サイボウズが見た、教育現場の実態「がんばり続けること」だけが正義じゃない

学校の働き方改革に経済産業省が本腰を入れ始めた。民間企業で進められているBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:組織の業務内容や体制などの抜本的な改革)の手法を取り入れ、教育現場を変えていくプロジェクト「学校BPR」を2021年から進めている。

本取り組みでは公募による一般企業からのサポートを募っていて、ここに手を挙げたのが、これまでさまざまな組織や団体の改革を支援してきたサイボウズ チームワーク総研だ。IT企業であるサイボウズが教育現場に入ったとき、どんな課題や変化への道筋が見えたのか。サイボウズ チームワーク総研のなかむらアサミ氏と中村龍太氏に話を聞いた。

「先生たちを救いたい」あまりに多忙な現場の実態

授業中の男性

Getty Images / xavierarnau

サイボウズ チームワーク総研が、経済産業省が旗振り役である「学校BPR」プロジェクトに参加した背景には、メンバーたっての強い問題意識があった。

「以前、サイボウズが提供している業務アプリクラウドサービス『kintone(キントーン)』を使ったプログラミング教室のサポートを通じて、学校現場の内情を知る機会がありました。そこで見たのは想像を超える教員の業務量。プログラミングなど新たな授業を行うのはさらに負担になってしまうのでは、と感じました」(中村龍太氏)

一般的に、公立学校の教員には授業や担任としての教務以外にも、部活、校務などの担当があり、多くの教員が日々息をつく間もなく朝から晩まで仕事に追われていた。

その忙しさの正体は何なのか。減らすことができる業務はないか、無駄な手続きは発生していないか──チームワーク総研のメンバーは、モデル校となった2つの中学校で教員の仕事内容を緻密に調査し始めた。

最初に手をつけたのは、司令塔となる教頭の仕事調査だった。コロナ禍で現地調査をすることが難しかったため、教頭先生の頭部に小型カメラを取り付け、日々の業務をチェックすることに。するとそこには、職員室に積み上げられた大量の印刷物が映し出された。

「印刷物の量は膨大でした。校内の修理審査のための紙、転校生の情報を伝達するための紙、給食に関連する紙……。それらはPCで入力後、印刷して郵送やFAXで相手に送る必要がありました。システムを使えばすぐに完了するものが、何工程も挟まないと完了しない状態だったんです。

一方で、保護者や児童への連絡などはデジタル化が進んでいました。紙でのやりとりは学校と市の教育委員会など行政との情報伝達に集中している実態がありました」(なかむらアサミ氏)

学校単体だけでは改革を進めることはできない

改革前進へのカギはそこにあると考えたチームワーク総研は、まず市の教育委員会と連絡をとり、印刷物でのやりとりを行っている背景を調査。するとその上位組織である、県の教育委員会や文部科学省が慣習的に紙での伝達を行い続けていることがわかった。

「実は、各教育委員会も膨大な紙のやりとりに課題を感じていました。しかしなかには条例を変えなくては手がつけられない領域のものもあり、現場の提案や努力だけでは解決しようがないものも。そこで私たちは、手をつけやすいものからデジタル化することで、少しずつ負担を減らすことができないかと考えました」(なかむらアサミ氏)

なかむらアサミ氏

サイボウズ チームワーク総研のなかむらアサミ氏。

さらに組織にありがちなのが「言い出しっぺがリードすべき」という暗黙の雰囲気。学校側は紙の使用を止めたくても、それを提案すれば自らが旗振り役となって多くの調整ごとに取り組まなくてはならない。現場のどこにもそこに着手する余裕や体制はなかった。

「問題の根は教育委員会と学校がチームとして機能していなかったことにあります。学校は、教育委員会が簡単には変更に応じてくれないと思い込んでいた。そこで小さくてもまずは改革の成功事例をつくることで、溝を埋めたいと思ったんです」(中村龍太氏)

チームワーク総研はモデル校の一つとなっていた静岡県三島市の公立中学校で、紙で行われていた校内の修理依頼のフローをデジタル化。これまでは、例えば塀の修繕を依頼するのにも添付書類をいくつもつけた郵送物を作成しなくてはならなかったが、フォームの入力と写真のアップロードで簡単に申請ができるシステムをつくった。

「郵送物やFAXは時間も労力もかかる。デジタル化は学校と教育委員会双方の仕事の効率化につながりました。また、今回の実証校だけでなく、市内にある21の小中学校に横展開されることになったのも成果の一つです」(なかむらアサミ氏)

小さな一歩だが、重要な一歩だ。成功事例があればその後の動きはスムーズになりやすい。

脱・ガンバリズム。合理化は決して手抜きではない

デジタルフローの画像イメージ

「まずはできることからスモールステップで」と、これまで紙でやりとりしていた修繕依頼書をデジタル上でのフローに変えた。

提供:サイボウズ

教育現場が無理を押し通して現在の形に至っているのには、「先生はがんばって当たり前」という暗黙のガンバリズムのカルチャーが関係しているのではと二人は指摘する。

「教育現場のみなさんは熱い志を持った仕事熱心な人たち。生徒たちのためになることは基本的に肯定的に捉え『がんばる』ことで、学校運営を成し遂げてきました。

それは讃えられるべきである一方、生徒一人ひとりに向き合うことに集中するためには余白を持たねばなりません。あらゆる業務を個人のガンバリズムに頼るのではなく、教育の質に影響しない業務は効率化することが重要です」(なかむらアサミ氏)


「このようなカルチャーの組織では、当事者が効率化ための提案をすることは勇気が要ります。しかし私たちのような外部の人間が提案をするのなら、まずはそれにのってみればいい。長く続けてきた制度や慣習を変えるのは簡単ではありませんが、習慣、風土、ツールといったものはきっかけさえあれば変えられます」(中村龍太氏)

中村龍太氏

サイボウズ 社長室長 兼 チームワーク総研メンバーの中村龍太氏。

とくに「習慣」はツールへの転換がしやすい。それを機に改善への機運が盛り上がれば、改革が前に進むこともあり得る。実際に三島市の学校では、修繕依頼フォームのデジタル化が一気に進んだという。

「はじめの一歩は些細とも思えるような変革ですが、『変えていこう』という機運を肌で感じることができたのでその後の改革もイメージがしやすくなったのでしょう。今は『こんなこともデジタル化できないか』という意見があちこちから上がるようになりました」(なかむらアサミ氏)

さらに大きな収穫は、学校と教育委員会の間のリレーションシップが強くなったことだ。両者による話し合いの機会が生まれたことで、互いに相談がしやすい関係性が育まれた。

「変革を進めたのはあくまでも学校や教育委員会です。私たちは伴走役。彼らの思いや取り組みを肯定しながら話を聞き、ときに視野を広げられるよう投げかけました。

チームワークはまずは『理想を共有する』ことから始まります。言語化されていなかった働き方改革の目的を明確にし、そのための役割分担を進めていくことで、彼らが一つのチームとして動き始めたんです」(中村龍太氏)

企業が教育現場に入る価値は、ギャップを埋めることにある

パソコンを見ながらメモをする人

Getty Images / iBrave

中村龍太氏は、学校という場に民間企業が入り込むことには大きな意味があると話す。

「企業と比べると、教育委員会や学校組織は極端に人の入れ替わりが少ない組織です。そのため何十年も同じ慣習、同じフローで物事を進めていてもそこまで違和感を持ちにくい。そこに私たちのような人間が中に入り、『私たち民間企業では、こういう方法をやっています』とフラットに伝えることで、選択肢を広げられるといいなと思います。

学校BPRが教員たちの負担を軽減するだけでなく、学校現場の知恵や社会との接点を増やすきっかけになればと考えています」(中村龍太氏)

さらに、今後の取り組みの展望についてはこう語る。

「先生の働き改革と同時に、100人いたら100通りの生き方ができるように学びの場自体も設計できればと考えています。

そのためには、能力を偏差値で測り、いい大学や企業に入ることを是とするこれまでの概念の変容も必要です。例えば学校という場に適応できない子にも学習の機会を提供するなど、これまで以上に柔軟な教育現場をつくるお手伝いは企業もできそうだと思いました。学校と企業がチームを組むことで可能性が広がるのではと考えています」(中村龍太氏)

業務の改善という一つの仕組み改革から、それを学校や教育委員会全体の意識変容へとつなげたサイボウズのチームワーク総研。今後の動きにも期待したい。


学校の働き方改革(学校BPR)の詳細はこちら。

取り組みにまつわるnoteはこちら。

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