急変する世界、対応に追われる企業──。現代ほどコンサルティングが求められている時代はない。
そんな中、大手コンサルティングファームであるPwCコンサルティングが自己変革に乗り出した。クライアントの変革に寄り添い、成長を加速させるためには、自らも変わることが不可欠だという。
新たな経営戦略を打ち出した同社のパートナー兼COO、ジャスティン・クック氏に、PwCコンサルティングの変革のありようと狙いを聞いた。
2022年の見通し、楽観視するCEOが増えているが……
PwCコンサルティング合同会社COOのジャスティン・クック氏。米国・日本で、大手グローバル・プライベート・エクイティ・ファンドに対する投資先のオペレーション向上などの価値創造支援を手掛ける。プライベート・エクイティの投資候補先や投資先である工業製品、サービス、自動車、ヘルスケア、テクノロジー、出版、消費財などの幅広い業界において、オペレーショナル・デューデリジェンス、カーブアウトサービス、ポストディールにおける20年以上にわたるValue Creationのコンサルティング経験を有する。日本には合計8年在住。
──PwCコンサルティングを含むPwCグローバルネットワークは会計、税務、監査、コンサルティングといった幅広いプロフェッショナルサービスをグローバルに提供し、世界中で数多くのクライアントを支援していますね。特にコンサルティングは、世界が急変するなかで対応を迫られるクライアントとの接触が非常に多い分野ですよね。彼らは今、どのような課題を抱えていると認識していますか。
ジャスティン・クック氏(以下、クック):あらゆる国、あらゆる業界でクライアントはデジタルディスラプションや地政学リスク、そしてCOVID-19に由来する課題に直面しています。変化が速く、対応するのは本当に大変な時代です。
──デジタルテクノロジーによるイノベーションによって既存の産業・企業はまさに破壊(ディスラプション)的な影響を受けているところが少なくありませんし、地政学リスクと言えば、軍事衝突や大国のパワーバランスの変化などがすでに現実のものになりつつある。コロナ禍も長期化し、金融緩和がインフレを生み出すような新たな局面に入ってきています。
クック:そうですね。アメリカ市場を例にとっても過去2年の間に、ビジネスレジリエンスや危機管理、従業員のウェルビーイングといった面でCEOの考え方は大きく変わりました。アメリカのような大国でもCOVID-19の影響でサプライチェーンの脆弱さが露呈したりインフレが加速したりと、想定外の変化が起きていますし、それに加えてクラウドやAI、ドローン、ロボティクスなどのテクノロジーによるデジタルディスラプションのペースも速まっている。
株高で増えた早期退職による人材難や投入コストの価格への転嫁の難しさなどから、CEOの間には諦めのような心理さえ拡がっています。PwCが毎年行っている「世界CEO意識調査」の結果を見ると、CEOが翌年度の経済について前向きな見方を示す比率は2020年の調査から21年調査(予想対象年はそれぞれ21年と22年)で76%から77%へと上がりました。しかしながらアメリカと中国という世界で1、2を争う経済規模の2国においては、アメリカが88%から70%へ、中国が71%から62%へと下がりました。22年について楽観的な見方が多い日本のCEO(83%)とは対照的です。国ごとに数字がばらつく状況に鑑みても、先が読めない時代であることを実感します。
ビジネスで「信頼」と「持続的な成長」が強調される背景は?
──先行きが不透明な状況が世界を覆う中、PwCグローバルネットワークは昨年夏、新たなグローバル共通の経営ビジョンとして「The New Equation」を打ち出しました。その内容はどのようなものでしょう。
クック:「The New Equation」には大きな柱が2本あります。「Trust」と「Sustained Outcomes」です。
──「信頼」と「持続的な成長」ですね。この2つを最重要視するのは、なぜ?
クック:どちらも今、勝ち得ることが難しくなっていて、だからこそクライアントが強く求めているものだからです。クライアントが「信頼」を獲得して「持続的な成長」を実現できるよう、PwCは支援をしていきます。
──確かにここ数年、世界各国で制度や組織への信頼は揺らぎ、企業や社会の持続的な成長への期待にも影が差していますね。ESGに関連する取り組みの重要性が世界的に増しているのも、そのためでしょう。
クック:そうです。そして忘れてはならないのが、The New Equationには「クライアントへの支援を的確に、迅速に行うために、PwC自身も変わっていきます」というメッセージが込められていることです。
──環境の激変に応じて企業が変わる必要があることはよくわかります。その企業の変革を支えるPwC自身も変わっていくというのは、どうしてでしょう。
クック:企業や社会が複雑な課題を解決するのを支援するには、さきほど言ったように的確なサービスを迅速に提供することが必要であり、そのためにリソースと機能を効率的に再編することが必要だからです。
PwC米国法人は「信頼」の構築と「持続的な成長」の実現を支援するための抜本的な組織とサービスの見直しを進めていますし、日本のPwCコンサルティングにおいても独自に「3つのDによる変革プラン」を策定し、それにもとづいた変革に乗り出しています。
変化し続けるために必要な3つのキーワード
──「3つのD」とは?
クック:「Design」「Disruption」「Dimension」です。新しい姿を描き、創る「Design」、従来の概念を覆す「Disruption」、多くの側面から多面的に再考する「Dimension」というのがPwCコンサルティングの変革の中心をなすコンセプトになります。The New Equationという経営ビジョンのもとで「信頼」の構築と「持続的な成長」の実現を追求するための戦術という位置づけです。
「3つのD」による変革プラン
提供:PwCコンサルティング
──PwCコンサルティングが変わるためのDesign、Disruption、Dimensionというわけですね。この3つのDは日本における自己変革の戦術としてどのように機能していくのでしょう。
クック:Designには、私たちが日本において新たなオペレーションモデルや成長モデルを構築していくという狙いが込められていますし、Disruptionはより大胆に、より勇敢にフロンティアに踏み出して、誰もやらないことをやろうという意気込みを表しています。Dimensionは日本でのコンピテンシーをシングルからマルチに増やしていくことを意味していて、そこにはコラボレートするパートナーの幅をこれまで以上に広げて新たなエコシステムを確立することも含まれます。
日本では今、DXがどの企業にとっても大きな課題となっています。これに取り組むことは正しいですが、そもそもDXの目的は何なのか、DXの先にはどんな課題があるのか、その解決には何をすべきなのか……そこまで一緒に考えてソリューションを提供する。例えばそういうコンサルティングを提供できるようになるための戦術が3つのDなんです。
──日本のクライアントから見ると、3つのD、そしてThe New EquationによってPwCコンサルティングはどのように変わることになりますか。
クック:私が望むことは、どこが変わったのか気づかれないこと、どこかが変わっても気にされないことですね(笑)。これまで提供してきたクオリティの高いサービスやインティグリティ(誠実さ)、同じチームのよきメンバーであること……そういったところは変わらず、でも、よりよいソリューション、より効果的なソリューションを迅速に提供できるようになることを目指しています。
──そうして自己変革を遂げるPwCコンサルティングは、これからの日本をどのように変えていくのでしょう。
クック:これまで日本に合計で8年暮らしてきた私個人の考えも含めての話になってしまうかもしれませんが……これまで製造業などで世界をリードしてきた日本は、これからもデジタル化や最適化をさらに進めることにより、世界にさらなるベネフィットを与え続けることができるはずです。日本の活躍をもっと見たいと思っていますので、そのための支援を的確、迅速に行えるよう、3つのDで私たちも変わっていきます。