米モーニングスター資産運用部門のグローバル最高投資責任者(CIO)は、日本株投資に可能性を見出している。
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アメリカの株式市場が魅力的でないとの評価を受けているとすれば、それはすなわち、資産クラスとしての株式そのものが魅力的でないというのとイコールだ。
そう言える理由は、世界の株式市場において米国株の占める規模や影響力があまりに大きいからに他ならない。
意外に認識されていない事実だが、世界の人口に占めるアメリカ人の割合はわずか4.2%なのに、世界主要市場に占める米国株の時価総額は54%(カナダを加えて57%)と過半数を超える(MSCI調べ)。
アメリカの個人投資家は自国市場を重視するあまり、ポートフォリオも米国株偏重にしてしまう傾向がある。
一方、アメリカ以外の投資家はインデックスに対して米国株の組み入れ比率を低めに運用する傾向があり、それだと強気相場でもったいない過ちを犯すことになる。
しかし、一部のベテラン投資家たちがいままさに感じているように、足もとのアメリカ株式市場は割高感が強く、この場合、(アメリカ以外の投資家たちのように)ポートフォリオへの米国株の組み入れ比率を引き下げることは良い結果につながる可能性がある。
米投資信託評価機関モーニングスター資産運用部門のグローバル最高投資責任者(CIO)ダン・ケンプも、現在の株式市場を割高と評価するベテランのひとりだ。
ケンプはInsiderの取材に対し、自身が運用を担当するポートフォリオについては、1月の株価急落後を含めて、米国株にはしばらく資産配分していないことを明らかにしている。
「米ハイテク株は、誰が見ても分かるほどに超低金利政策の恩恵を受け、きわめて高い水準の株価推移が続いています。そのため、我々としてはここしばらく、銘柄のクオリティや成長性に対して『割高』と評価してきたわけです。
(2022年1月の株価下落で)多少の調整はありましたが、米ハイテク株は依然として非常に割高。しかも、S&P500種やナスダック総合など主要な株価指数に占めるハイテク株の比重が高いので、米国株はどうしても魅力的な投資対象の範疇(はんちゅう)から外れてしまいます」
運用資産をこれから新たに、しかも大規模に米国株に配分する状況が考えられるとすれば、それはアメリカの株式市場が10%下落したときだと、ケンプは語る。ただしアメリカだけがそうなった場合の話で、世界のあらゆる株式市場が一斉に下落したときは別だという。
「10%下落しただけでは、すごく安いという感じにはなりません。それよりもっと下、20%下落してようやく魅力的な感じが出てくるくらいです。
ただし、世界の他の市場に比べてアメリカの市場や企業のクオリティは高いので、質調整ベースあるいはリスク調整ベースで考えれば、魅力を取り戻すまでにかかる時間は短いでしょう」
世界最大の株式市場に割高感がある状況では、投資に良い結果を望むべくもない。しかし、市場全体が下降基調の局面でも、チャンスがまったくのゼロにはなるわけではない。
ケンプ率いるモーニングスターのチームが考えるピンポイントの投資機会を以下で説明しよう。
付加価値を生み出すセクターを探す
「一般消費財は、米国では依然として魅力的なセクターと我々は考えています。ロバストであることに加えて、クオリティの高さにはきわめて高い価値があります。
また、金融セクターには2021年ほどの魅力を感じていませんが、ハイテク株よりは間違いなく魅力的です。
エネルギーもやはり他のセクターとの比較では魅力的と言えます。アメリカのエネルギー関連で絶対的に魅力的と言える銘柄はほとんどないのですが、相対的に見ればチャンスはあります」
ケンプはアメリカの外にははるかに高価値な市場があると指摘し、特に英国株をポジティブと評価する。
「イギリス市場への評価はまだまだもの足りないです。英国株の価格水準とここ数週間のパフォーマンスの低さを見ると、その魅力がますます際立って見えます」
イギリスの株式市場はエネルギーおよび金融セクターが時価総額に占める割合が高いことから、2022年の投資先としてそれなりに高い評価を受けている。
米国大型株の動向を示すS&P500種株価指数が年初来6%下落したのに対し、イギリスの代表的株価指数であるFTSE100種は約3%の上昇を記録。2021年に入ってからプラスで推移する数少ないベンチマーク指数のひとつとなっている。
「エネルギーおよび金融セクターの最近の業績好調は(2021年下半期の決算発表などから)明らかで、それだけに2022年は前年より魅力が薄れると考える向きが多いのですが、きわめて保守的な業績見通しをベースにしても、まだ魅力的と言えます」
さらに、米国株と比べる限りでは、日本株も有望な投資先だとケンプは指摘する。と言うのも、日本ではアメリカのようなバリュエーション(=企業価値評価あるいはそれをもとにした投資判断の尺度)の過熱が見られないからだ。
ブルームバーグのデータによると、日経平均株価(日経225)の株価収益率(=1株あたり純利益の何倍の価格がつけられているかを示す)は15.4倍、S&P500種の23.3に比べると割高感は相当低い。
株式市場3つのリスク要因
ここまで指摘してきた株価の割高感やバリュエーションの過熱以外に、株式市場には「3つの大きなリスク要因」が存在し、そのいずれかが市場の暴落につながる可能性があるとケンプは考えている。
第1のリスクは、すでに可視化されている高インフレが、市場やFRBの予想を超えて過熱し、長期化する可能性だ。その場合、FRBが利上げのペースを早める可能性も出てくる。
「インフレについて考えるときカギとなるのは、どのくらい物価が上がるかという『水準』ではなく、いつまで続くのかという『持続期間』であることは間違いありません。
一時的なサプライチェーンの支障による昨今の急激な価格上昇が、今後より粘着性の高いインフレに転じるとしたら、各国の中央銀行は対応に動かざるを得ず、非常にやっかいなことになります」
第2のリスクは、第1のリスクと似て非なるもので、FRBの利上げやサプライチェーンの回復(に伴う供給過剰)、景況感の悪化などが組み合わさって起きるデフレ(=物価の継続下落)や景気後退は、投資家がまだ織り込んでいないきわめて現実的な危機だとケンプは指摘する。
第3のリスクは、地政学的な不確実性。ケンプによれば、市場にとって最も価格に織り込みにくく、なおかつ確度の高い予測が最も難しいのが地政学的リスクだという。
それでも、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする戦争勃発の可能性はもちろん、新たな変異株の出現によるパンデミックのような展開を無視するわけにはいかないとケンプは指摘する。
(翻訳・編集:川村力)