「部活、休みにしてもいいかな」週6日勤務が当たり前、教員たちの働き方改革

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)によると、日本の中学校教諭の1週間当たりの業務時間は56時間。これは調査に参加した48の国と地域中もっとも長く、参加国平均の38.3時間と比べても大きな乖離のある結果となった。

早朝から夜まで働き詰めであるだけでなく、部活動の顧問を担う教員は週末の勤務も余儀なくされている。どうすれば学校での働き方改革は前に進むのか。サイボウズのチームワーク総研とともに働き方改革を行った教員の取り組みを紹介する。

規定労働時間を超えても「休みたい」と言えなかった

教室の様子

Shutterstock / maroke

サイボウズのチームワーク総研では「チームワークあふれる社会や組織を創る」ために、組織の課題解決のコンサルティングやサポートを行っている。これまでいくつもの企業の変革を手伝ってきた彼らは、2021年に経済産業省が主導する学校における働き方改革の推進プロジェクト「学校BPR」に参画し、鹿児島と静岡の2つの中学校を実証校とした働き方改革に取り組んだ。

教育委員会や保護者、地域住民などさまざまなステークホルダーが関連する公立中学校の改革は困難だと思われたが、チームワーク総研のメンバーは一つずつ問題を解きほぐしていくことに。実証校の一つだった静岡県・三島市の中学校では、とくに教員が負担に感じていた部活動の活動日数を減らすための方策を考えた。

三島市の中学校に勤務する国語教諭・相澤優太先生は、1学年4クラス分の国語の授業を受け持ちながら、ソフトテニス部の顧問を担当している。それまでソフトテニスは未経験で、細かなルールや練習方法は活動の中で学んでいったという。希望通りの部活を受け持つとは限らず、必要とされたポジションに就任する形で顧問となった。

「毎朝7時半に出勤。午前と午後に授業があり、終えたらすぐに部活です。部活が終わるのは17時頃。それから翌日の授業準備や事務作業などを行い、学校を出るのは毎日19時頃です。複数学年の授業を担当している教員は、教材研究に時間がかかるためさらに退勤時間が遅くなることもあります」(相澤先生)

 オンラインで取材に答える、三島市の中学校に勤務する相澤優太先生。

オンラインで取材に答える、三島市の中学校に勤務する相澤優太先生。

平日は毎日12時間近くを職場で過ごすことに加えて、週末にも部活動がある。

「私が担当する部活の場合は、毎週土曜の午前中を活動に当てています。休日と言えるのは日曜日だけ。その日曜日も大会があれば引率のために出勤します。1週間で休みがないときもありますね」(相澤先生)

業務に追われる平日と部活動がある土日。私生活の時間を確保することが難しい状況だった。

「部活動を通して生徒をサポートしたい気持ちはもちろんあるのですが、子どもが生まれたこともあり、もっと家族との時間を過ごしたいと思っていました」(相澤先生)

教員の多くは、現状を変えられると思っていない

相澤氏はそのような思いを抱えつつ、それを周囲に相談することはなかったという。しかしサイボウズによる働き方改革の実証校となったことで、チームワーク総研のメンバーとコミュニケーションを取ることになったことで転機が訪れる。「ザツダン」と称した週1回15分の1on1の中で、チームワーク総研の中村龍太氏が、相澤氏の心の内にある「現状を変えたい」という思いを後押ししたのだ。

「教員の多くは、それまでの慣習が『当たり前』だと思っていて、現状を変えられる、もしくは変えてもいいことに気がついていません。

けれど相澤さんには小さくても『変えたい』『このままでは良くない』という思いがありました。そこから変わっていく一歩が生まれると感じたんです」(中村氏)

サイボウズ 社長室長 兼 チームワーク総研メンバーの中村龍太氏

サイボウズ 社長室長 兼 チームワーク総研メンバーの中村龍太氏。

中村氏は「土曜日の部活の活動日数を減らしたい」という相澤氏の思いを直接生徒に伝えてみてはどうかと提案。現状を変えるには生徒も同じ「チーム」として話し合いに巻き込んでいく必要があった。

当初相澤氏は「先生側からそんな提案をしてもいいのか」と戸惑ったという。しかし、一方的な決断ではなく思いを伝え、生徒に相談する形で話をしてみた。

「みんなとの活動ももちろん大事だけれど、土日は家族との時間を優先したいことを伝えました。同時に生徒たちの気持ちも改めて聞いてみたんです。部活を通じて何を成し遂げたいのか。すると『大会で結果を出したい』と返ってきた。そうであれば、土日の部活を増やすことよりも日頃の練習態度や活動のメリハリなど、もっと改善できるところがたくさんあると思いました」(相澤先生)

対話の結果、生徒たちは「先生には先生の人生がある」と試験的に土曜日の練習回数を減らすことに同意してくれた。

「週末の2日間をしっかり休めたことで、次の月曜日はいつも以上に意欲的に仕事に取り組むことができました。今後の活動日数については生徒と話し合って決めていきますが、教員が家族や趣味の時間を持てることはとても大切なことだと感じています」(相澤先生)

「お互いをわかり合う」ことが変わるための第一歩

子どもたちが学校で話し合っている様子

Getty Images / Ishii Koji

教員の多くは、熱意をもって教育現場へやってくる。しかし想像以上の忙しさに本来の目的を見失い、心身をすり減らしてしまう人も少なくない。教員たちは授業や部活に加えて、PTA活動や学校運営のために割り振られる校務も担当している。膨大な仕事量が慣習と熱意によってこなされ続けてきたのだ。

「現場の話を聞くと、学校という場は他の民間企業よりも人の出入りが少なく『今までこうだったから』という慣習で物事が進められがちだと改めて感じました。

先生と生徒という関係性の中ではトップダウンで決めていくことも多く、部活の運営に関しても教員が決めたことを生徒に伝えるやり方が多いのではないでしょうか。しかしよいチームワークはそれではつくれません。

まずは理想や思いを共有し、相互理解することが変わるための第一歩ではないでしょうか」(中村氏)

相澤氏がこれまで変えられなかった慣習に手をつけることができたのは、外部の組織であるサイボウズのチームワーク総研が関わったことが大きい。

「サイボウズさんとのフラットな関係の中で、自分が本当にやりたいことは何か、楽しく自分らしく仕事をするためには何が必要かと話を聞いてくれたおかげで、自分の『現状を変えたい』という思いに気づくことができました。

教員は、生徒など人の話を聞く機会は多いのですが、実は自分自身の話や悩みをアウトプットする機会があまりありません。今回のプロジェクトを通して、対話を通じて自身の働き方を見つめ直せたことはよい機会になりました」(相澤先生)

100人100通りの働き方の実現へ

桜が舞う校舎の様子

Shutterstock / Sally B

相澤氏の今回の働きかけは、生徒への教育にもいい影響を及ぼすのではないかと中村氏は分析する。

「個人的な考えですが、『先生は自分のことを多少犠牲にしても生徒に教育する立場であれ』という意識が潜在的にあるのが今の日本だと思います。

しかし先生ももっと個のウェルビーイングを優先してもいい。やりたいことをやりながら主体的に仕事に取り組む先生の姿は、きっと子どもたちからも輝いて見えるはずです。サイボウズは『100人いたら100通りの働き方』があってよいと考えて、多様な働き方へのチャレンジを行っている会社です。学校現場でもそのような考えや仕組みを少しでも浸透していけたらと思っています」(中村氏)


「自分だけの意思で働き方を決めることまでは難しいですが、理想を周囲に発信することで今の状況を少しでも変えることができると感じました。大変な思いをしている教員はたくさんいると思います。このような機会や考え方が他校にも広がり、教員自身ももっと個のウェルビーイングを大事にできる世の中になるといいなと思います」(相澤先生)

サイボウズは「学校BPR」プロジェクトにおいて、100人が100通りの生き方・働き方ができるように学校運営をサポートしてきた。教員の働き方改革にまつわる課題は社会の仕組みを含めて変えていく必要があり、まだまだ道半ば。今後も教員自身の「こう変えたい」という気持ちに寄り添った取り組みを続けていくという。教育現場の変化への明るい兆しは見えつつある。


学校の働き方改革(学校BPR)の詳細はこちら。

取り組みにまつわるnoteはこちら。

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