「もったいない」をAIの力で解決。アクセンチュアが挑むフードロス問題
SDGsの一つである「つくる責任 つかう責任」でも問題提起されているフードロス。貧困地域で飢餓が発生している一方、先進国では大量の食品廃棄が深刻な問題となっている。
フードロスはさまざまな段階で発生するが、中でも外食産業や食品小売業でのフードロス削減は、SDGsの観点からはもちろん事業活動の上でも重要だ。そういった課題に最先端のAI技術とデータ活用を駆使した支援を行っているのが、総合コンサルティング企業・アクセンチュアだ。
業界が抱えるフードロス問題にどのように挑んでいるのか。アクセンチュアのAIグループでプロジェクトを牽引する2人に、持続可能な社会に向けた取り組みを聞いた。
外食産業のフードロスは、なぜ発生するのか?
日本全体で、食べられるのに廃棄されている「可食部のフードロス」は年間570万トン。国民一人当たりに換算すると、お茶碗約1杯分(約124g)の食べものが毎日捨てられていることになる(農林水産省及び環境省「食品ロス量(令和元年度推計値)」より)。
フードロスの発生要因は生産者や販売者、消費者といった立場や業種により多岐にわたる。例えば、外食産業や食品小売業のフードロスは、賞味・消費期限切れ、返品、輸送中の破損といった流通段階でも多く発生していて、この見直しが喫緊の課題となっている。
そもそも、なぜ流通段階でフードロスが発生するのか。 サプライチェーンの最適化に詳しいアクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループの貝沼佑亮氏は、「問題は大きく二つ。一つは計画精度が低いことで、もう一つは計画と連動した形でサプライチェーンを最適化できていないこと」だと語る。
「計画精度が低いと調達が過剰になり、消費しきれないまま賞味期限が切れて廃棄されます。また、計画精度が高く正しい調達ができても、消費者に届くまでの過程で倉庫への入庫量や入庫タイミングの計画と連動していなければ、実際の消費タイミングとずれて廃棄につながります。
また外食産業では、店舗の来客見込みや人員計画と調達が連動していないことも課題です。その日にお客さんは何人来るのか、どのくらいの仕込みが必要なのか、そのためにどのように人員を配置する必要があるのか……など多くの観点が必要で、人の力だけでは予測や割り出しが難しい状況です」(貝沼氏)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループの貝沼佑亮(かいぬま・ゆうすけ)氏。アクセンチュア入社後、小売・飲食・メーカーなど複数業界でAIを活用したSCM(サプライチェーンマネジメント)改革に従事。AI開発/導入のみならず、AI活用を前提としたBPR(業務の見直し・再設計)やAIの業務定着支援まで含めた幅広い支援を行う。
外食産業・食品小売業の中でも、特に鮮魚など生ものを扱う場合は、1日で廃棄が発生することも珍しくない。 AIを活用したフードロスに取り組むアクセンチュアのデータサイエンティスト 山口莉奈氏は、飲食チェーン店の現場を見て感じた問題を次のように語る。
「店長の皆さんは、メニューを欠品させてはいけないという気持ちが強い。結果として過剰供給が起きていました。また、毎日忙しく営業する中で、販売実績の数値を分析して発注を行う余力もありません。
どうしても『勘と経験』に頼らざるを得ないところも多く、これもフードロスが増える要因の一つだと感じました」(山口氏)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループの山口莉奈(やまぐち・りな)氏。アクセンチュア入社後、小売業を中心としたシステム開発や導入を経験した後にAIグループへ異動。現在はデータサイエンティストとして、AIアルゴリズムの開発やAI活用のためのBPRに従事。
貝沼氏は「こういった状況は、高精度のAIを活用することで解決できる余地がある。フードロスが減ればお店の利益率も上がります」と語る。それを具現化した取り組みを行っているのが、「あきんどスシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESとのプロジェクトだ。
スシローとのプロジェクトで実装した、5つのAI
提供:FOOD & LIFE COMPANIES
アクセンチュアが支援しているFOOD & LIFE COMPANIESは、早くから経営にデータを取り入れてきた。豊富なデータを有効活用するためにAIを導入し、サプライチェーンを見直す──そのパートナーとして選ばれたのがアクセンチュアだった。
「クライアントの経営陣とディスカッションを進めていく中で、AIを活用する事で、本社・店舗のオペレーションを効率化できるとともに、結果としてフードロス削減やグローバル展開の加速を実現できると考えました」(貝沼氏)
最初に取り組んだのは、スシローが持つ膨大な販売データをAIで分析し、需要予測を立て、食材の調達精度を向上させることだ。山口氏はそのアルゴリズムを構築。AIを導入したことにより、調達に変化が生まれたという。
「スシローの店舗では、以前から過去の実績を参考にしつつ発注をしていたのですが、過去のデータからだけでは判断が難しいケースもありました。
それは、頻繁に発表される期間限定などの新メニューです。スシローの強みであり来店されるお客様の楽しみでもありますが、過去の実績がないので発注は勘に頼るしかなかったのです。そこで、条件などが似ている過去のメニューで得られた情報をAIで分析し、より適切な判断材料を提供できるようにしました」(山口氏)
現在スシローでは、5つのAIを連動させる取り組みを進めている。前述のAIは、本社での長期需要予測にあたる。これによって、先々の販売計画が精密になり、無駄のない全社調達につながる。この全社調達に連動するのが店舗での需要予測AIだ。これは、各店舗の発注とネタの仕込み量を精密に予測する。この予測に連動し、レーン投入量やタイミングを割り出すAI、タッチパネルのメニュー表示を最適化するAI、そして、働く人のシフトを最適化するAIが連動して動いているという。
「5つのAIが連動することで、無駄な発注や仕込みを抑制できます。また、来店されるお客様の満足度が最大化するようにスタッフを配備し、レーンにそのお店の特性を踏まえたメニューを提供することが可能となります」(貝沼氏)
目標は、売上げに占める廃棄金額の割合を減らすことだ。2022年1月下旬には先んじて2つのAIが全店舗に導入され、それだけでも目標の半分の削減が見込めている。今後の活用にも期待が膨らむ。
「今まで見てきたコンサルタントとは違うね」
Shutterstock / ultramansk
「本当に泥臭く現場に寄り添ってやってくれるんだね。いままでのコンサルタントとは全く違うよ」
これは、貝沼氏と山口氏がクライアントから掛けられた忘れられない言葉だ。アクセンチュアは変革の実現まで一気通貫で手掛けるコンサルティングファームであり、その姿勢こそが大きな強みとなっている。
戦略から実行まで網羅するには、当然現場の動きを把握する必要がある。貝沼氏も山口氏も、日本全国のスシロー店舗も何十件も回り、時には店舗の冷蔵庫に食材を収納する作業も行った。
「私がアクセンチュアに入った理由は、一つの仕事に留まらず、さまざまな業種業態に携わることができるから。泥臭く現場に足を運び実態を知り、お客様の企業の一員になったつもりで動いています」(山口氏)
多くの店舗で得た現場知識の深さは信頼へとつながり、最初はAI導入に懐疑的だった店長が味方になってくれたことも。そういった地道な取り組みを通して現場の空気を変えていくことも、AI導入をスムーズに進めるコツだという。
「AIは、ただ開発・導入しただけでは何の意味もありません。現場が納得してAIを使い、現場にAIが定着して定常的な改善が得られてこそ意味があり、それを支援するのが私たちの役割です」(貝沼氏)
データサイエンスの最前線で働く。その魅力は?
アクセンチュアでAI活用に携わるやりがい。それは常に世の中の一歩、二歩先を進み、まだない価値を作り出すことにある。そのために必要な素質を山口氏はこう語った。
「大事なのは、何をやるにも好奇心を持つこと。アルゴリズムの構築では、トレンドや最先端の動きを知りたいと思う気持ちが重要ですし、コンサルティングでもお客様の業務内容や経営課題を経営レベル、現場レベルで分かっていたいと思わなくてはいけません。
アクセンチュアでは日々多くの情報が共有されるし、学びたい分野があれば豊富な社内トレーニングもあります。知的好奇心や探究心が強い人が活躍できる環境です」(山口氏)
日々最新技術のインプットとアウトプットを行い、現場に寄り添いながらもAI活用を進めている二人。最後に今後目指す未来を聞いた。
「まずは、スシローに導入した5つのAIによる連動を定着化させて、活用させることが目標です。AIはビジネスに欠かせない技術になりつつあります。これまで人の力だけで行っていたところにAI技術を活用することで、AIと人とが共存し、社会全体を良くする手助けをしていきたいですね」(山口氏)
「スシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIESとの取り組みを起点に、日本の飲食業界や食品業界にAI導入を進めて、サプライチェーン全体を改善していきたい。
また、今はサプライチェーンを中心にAIを導入していますが、それ以外の領域にもAIを連動させたいと思っています。例えば、マーケティングやCRM、商品開発やR&D(研究開発)とも連携させることで更に効果を発揮するはず。それによって、会社全体を最適化することに挑戦していきます」(貝沼氏)
今後、ビジネスの課題解決においてAIが大きな存在感を持つことは間違いない。アクセンチュアはグローバルから集まる最先端の技術と培ってきた知見で、先頭を走る。その最前線で働くことは、自らのスキルアップはもちろん、働く上での大きなモチベーションになることだろう。