植物の生育状況を観測するために訪れた科学者が撮影した南極にある島の様子。
Courtesy of Nicoletta Cannone
- 手付かずの状態を保ってきた南極の生態系が、気候変動によって大きな打撃を受けていることが、研究によって明らかになった。
- 夏に気温が上昇すると、2種類の顕花植物が急速に繁殖するのだ。
- これまで南極は、気候危機による急激な変化に対して耐性があると考えられていた。
南極大陸では、気候変動によって夏の気温が上昇し、2種類の顕花植物(花を咲かせる植物)が急速に繁殖していることが、研究で明らかになった。
これに関する研究論文が、2022年2月14日に査読付き学術誌「Current Biology」に掲載され、壊れやすいにも関わらず、これまで手付かずの状態が保たれてきた南極の環境も、気候危機の影響から逃れられないことが初めて示された。
「これまでほとんどの科学者は、南極大陸は気候変動の影響を受けにくいと考えていた」と、論文の筆頭著者でイタリアのインスブリア大学の陸上生態学准教授のニコレッタ・カノーネ(Nicoletta Cannone)は電子メールでInsiderに語っている。
「我々の分析によると、現在、南極は急速に変化している。これは温暖化傾向の高まりが原因だ」
南極で繁殖する植物。
Courtesy of Francesco Malfasi
南極大陸では、人間の活動が厳しく規制されており、地球上で最も手付かずの環境が保たれてきた。
また、最も寒く、最も風が強く、最も乾燥した環境であるため、生育できる植物は極端に少ない。花を咲かせることができる植物は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)とナンキョクミドリナデシコ(Colobanthus quitensis)の2種類の種子植物だけだ。
今回の研究では、南極の南オークニー諸島のシグニー島で、この2種の顕花植物の密度が調査された。
それによると、それぞれの植物が2009年から2019年の間に繁殖した速さは、1960年から2009年の期間と比較してナンキョクコメススキが10倍、ナンキョクミドリナデシコが5倍と、大幅に加速していた。
これらの顕花植物の生育には、他の要因も影響している可能性がある。例えば、植物を踏みつぶすオットセイは、近年、この地域ではあまり見かけなくなったという。しかし、著者らは、生態系がこれほど急速に変化した主な原因は気候の温暖化であると述べている。
顕花植物は数が増えているだけでなく、生育も速くなっており、「大きな変化、あるいは転換点に来ているのだと我々は考えている」と論文の共著者でイギリス南極観測所に所属するピーター・コンヴェイ(Peter Convey)はNew Scientistに語っている。
いずれは顕花植物が、南極の生態系の植生の大部分を占めているコケや地衣類を駆逐するだろうとカノーネは予測している。
また、この地域がより温暖な気候になれば、外来種が侵入する可能性もあると、論文で指摘されている。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)