ワシントンの連邦準備制度理事会。
Patrick Semansky/AP Photo
- アメリカ連邦準備制度理事会はインフレとの戦いに挑んでいるが、その最高の武器もパンデミックによって阻まれる可能性がある。
- 金利引き上げは通常、インフレを抑制するが、物価を高騰させているサプライチェーンの混乱を正すことはできない。
- 食品とエネルギーの価格も利上げの影響を受けにくく、インフレ懸念があれば高水準が維持される可能性が高い。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)はインフレに戦いを挑もうとしているが、その主要な手段はパンデミック下の経済では機能しないかもしれない。
過去1年間のインフレは、ほとんどのエコノミストや政策立案者が予想していたよりも早く、そして長く続いている。アメリカの一般財・サービスの価格は、2022年1月までの1年間で7.5%上昇し、1982年以来最も高いインフレ率を示している。
これはアメリカのインフレがさらに進行していることを示しており、FRBに新たなプレッシャーを与えた。FRBのパウエル議長は1月に、政策担当者は3月に、利上げを開始することを「考えている」と述べた。
FRBにとって利上げはインフレを抑制するための最強の武器だ。金利の上昇は景気を減速させ、消費を弱め、貯蓄を促す傾向があるからだ。1980年代前半、インフレ率が同程度の高さで推移したとき、物価上昇を抑えるには歴史的な高金利が必要だった。
2022年のインフレとの戦いは、おそらくそう単純ではないだろう。金利の上昇は需要の抑えるが、現在のインフレ問題の大部分は供給側に依存している。デルタ株が海運業界を麻痺させたため、港湾の渋滞と物資のボトルネックが世界経済に打撃を与えた。その結果、消費は堅調に推移する一方で、企業は在庫の確保に苦慮することになった。この需給ギャップが、2021年末にかけて、すでに始まっていたインフレを激化させたのだ。
金利の上昇は消費を減速させるだろうが、企業が在庫を確保する助けにはならないだろう。供給が依然として逼迫しているため、消費が収まってもインフレ率は不快な高さにとどまる可能性がある。
12月には需要が緩和される兆しがあったが、供給不足は深刻だ。半導体の不足は自動車、家電、電子機器の生産に支障をきたしている。人手不足も依然として存在し、多くの企業がフル稼働できないでいる。
金利を上げても、供給問題の改善には役立たない。FRBは民間部門が混乱を一掃するのを待つしかないのだ。
パウエル議長は1月26日の記者会見で「供給サイドの改善も含めて、インフレを抑えるための要因はいくつかあり、それはいつかはやってくるだろう」と述べ、「そのタイミングとペースは不明だ」と付け加えた。
最近のインフレ要因のいくつかは、金利上昇の影響をほとんど受けない。消費者物価指数を見ると、歴史的に他の項目よりも変動が大きい食品とエネルギーの価格は、1月にともに0.9%上昇した。後者のうち、重油は9.5%上昇し、他のどの項目よりも高くなった。また、ガソリン価格は0.8%下落したものの、アメリカにおける1ガロン(約3.8リットル)あたりの平均価格は2月第1週に3.44ドル(約395円)に上昇した。これは2014年9月以来の高値だ。
そして、サプライチェーンの混乱解消と同様に、FRBの引き締め政策が食品とエネルギーの価格を下げる効果は限定的だ。アメリカ人は金利の高さに関係なく、食料、ガソリン、暖房にお金を使うので、この2つの分野は価格に対する需要の変化がとても小さい。食品とエネルギーの価格の高騰が続けば、FRBはステッカーショック(人々が店舗に行って値札を見て驚くこと)に直面することになりかねない。
ほとんどの専門家は2022年末までにインフレは収束すると見ている。ジェフリーズとJPモルガンのエコノミストは、アメリカはすでにサプライチェーン混乱の最悪期を脱したと見ており、状況は2022年中に着実に改善すると予測している。JPモルガンのエコノミストは、オミクロンの亜種はこれまでのウイルスよりも世界の産業に劇的な影響を及ぼしていないようであり、パンデミックによるインフレの主要因がすぐに緩和される可能性があると述べている。
そして、「生産と価格の両方に対する圧力が弱まりつつある。第3四半期の世界的な景気回復は、こうした供給の制約が緩和されつつあるとのわれわれの短期的な主張を裏付けるものだ」とも付け加えた。
FRBの今後の利上げは、インフレ抑制を働きかけることは間違いない。しかし、その効果は未知数であり、例年ほど強力なものにはならないと考えるのが妥当だろう。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)