2021年12月期通期決算について説明する、永田暁彦CEO(左)と出雲充社長(右)。
出典:2021年12月期通期決算説明会よりキャプチャ
「2026年には、1000億円を目指していく」
微細藻類の「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」や廃食油などからバイオジェット燃料の開発を手掛けるバイオベンチャー・ユーグレナの出雲充社長は、2月14日に開催された2021年12月期通期決算説明会(※)の冒頭で力強くこう語った。
※決算期を9月末から12月末に変更する移行期間のため、2021年期は2020年10月から2021年12月までの15カ月間が決算期となる。
2021年は、ユーグレナにとって飛躍の1年だった。
6月には、同社にとって念願だった自社で製造したバイオジェット燃料を使った飛行機のフライトを実現すると、売上高も2020年9月期(2019年10月〜2020年9月)の133億円から、2021年12月期(2020年10月〜2021年12月)では過去最高となる344億円に成長。業績予想から約14億円上振れする着地となった。
2021年12月期通期決算。15カ月分ではあるものの、過去最高の売上高となった。
出典:2021年12月期通期決算説明および今後の事業展望資料より引用
なお、実質業績ベースの営業利益は約65億円の赤字。これは、2021年6月に青汁大手のキューサイを連結子会社化する際に生じる棚卸資産ステップアップ費用化に伴う約48億円の赤字を含んだ結果だ。独自の財務指標とする調整後EBITDAは約13億円の黒字となった。
今回のユーグレナの決算説明会で注目すべき点は大きく分けて2つある。
1つ目は、ユーグレナグループの主力事業である「ヘルスケア事業」の現状と、それに伴う今後の業績予測。そして2つ目は、2025年に完成を目指して進めている、バイオ燃料の商用プラントの建設計画の進捗だ。
特に今回の決算では、ユーグレナとして初めて、バイオ燃料事業のインパクトを数字で示している。
青汁のキューサイ連結で売上高は過去最高を更新
セグメント別の売上高と調整後EBITDA。グループ全体の売上高は、前四半期からほぼ横ばい。広告投資に連動する形でユーグレナの既存事業の売り上げは微減し、キューサイの売り上げが微増している。ただ、売上高の横ばいは「想定通り」としている。
出典:2021年12月期通期決算説明および今後の事業展望資料より引用
2021年12月期の売上高が過去最高となった理由として、決算期の移行に伴い15カ月分の計上となったことや、キューサイの売り上げが第4四半期から計上された点がまず挙げられる。キューサイは四半期単位で60億円を超える売り上げがあることから、ユーグレナグループ全体の売上高が大きく伸びることは予想の範囲内だ。
ただ、その中で忘れてはいけないのは、2021年11月に発表された第4四半期決算において、キューサイの売り上げを除くユーグレナの既存事業の売上高も、従来の決算期と比較したときに過去最高となる約170億円(前年同期比で37億円の増収)を記録している点だろう。
ユーグレナグループ全体の売り上げに占めるキューサイの割合は確かにかなり大きい。しかし、ユーグレナの既存事業も着実に成長している。
2021年の第5四半期(2021年10月〜12月)のユーグレナの主力事業であるヘルスケア事業(キューサイを除く)の売り上げは約46億円。前四半期比(2021年7月〜9月)では減少しているものの、前年同期比(2020年10月〜12月)では約7億円の増収となっている。
永田暁彦CEOも、
「キューサイを除いても、しっかりと成長していることを主張させていただきたいと思います。その上に非常にシナジー効果のあるキューサイの売り上げが乗ってきて、全体的な成長が加速しているというのが現状です」
と強調している。
2022年12月期の業績予想。売上高は480億円を見込む。
出典:2021年12月期通期決算説明および今後の事業展望資料より引用
14日の決算説明会では、今期の業績予想と中長期にわたる事業計画についても発表された。注目すべきは、今期(2022年1月〜12月)の業績予想だ。
キューサイの売り上げが連結後初めて通年分計上されることもあり、2022年12月期の予想売上高は15カ月分を計上した2021年12月期をさらに上回る480億円。同じ期間に相当する2021年1月〜12月までの売り上げ(約305億円)と比較すると、約175億円増(57%増)と大幅な増収を見込んでいる。
2021年1月〜12月のキューサイ分を除いた売上高は約178億円だった。キューサイの売上高は、6カ月分で合計約126億円ほど。今期、キューサイの売り上げが12カ月分計上されたとしても、480億円の売上高を達成するにはさらなる成長が不可欠となる。
永田CEOは、前述した通り、ユーグレナの既存事業が継続して成長していることや、キューサイのM&Aに伴う業務などの統合プロセス(PMI)が順調に進んでいることなどから、安定した成長を予想していると語る。
加えて、2020年から販売を開始している同社の実証プラントで製造するバイオ燃料(2021年1月〜12月の売り上げは6200万円)や、肥料などの新しい事業領域も一定数売り上げに貢献していくと見通してる。
2022年には2023年以降に向けた成長投資もさらに進めていくとしており、
「2023年に関してもさらに10%以上の成長、計算すれば(売上高で)500億円を超えていくということを示させていただいています」(永田CEO)
と強気な業績予想の背景を語った。
バイオジェット燃料商業化で事業規模1000億円へ
2023年以降も、高い成長率をキープしていくために、成長投資を進めている。
出典:2021年12月期通期決算説明および今後の事業展望資料より引用
2023年にヘルスケア事業を主体とするユーグレナグループ全体の売上高が500億になったとしても、冒頭で出雲社長が発言した「1000億」という数字には遠く及ばない。
この鍵を握っているのは、同社が2025年に完成を目指して現在予備的基本設計を進めているバイオ燃料の商業プラントだ。
商業プラントが完成した後のバイオ燃料事業の売り上げについて、永田CEOは
「我々は少なくとも500億円規模の売上高。それに対するEBITDAは20%以上というものを目指して、パートナーとのプロジェクトやプラントの設計を進めております。これがしっかりと進めば、1000億相当という規模感が見えてくると考えています」
と、初めて具体的な事業規模について言及した。
1リットル200円の燃料を25万キロリットル販売すれば、売上高は500億円になる。
出典:2021年12月期通期決算説明および今後の事業展望資料より引用
現状、国際的なSAF(バイオジェット燃料)やHVO(バイオディーゼル燃料)の価格は200円を超えている。仮にユーグレナが開発したバイオ燃料を1リットルあたり200円で販売した場合でも、現状ユーグレナが想定している最低の生産量である25万キロリットルを販売できれば、売上高は500億円となる。
冒頭、出雲社長が「2026年に1000億円を目指す」と発言したのは、ヘルスケア事業を主力としたユーグレナの売上高が2023年に500億円規模を突破した上に、2026年にバイオ燃料の商業プラントが本格稼働すれば、計算上、実現しうる数字というわけだ。
もちろん、商業プラントが完成したからといって、すぐにフルスペックで稼働できる保証はどこにもない。
Business Insider Japanの質問に対して永田CEOは、
「実証プラントは2018年に建設してから本格稼働するまでに調整で1年半ほど時間がかかりました。こういった調整が入ると(稼働まで)時間がかかる可能性はあります。ただ、それを起こさないためにこれまで実証プラントをやってきました」(永田)
と語った。
横浜市鶴見区に建設された、バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント。
提供:ユーグレナ
なお、商業プラントの建設は、プラント建設のパートナー企業とのジョイントプロジェクトだ。現状では誰がどういった形でバイオ燃料を販売するのか、最終的なストラクチャー(事業の構造)は決まっていない。
これまでユーグレナは「年間25万キロリットル以上の生産を目指す」と目標を掲げてきたが、今回の決算資料では「ユーグレナの持分相当で25万キロリットル」と表現が改められている。
これについて永田CEOは、
「例えば、50万キロリットルのプラントを作ったときに、私たちの持ち分が50%あれば25万キロリットル。100万キロリットルのプラントを作って、25%あれば25万キロリットルと、そんな概念でご理解いただければよろしいかなと思っています」
と、考え方について語った。
例えば、パートナー企業とジョイントベンチャー(JV)を設立してバイオ燃料を販売することになった場合、JVの持ち分比率が少なければ、ユーグレナの売り上げとして計上できないケースも考えられる。
その場合、ユーグレナは売り上げとは別の形で、25万キロリットルに相当する(500億円規模)の利益を得ることになる。バイオ燃料の売り上げについて「1000億『相当』」という表現を使っているのはそのためだ。
商業プラントのパートナー企業や建設地について、永田CEOは2021年11月の第4四半期決算会の際に「国内外の2箇所を候補地として、予備的基本設計を進めている」と語っていた。今回の決算説明会でも、具体的な候補地やパートナー企業について言及されなかった。
しかし、公開される情報は少しずつ増えてきている。
「すべてのプロジェクトがパートナーと連携しているため、我々だけで情報の開示ができません。ただ、これ(情報が増えていること)は、プロジェクトがしっかり進んでいることを意味しています」(永田CEO)
(文・三ツ村崇志)