3000億円買収のペイディCEOが語る「成功するスタートアップの条件」

ペイディCEO杉江陸

わずか数年でペイディを3000億円企業に押し上げた、CEO・杉江陸さんの「成功するスタートアップの極意」とは ── 。

撮影:伊藤圭

1月24日〜28日に開催されたビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENIALS 2022(ビヨンド・ミレニアルズ)」。

4回目となる今回は、課題をビジネスで解決しようと挑戦するミレニアル世代・Z世代を表彰するアワードと、今年注目すべきビジネステーマを深掘りするトークセッションをオンラインで開催した。

最終日の28日、「3000億円買収の『ペイディ』語る、成長するスタートアップの条件」と題したセッションでは、2021年9月にアメリカの決済大手ペイパルに3000億円で買収されたことで話題を集めた、Paidy代表取締役社長兼CEOの杉江陸さんが登壇した。

ペイディが手がけるのは「後払い決済(BNPL※)」サービス。

※BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター):直訳すると「今買って、後で支払う」。多くの場合、電話番号とメールアドレスがあれば即時で決済ができ、後でコンビニや銀行振り込みなどで支払う仕組み。

消費者金融「レイク」の再建、大手金融機関「新生フィナンシャル」社長を経て、杉江さんはどのようにペイディを大きく成長させたのか。ペイディ躍進の裏側から、今のスタートアップ業界に思うことまでを聞いた。


消費者金融との違いは「目的があるかどうか」

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Paidy代表取締役社長兼CEOの杉江陸さん。大手金融での経験を踏まえ、新しいフィンテックの存在をどう見ているのだろうか。

撮影:伊藤圭

── BNPL(後払い決済)がこれほど成長した理由について、どう見られていますか。

杉江陸氏(以下、杉江):BNPLはメディアだと「後払い」と翻訳されますが、僕らの定義では、“無金利の分割払い”を指すんです。

欧米でここまで広まった理由は、決済機能というよりも、モノを買っていただく「最後の一押し」という要素が強い。

今まで何かを買うとき、分割払いをするのであれば金利が付くため、多くのユーザーは諦めてしまうのが基本でしたよね。それを金利なしで、3回、4回、8回と分割払いにできるのであれば、さほど重い借金意識もなく買えます。

無金利の分割払いがあるからこそ、今まで迷って買わなかった人が買うことにつながる。そうした共通認識が欧米では当たり前になってきていて、日本でも少しずつその認識が広まって、今爆発的に成長してきているというわけなんです。

── 欧米ではBNPLの市場が拡大した結果、借りすぎや貸し倒れが社会問題ともなっています。日本でもこうした問題が生まれてくる心配はないのでしょうか。

杉江:私は元々、消費者金融の「レイク」を運営する会社の社長をしていた経歴もありまして、多くの消費者の皆さまがなぜお金を借りるのかはよく理解しているつもりです。

住宅ローンなどは除いて、消費者金融やカードキャッシングなど、お金を借りる方の8割から9割は、実は特定の目的のためではなく、生活費の補填のためにお金を借りています。その一方でBNPLでは、明確に買うものが決まっている。この違いは大きいんです。

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クレジットカードや銀行口座がいらず、電話番号とメールアドレスだけで決済できる「BNPL(後払い決済)」。コロナ禍の巣ごもり需要も受けて、大きく成長した。

画像:今村拓馬

── 「生活のため」という広い理由ではなく、明確に欲しいものがあって建て替えているのだと。

杉江:はい。キャッシングローンの返済時の難しさの一つとして、終わりがない、いつまでも借りられるところがあります。毎月の最低返済額だけ払っていればずっと借りられるし、もっと借り増やせるんです。それに加えて10%なり15%なりの金利が付いていくので、ともすれば借金は膨らんでいきやすい。

だからこそ、2000年代の後半にかけて貸金業法が大きく改正され、年収の3分の1までしかお金を借りられないという規制がかかったわけです。その点では日本はすでによく規制が整備された国ですので、多重債務状態になる心配はないと思います。

── 海外と日本とでは、規制の枠組みが違うということですね。

もう1つ、海外のBNPL事業者とペイディとは、設計からして違います。海外のBNPLでは、分割払いのサービスを使いたい場合は銀行口座かクレジットカードを登録しないといけないケースがほとんどです。

一方でペイディでは、ペイディ自身の与信審査の仕組みを使い、銀行口座やクレジットカードを登録しなくても審査に通れば、分割払いできるようになっています。いわばペイディ自身がリスクを取っている。

我々のサービスは非常にユニークで、だからこそ投資家からも日本の市場に合ったサービスだということで評価を受けてきた。二重の意味で安心なんじゃないかと思います。

100人の徒競走で1番になる

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創業者で現ペイディ会長のラッセル氏の「(会社が)潰れて何が悪いの?」という一言で、大事なことに気付かされたと杉江さんは振り返る。

撮影:伊藤圭

── サービス開始から数年で3000億円企業に成長したペイディですが、杉江さんは社長として、組織づくりのために工夫されたことはありますか?

杉江:「勝ちを定義する」ことですね。何を勝ちとするかを明確に全員で定義して、そこに向かう。それをいかにクリアにできるのかが、チームの大事な勝負どころです。

私たちのチームの強みは、プロダクトドリブンでもなくテックドリブンでもなく、ビジネスドリブンだというところだと思っています。その「ビジネス」のゴールに向かって最短距離で走る。

アーリーステージのスタートアップは、大企業とは桁違いにその期待値が高いです。

投資家からすれば悪くて100〜200%、できれば500%成長の姿が見たい。次に期待されるスケールを明確に意識して、それをデリバリー(達成)できるチームでなければなりません。

──「勝ちの定義」が大企業とスタートアップで全然違うと。杉江さんは新生フィナンシャルという大企業のご出身ですが、急成長スタートアップにおいて、ゴールを変えることは抵抗なくできたのでしょうか?

杉江:(創業者で現ペイディ会長の)ラッセルの一言で非常に印象に残っているものがあります。

私が2017年に社長に就任してしばらくはよく喧嘩もしていたのですが、そんな時は六本木一丁目の周りをクルクル歩き回りながら2人で話しました。ある時散歩しながら、ある戦略について「これを実行したら会社が潰れるかもしれない」と伝えたんです。

そうしたらラッセルが、「潰れて何が悪いの?」と。

「あ、そっか、こいつは死ぬつもりでやっているんだな」と。我々の望みは100人の徒競走の中で1番になることであって、長い距離をそこそこのペースで走り続け、生き残ることではない。

僕がやろうとしていることは間違えていたんだなと感じて、そこで大きく自分をアジャスト(適応)させることができたんじゃないかなというのは、今振り返るとありますね。

ラグビー

「勝ち癖」のあるチームを作ることが必要だ、と杉江さんは説く。

画像:Shutterstock

── ペイディは会社のバリューとして「勝ちにこだわる、結果を出す、大切なピースになる」と掲げています。ペイディは非常に多国籍な企業ですが、バリューも外資系っぽいというか、Netflixが自分たちはプロスポーツチームなのだと言っているのにも似ていますね。

杉江「勝ちにこだわる組織」は外資系だからできる、というのは偏見だと思っています。日本ラグビー協会理事の中竹竜二さんが書かれた『ウィニングカルチャー』という本がありますが、チームの勝ち癖をどうつけるか、という話だと思うんですね。

欧米の企業だけから学ぼうとしているわけでもありません。

私は稲盛和夫さんの盛和塾でも長く勉強してきました。もちろんラッセルがかつて所属していたゴールドマン・サックスのカルチャーもすごく参考になるし、シルビア(注:コバリ・クレチマーリ・シルビア氏、ペイディのCMO)が元いたNetflixのカルチャーからも勉強させていただいていますが、日本企業だからできないとは決して思いません。

そのために経営者としてしなければならないのが、(成功の道筋を示す)ストーリーテリングと資金調達、そしてチームの組成です。これら3つはトライアングルのようにどれが欠けてもうまくいきません。

── ペイディは世界中から社員を採用しています。特にコロナ禍において、オンボーディング(社員の受け入れ・定着のプロセス)で難しさはありませんか。

杉江:それなりのチャレンジはあります。僕らが意識してやっていることは、新しく入ってきた社員には、最初の3カ月のプロベーション(試用)期間に課題を渡して、マネージャーに並走させながら、小さな成功をさせるということです。

その振り返りは必ず経営陣全員でやりますが、多くの場合、与えた課題に対してどこまでできているのか、事前に経営陣にプレゼンさせる機会も持たせます。そうした機会を一人ひとりに対して設けるということで、その方に対して自然と視線が向く。

一方で、その課題が達成できていない場合は、できていないとはっきり言うべきです。時には我々がミスハイヤー(誤った採用)をすることもあります。その時には苦しいことは後に倒すのではなく、私とあなたは合っていないとちゃんと言う、そこは徹底しています。

── 課題を与え、結果を可視化すると。

杉江:その通りです。うちでフィットしないというだけであって、その人がダメだというわけでは必ずしもない。場が違っただけだと思うんです。その方の得意な部分をもっと活かせる場所を早く探させてあげた方が、その方の人生も建設的になりますしね。

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