「大きな企業の小さな組織」が活躍する時代がきた。パノラマティクス齋藤精一氏×リコーが考える社会課題の解決に必要なこと

急速に進化し続けるテクノロジーだが、大事なのは「それをどう使うか」だ。

「技術を活用するためには、哲学が必要」と話すのは、パノラマティクス主宰(アブストラクトエンジン代表取締役、旧:ライゾマティクス)の齋藤精一氏。齋藤氏は近年、行政府によるプロジェクトに多く参画しており、長期的、俯瞰的にテクノロジーや産業の世界を見てきた。

大企業だからできること、小さな組織だからやりやすいこと、行政や政府が主導してやるべきことは何か──。

日本のクリエイティブシーンをリードしてきた齋藤氏と、「リコー独自の技術により、事業を通じて社会課題を解決する」をミッションとするリコーのビジネスユニット「リコーフューチャーズ」を束ねる入佐孝宏氏が、社会課題を解決するために必要なことを語り合った。

哲学は北極星のようなもの。できることよりもやるべきことをやる。

齋藤精一氏と入佐孝宏氏

パノラマティクス主宰・齋藤精一氏(右)と、リコーフューチャーズビジネスユニット プレジデントの入佐孝宏氏(左)。対談は、リコーの価値共創スペース「RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE Tokyo」で実施した。

──「今の時代には哲学が大事だ」と齋藤さんはいろいろなところでお話されています。お二人の考える「哲学」や「哲学を持つ意味」を教えていただけますか。

齋藤精一氏(以下、齋藤) さまざまな組織や企業が力を合わせて新しい産業を作ろうとしている中で、みんながバラバラに動いている感覚があります。そのときに、北極星のように向かう場所を定めることで、競争ではなく共創を進めていけるのではないでしょうか。その北極星を決めるのが「哲学」だと考えています。

デバイスやフォーマットなど多くのものがいったん飽和化した今、進む方向をもう一度考え直さなくてはならないフェーズに来たと思っています。

入佐孝宏氏(以下、入佐) 私はリコーに入って30年経ちます。これまでは、やるべきことがクリアで、求められることを愚直に進めていけばよかった。ところが、近年は地球が壊れ始めていて、「自分は何のために仕事をするんだ」と強く考えざるを得ません。「世の中の課題を解く」ことに事業の意味があり、価値があると考えています。「今あるものをよりよくする」ではなく「世の中はこうあるべき」「人としてこうしていきたい」という方向に舵を切っていく。できることではなく、すべきことをする。それが今の私の哲学です。

齋藤 リコーさんとはだいぶ前に一緒に仕事をさせていただいたことがあります。そのとき、クラウド上にドキュメントをストックする機能を提供されていた。紙にプリントする複合機の数兆円規模というビジネスを考えると、短期的には自分で自分の首を絞めるような施策とも言える。でも、長期的に見ると、これから訪れる社会を見据え、必要な機能として捉えられていたわけですよね。

大企業のなかで比較的小さな組織を作り、瞬発的に意思決定がなされているのだと感心しました。

新しい技術の方針を万博で示し、見えない部分の改革を進めていきたい

齋藤精一氏

齋藤精一(さいとう・せいいち)。パノラマティクス主宰。1975年生まれ、東京理科大学理工学部建築学科卒。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。Omnicom Group傘下のArnell Groupにてクリエイティブとして活動し、フリーランスのクリエイターとして活躍後、2006年ライゾマティクス(現:アブストラクトエンジン)設立。社内アーキテクチャー部門『パノラマティクス』を率い、現在では行政や企業などの企画や実装アドバイザーも数多く行う。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。

入佐 私たちは技術を作るけど、その先の出口がないんですね。例えばここに小さなセンサーがありますが、温度や湿度、気圧、照度、二次電池の残量などを測ってBluetoothでデータを飛ばせます。これは蛍光灯の光で発電していて、電池がいらないんです。

センサーの画像

今、太陽光発電が盛んですが、太陽光発電パネルを作るにはCO2を使うし、過疎地に設置しても10年後、20年後のメンテナンスの問題があります。このセンサーに使われている技術の発展版「ペロブスカイト」を活用すれば、発電の仕組みをフィルムに塗れるんです。つまり、自宅の壁や自動車、道路など、いわば地産地消で電源開発ができる。

例えば、どこかの都市が再生可能エネルギーで自家発電してショーアップしたりすれば、すごくクール。「そういう街づくりがしたい」と、行政府が率先してお金を出して、企業やクリエイターなどがそれぞれの役割を分担すれば、すごくワクワクするし、取り組むエンジニアも熱狂的に頑張るに違いありません。

齋藤 2006年のCES(毎年ラスベガスで開催される電子機器の見本市)で、あらゆるメーカーがそれぞれ液晶パネルを出していたことがあり、すごく疑問を感じました。デジタルがこれだけインフラ化されてくると、もう自由競争の限界。みんなが同じものを開発するのではなく、しかるべき人が旗を立て、ある程度絞った状態で必要な技術を整理したほうがいい。

個人的には、それを大阪・関西万博で実現したい。2021年の12月にExpo Outcome Design Committeeという組織を作りました。通信、エネルギー、素材などそれぞれの分野で、使うべきものを示す旗を立てていこうと思っているんです。

入佐 私たちが今開発に取り組んでいることの一つに、従来のプラスチックに代わる新素材の「PLAiR」という製品があります。植物由来のポリ乳酸(PLA)から作る発泡シートです。

従来のプラスチックに代わる新素材の「PLAiR」

原料となる植物は育つ過程でCO2を吸収するし、PLAは燃やしても大気中の二酸化炭素を増加させません。また製品を使った後はある一定の環境下に置くと、水とCO2に戻ります。化石燃料を使う通常のプラスチックをリサイクルすることも確かに大切ですが、化石燃料を使っている限りCO2問題はなくならない。でもPLAiRを使えば、限りなくCO2低減につなげることが可能です。人々の生活様式を変えずに、CO2が出ないようにする技術はリサイクル以外にもまだまだあります。

齋藤 そういうことを万博でやりたいんです!リサイクルではない新しいフォーマットが作れますよね。PLA素材とバージンプラスチックを両方見せて消費者に選ばせたらバージンプラスチックが選ばれるかもしれないけれど、行政と民間で「PLA素材を使おう」と方針を決めれば、使う側は知らないうちに地球が滅びないようなアクションを起こすことになる。デザインに関わる人間は、そういった見えない部分の責任を持つべきだと思っています。

社会課題を解決するにはオープンイノベーションが前提

リコーの入佐孝宏氏

入佐孝宏(いりさ・たかひろ)。リコーフューチャーズビジネスユニット プレジデント。1965年生まれ。鹿児島県出身。東京農工大学卒業。1989年にリコー入社、IMS事業部に配属。2007年からフランスに駐在し、事業組織の責任者として事業の立ち上げに奮戦。2017年より経営企画本部。2021年に現職。大学時代はヨット部で、現在は神奈川県茅ケ崎に住みウィンドサーフィンを趣味としている。

齋藤 その中でも、企業として投資が難しいものは国がやるしかない。例えば、地図はその最たるものです。それぞれの地域で、5年に1回は測量しなくてはならないと法律で定められている。だから民間が1からやるのではなく、自治体のデータを吸い上げて全体のインフラを整えていくほうが効率的。国が先導する「共創」と、企業同士で切磋琢磨する「競争」の仕分けが必要なんですよね。

入佐 測量は私たちのビジネスにも関係しています。通常、路面の状態を測るには、非常に高価で大型の車が必要。ところが、リコーには車に搭載するステレオカメラの技術があります。それを活用すれば専用車を使わずとも、一般車両に搭載可能なため導入しやすく、道路の状態を測る頻度を上げられます。

2021年の夏、熱海で土石流が発生し、のり面(傾斜面)が崩壊するというとても悲惨な出来事がありました。私は海のスポーツが好きで、伊豆の白浜には何十回も通っていました。そのたびに見ていた橋が繰り返しニュースで映し出され、とてもショックでした。技術チームと議論して「あの問題を解きに行こう」とプロジェクトをスタートさせました。同じような事故が起こらないように、今は、宮崎県と連携し、のり面の状態をすべて測ろうとしています。リコーが持つデジタルの技術で従来よりも効率的にのり面の状態を把握できるようになり、それが安全な街づくりに貢献できるなら、ハードの技術はオープンにして共創していきたいと思っているんです。

齋藤 企業の中には、「できるだけクローズにしておきたい」「IP(知的財産権)を持っておきたい」「怖いから外に出したくない」と考える人も多い。でも、お互いに手を外に出さないと手を繋げないし、共創が起きないんですよね。

入佐 考えれば考えるほど、社会課題を解くには共創が必要で、オープンイノベーションがカギだという結論にいたるんです。ただ、IPを持たずに共創をしかけるのは、民間企業としてビジネスをサステナブルに継続していくという観点からは違うと思います。IPを持ちながらも共創に必要な部分はオープンにするという方針です。とにかくスピードが一番のアドバンテージなので、そういう組織になりさえすれば、世の中がよくなり自分たちも社会にとって必要とされるはずだと思っています。

齋藤 共創はB to Bだけでなく、対個人にも生まれうると思っています。

以前、街に住む人々を「住民」という言葉で片づけたくないと考えて、ある区画の一軒一軒のお宅を回って聞き取り調査をしたことがあるんです。すると、ご主人はゲーム会社で働き、奥様は携帯電話会社に勤めているとか、専業主婦だったり──と、一人ひとりの顔が見えてきた。突き詰めると、全員が「消費者」であり「生産者」なんですね。

ESGのように従来とは違う価値観が出てくると、これまで売れていたものが売れなくなったりする。1対全員ではなくて、全員が意見を言えて、それぞれが主体的な行動を起こせるような世の中になるべきなんじゃないかな。それぞれが生産者としての立場なら、真っ白なバージンプラスチックよりも色が濁っているリサイクル品のほうがベターだ、とそれぞれが主体的に選択できる。そうしてよいものが選ばれるようになっていくのだと思います。

ダイバーシティを進め、得意を伸ばせる組織に

齋藤精一氏と入佐孝宏氏

──テクノロジーで社会課題を解決していくには、クリエイティビティが必要です。クリエイティブな能力を生かしやすい組織はどのように作っていけばよいのでしょうか。

入佐 とても難しい問題ですが、まずはダイバーシティ。私は2007年から4年間フランスにいましたが、フランスでは女性の管理職が多く、彼女たちは非常にプロフェッショナルな仕事をします。一方で日本はまだまだ男性社会。もっとジェンダーミックスが起こるようにすべきでしょう。

もう一つは、個人それぞれの資質を生かすことです。いくつかの資質調査を試してみると、だいたい同じ傾向が出てきます。つまり人間の特性は科学でかなり解明できている。大企業では、それぞれの得意とすることを加味せずに仕事をアサインされ、不得意なこともやらざるを得ない場合もありますが、本来は得意なことを伸ばしたほうがいいんです。全員が得意なことに取り組めるようなチームを作り、パフォーマンスが上がるようにしたい。そのためにもダイバーシティが必要です。

齋藤 今は価値観が大きく変わっている時期。「いいものを安く」から、「環境にいいもの」や「サステナブル」という観点が重視されるようになり、「古いものがいい」などという価値観もある。GDPではトラッキングできなくなっていますよね。これからは、バラバラに動いているものを一つのうねりとして束ねていくために、全体を横断しながらマクロとミクロを見ていくデザインの能力が必要だと思っています。

それはトレーニングではなくて思考回路だと思っていて、「若い人なら」といわれるけど、年齢だけでもない。入佐さんのようにクリエイティブな方がディシジョンメイクして、さまざまな方を参画させ、引っ張っていく力が必要なんでしょうね。

入佐 僭越ながら、大企業の時代が来たと感じます。ヒト・モノ・カネを持っていて、リコーで言えば「やってみなはれ」とすぐに取り掛かれる風土がある。やりたい人が手を挙げて、会社も「社会のために有意義な事業だ」となれば、背中を押してくれる環境です。

齋藤 僕も同じように、「大きな企業の小さな組織」が活躍する時代だと思っています。

──今後注力するポイントや、これからのビジョンなどを教えてください。

齋藤 純粋な自由競争ではなく、旗を立てたところに政府も民間も参加して、共創していくようにしたい。僕ができるのは、哲学を持って横断的に動き、さまざまなことを繋げていくことだと思っています。

入佐 今日は「旗を立てる」というお話を聞けて、本当に貴重な時間でした。ありがとうございます。我々が旗を立てることができれば先頭に立ち、そうでなければ旗を立てられる人を探して出会い、語る。その際に共感してもらえるような仕掛けや取り組みをしようと心に刻みました。

これからも我々が注力するのは、クリアに「社会課題を解きに行く」ということ。できるかできないかは、取り組む前には大事ではない。私たちは、信じてやるだけです。


リコーについて、詳しくはこちら。

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