メルカリは教育ポータルサイト「mercari education」を公開した。
出典:メルカリ
2022年度から高校の家庭科の授業に「金融教育」が加わることを受けて、フィンテック企業など民間企業が副教材づくりに動き始めている。
メルカリの決済サービス「メルペイ」も2月17日、自社で制作した教材をインターネット上に公開。メルペイのアプリ画面を活用したリアルな内容をウリにしている。
一方で、サービスへの誘導にならないか? など中立・公平性への懸念も募る。
高校生の3割が利用、キャッシュレス決済の功罪は
「金融教育」の学習テーマの1つであるキャッシュレス社会は、コロナ禍を背景に若者にも広く浸透しつつある。
提供:メルペイ
新たな学習指導要領により2022年4月から高校の家庭科の授業で、長期的な資産形成などを学ぶ「金融教育」が始まる。
改訂が発表された2018年7月に文部科学省が公開した「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」には「電子マネー」や「仮想通貨」などの具体的な事例の指導も検討すべきという記述がある。
指導に当たっては、例えば、キャッシュレス決済の利便性や家計管理の複雑化などを取り上げ、具体的な事例(電子マネー、仮想通貨など)を通して、キャッシュレス社会の利便性と問題点を理解し意思決定の重要性の理解を深める指導を工夫することなどが考えられる。(文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」より抜粋)
コロナ禍でスマホ決済の利用は2019年の18.7%から2020年には43.4%になるなど大きく増加しており(NECソリューションイノベータ調べ)、2020年9月時点で高校生の33.5%、大学生の44.6%がキャッシュレス決済を利用するなど(SMBCコンシューマーファイナンス調べ)、若年層にも普及している。
こうした動きを受け、フリマアプリやスマホ決済サービス「メルペイ」などで知られるメルカリは「mercari education」と題した教育ポータルサイトを新設した。
サイトに掲載された教材や指導案は無償でダウンロードでき、スマホ決済による前払い・即時払い・後払いそれぞれの特徴や注意点などが学べるようになっている。
民間企業のサービスをどの程度取り上げるか
提供:メルペイ
教員の金融教育の専門知識の不足や、多忙により授業の準備が満足にできないなど、金融教育の使いやすい副教材が教育現場で求められていることは過去の調査でも明らかになっている。
一方で気になるのが、教育現場における中立・公平性だ。具体的な事例を通して「自然と学ぶ」ことと、「サービスへの誘導」の境界が曖昧になる懸念がある。
2月17日のメルカリ主催の記者会見に登壇した鳴門教育大学大学院学校教育研究科の坂本有芳准教授は言う。
「いくら金融教育といえど、民間企業のサービスや取り組みをどの程度取り上げていいのか、難しい部分は確かにあります。
ただ、そもそも消費者教育は生徒の批判的な視点を磨くことに主眼を置いたものです。教員もその点は理解しているので、教材に出てくる商品やサービスをそのまま紹介するのではなく、参考にしながらうまく取り入れていくと思います」 (坂本有芳准教授)
パイロット授業で手応え。現場のニーズに忠実に
メルペイでは金融教育のパイロット授業を重ねてきた。黒板に書かれているのは、メルカリが掲げるミッション「Go Bold」だ。
提供:メルペイ
同会見で、メルペイで金融教育を担当する齋藤良和氏は、今回の一連の取り組みについて
「もちろん宣伝目的ではありません」
と前置きした上で、
「メルペイの実際の画面を例示した教材もありますが、その配分や配慮については、教育関係者からの意見を参考に調整してきました。
扱う事例をできる限り一般化することで、メルペイに特化したものではなく、キャッシュレス決済サービス全般に言えることを中心にした内容になっています」(齋藤氏)
と話した。
メルペイではサイトの開設に先駆け、2021年から金融教育のパイロット授業を重ねてきたそうで、架空のサービスよりも「メルペイの要素があったほうが、実際に生徒の興味関心を引くような内容になりありがたい」という現場の声もあったという。
日本社会では金融リテラシーの低さがかねてより問題視されてきた。金融教育はそれを打開する一手となり得るのか。フィンテック各社の動向にも注視しながら見守りたい。
(文・竹下郁子)