事業を担当していた。

社長が発表した社員4分の1の「出向」

忍び寄るコロナ危機を感じたのは、2020年3月に入ってから。当時既にチケット売り上げがじわじわと下降していたからだ。

「春分の日(3月23日)の後でコロナ(の感染者)が一気に増えてチケット売り上げが急落し、『大丈夫か?』と思ったのを覚えています」(向井地さん)

2020年4月6日、オンラインで開かれた全体ミーティングの場でアソビューの山野社長は、社員の約4分の1について他社へ出向させる方針を発表した。

山野社長は当時について、コロナ禍での経験を記録した著書でこう書いている。

「実際に出向メンバーの選定には頭を悩ませました。社員から「なぜ僕が/私が出向しなければならないの? 会社に残れる人もいるのに……」という反応が出るのは当然だろうと予測していたからです。(中略)

強調しておきたいのは、決して社員個別の「評価」とか「期待」とか「成長ポテンシャル」などで選別したわけではないということです。選別の判断基準になっている個々の能力は「期待能力」ではなく「発揮能力」。できそうかどうかではなく、その人が過去に発揮した「事実」に基づきグループ分けしたにすぎません」(『弱者の戦術』より)

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アソビュー社長の山野智久氏。コロナ禍では、社員の雇用を守るため出向先をSNSで募るなど奔走した。

撮影:横山耕太郎

「出向対象となる休職者のリストが、チャットツールで送られてきて、自分の名前を見つけた時は、『入社2年目でいきなりこんな状況になるのか?』と呆然としました。同時に、『自分が経営者だったとしても、僕の仕事の出向優先順位は高いだろうな』と、しょうがないという思いもありました」(向井地さん)

向井地さんは4月9日から休職。休職期間は、プログラミングを書籍やアプリで勉強したり、運動したりする時間にあて、規則正しい生活を続けたという。「休職期間を意味のあるものにしないといけないと思っていた」と、向井地さんは当時を振り返る。

約3週間の休業後、人事部から弁護士ドットコムへの出向を告げられ、そのわずか2週間後には、フルリモートでの勤務が始まった。

マーケ担当の予定が、電話対応に

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向井地さんが配属されたのが電子契約「クラウドサイン」の部署。クラウドサインはコロナ禍で需要が急拡大した。

出典:弁護士ドットコム「2022年3月期 第3四半期決算説明資料」

弁護士ドットコムでの業務内容は、同社が手掛ける電子契約サービス「クラウドサイン」に関するマーケティングを担当すると伝えられていた。しかし当時はコロナ禍で電子契約サービスへの問い合わせが急増。向井地さんは急きょ電話対応に追われ、1日に約40件の電話を受けることもあった。ただ秋頃には電話対応も落ち着き、ウェブサイトのリニューアルや、契約を増やすためのSEO施策にも関わった。

向井地さんは、上場ベンチャー・弁護士ドットコムで学ぶことも多かったという。

「アソビューよりも経験を積んだ中途採用の人材が多く、組織体制もより縦割りで成熟した組織体制でした。入社2年目で、全く違う企業の内側を見られた経験は大きい

出向から1年。アソビューに戻るのか、弁護士ドットコムを含め、別の企業に転職するか決断を迫られたが、向井地さんはアソビューに戻ることに決めた。

「出向中に転職サイトに登録してみて、弁護士ドットコムでの経験を評価してくれる会社も実は多くありました。

ただ外に出てみてアソビューを客観的に見てみて、うちの会社がやっていることは素敵だなと思えました。また経営に関われるポジションを提示してもらえたので、まだアソビューでやることがあると思っています」

デジタル広告担当から、小売り企業に出向

加納麻未さんがインタビューに応じる様子

アソビューでは、デジタル広告運用などを担当していた加納麻未さん。

撮影:横山耕太郎

1年間の出向後、出向先の企業に転職した社員もいる。

『この会社に残ってくれる考えはありますか?』と出向先から聞かれ、アソビューに戻るかどうか悩みました。それぞれの会社で何ができるか紙に書きだしたりもして。でも最後は、裁量の大きさを考えて出向先に転職を決めました」

アソビューから輸入商材をあつかう小売業ベンチャー企業に出向した加納麻未さん(36)はそう話す。

加納さんは2019年7月に、広告代理店からアソビューに転職。入社の決め手となったのは、アソビューCOO(最高執行責任者)の宮本武尊さんと面接で意気投合し、「一緒に働いてみたい」と思ったからだ。

アソビューでは、主に自社サービスへ誘導するためのデジタル広告運用を担当。しかし、コロナ禍でアソビューの予約サイトへの訪問者は激減した。

『広告止めて』と言われて、仕事がなくなってしまいました。社員対象者が発表された時は、『私は対象だろうな』と予想していました」

出向先を決める面談を約4社受けたが、なかには加納さんのスキルとはマッチしない職種もあり、人事も出向者のマッチングで混乱していると感じることもあった。

ただ加納さんは、出向することは前向きだった。

「休業中は給与が2割減になったため、早く出向したいという思いがありました。あとそれ以上に、アソビューに籍を置きながら他の企業で働くことは、リスクを負わずにチャレンジできるので」

「アソビューへの恩返し」は結果を出すこと

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撮影:今村拓馬

加納さんの出向先の小売企業は、コロナ禍での巣ごもり需要を受けて、主力の輸入商品が売れに売れている状況だった。

急激に事業が拡大する中で、加納さんはECサイトへの誘導を増やすデジタル広告の運用を任された。

当時は広告の効果を判断する指標がなかったため、加納さんはデジタル広告の費用対効果を判断する基準作りを始めた。1年間の出向期間が終わるころ、加納さんは初めて本社を訪問。役員らと対面で顔を合わせ、広告の運用指標を提案し、採用された。そして加納さんが東京に戻ってから、残留を求めるオファーを受けた。

進むべき道を迷っていたとき、背中を押してくれたのも、アソビューへの入社のきっかけともなった宮本COOだった。

「宮本さんはフラットに私のキャリア考えて、『他社に行くならデジタルマーケティングで1番を取ってこい』と送り出してくれました。アソビューには、デジタルマーケの知識が豊富なメンバーに囲まれていましたが、一方で、またいつ広告への投資がなくなるか分からない状況でもありました」

加納さんがアソビューを去ってから半年以上が経過したが、アソビューとのつながりは続いている。

「元マーケの同僚との『肉の会』(食事会)も定期的に開いていますし、『新しいインプットが枯渇している』と宮本さんに話したら、来週また会うことになりました。

出向先でちゃんと結果を出すこと。それがアソビューへの恩返しだと思っています

帰ってこなかった事実「忘れてはいけない」

福田利彰さんがインタビューに応じている様子

2013年にアソビューに入社した福田利彰さん。最古参の社員の一人だが、福田さんも1年間の社員出向を経験した。

撮影:横山耕太郎

ただ、出向を命じられたすべての社員が、加納さんやや向井地さんのように出向を前向きに受け入れられたわけではない。

山野社長の著書には、出向が1番最初に決まったケースで、対象の社員から泣きながら電話があり、「なんでこんなことしなきゃいけないのか、わからない……」と泣きながら言われ経験を明かしている。

「出向から帰ってこなかったり、離職したりした社員がいることも忘れちゃいけない」

アソビューから小売企業に出向した福田利彰さんは、そう話す。福田さんは2013年に入社した最古参の社員の一人。出向の対象に選ばれた時でも、大きなショックはなかったのは、山野社長や会社を信用できていたからだという。

「出向先との関係を考えたら、失敗はできないし、ちゃんとした人材を選んで出向させないといけない。『あなたは必要ない』と言われた訳ではないと思えました

副業でナレーターも務める福田さんは、1年間の出向後、仕事と副業の両立がしやすいアソビューに戻ることに迷いはなかった。

「出向前に同じマーケティングのチームは7人いたのですが、エンジニアをのぞいてみんな出向しました。またみんなと仕事ができると楽しみに出向から帰ってきましたが、そのまま転職したメンバーもおり、チームも解散になりました」

福田さんは「出向制度が間違ったとは思っていない」とした上で、こう話す。

「アソビューが好きだった人が離れていったことは、会社としてきちんとして振り返らないといけません。出向の痛みも受け止めながら、組織として前に進んでいけたらと思っています

アソビューの山野社長は、「社員出向」についてこうコメントした。

「社員出向は、事業の継続と従業員の雇用維持を両立させるための選択でした。全てが順風満帆という形にはならなかったかもしれません。しかし 『大切な仲間を失いたくない』という経営者としての思いに背くことなくここまで来れたのは、出向先として受け入れてくれた企業、いろんな感情をグッと堪えて出向制度を理解してくれた全てのメンバーのおかげだと思っています」

(文・横山耕太郎

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