「Surface Laptop Studio」。試用したのはCore i7・GeForce RTX 3050Ti搭載のモデル(直販価格34万1180円)だ。
撮影:西田宗千佳
マイクロソフトが2月28日から発売する新PC「Surface Laptop Studio」のレビューをお届けする。
Surfaceシリーズの中でもこの製品はハイエンド・クリエイター向けに属するもので、これまでのラインナップでいえば「Surface Book」や、デスクトップ型の「Surface Studio」の系列であり、実質的にSurface Bookの後継となる。
ディスプレイに変形機構を搭載し、ペンを使った作業との並存がしやすいのが最大の特徴だが、NVIDIA製のGPU(グラフィック処理に特化した半導体)を搭載しているのも重要な点である。
GPUはクリエイターに必要とされるものだが、同時にゲームをやるうえでも重要なものだ。
テレワークの時代になり、自宅PCの重要度は上がっている。同時に、PC用ゲームも増えており、「ゲームもできるPC」が求められるようにもなっている。そして、そういうPCは、VRを中心としたいわゆる「メタバース」アプリとの親和性も高い。
Surface Laptop Studioについて、ゲーミングPCとも比較しながら、その性能や価値をチェックしてみよう。
ディスプレイ折りたたみに方式を変更、ペンはキーの下に収納
ディスプレイは真ん中からパタンと倒れるように動く構造に。引き出す幅を変えることで使い勝手が変わる。
撮影:西田宗千佳
すでに述べたように、Surface Laptop Studioは、Surface Bookシリーズの後継といえる製品だ。
これらに共通しているのは、「ペンでの本格的な手描き作業に向いた構造である」ことと、「GPU搭載でパワフルである」ことだ。また、「ギミックに凝ったPCである」というのも共通項だ。
Surface Bookはディスプレイ側にCPUなどのPC本体が入り、GPUと大容量バッテリーの入ったキーボード側と分離して使えるのが特徴だった。
大型タブレットとしても使えるためペンは使いやすかったが、ディスプレイが重く、PCとして普通使おうとするとディスプレイが揺れやすい。要は「首が座らない感じ」がするPCだった。
Surface Laptop Studioでは分離式をやめることで、その問題は出なくなった。その代わり、ディスプレイ部が中央からパタパタと折りたためる構造になっており、ディスプレイを手前に引き出して使える。
映像を見るために画面だけに集中したり、タブレットのように平くしてペンを中心に使ったりできる。折り畳み構造はかなりしっかりしており、揺れたり勝手に倒れたりすることはない。
本体上面。中央の線がディスプレイ部の「折れ目」だ。
撮影:西田宗千佳
画面サイズは14.4インチ、縦横比は3対2と広く取られているので、作業がしやすいのもポイントだろう。搭載されているのは普通の液晶であり、HDRには対応していない。
昨今のクリエイター向けPCでは、Windowsだと有機ELを、MacではマイクロLEDを使ってHDR対応したディスプレイを採用したものが多いため、その点は多少見劣りがする。だが、HDRにこだわらないのなら、画質的に問題は感じなかった。
ペンの「収納場所問題」が解決
本体底面。手前の凹んだ部分に別売の「Surface Slim Pen 2」が収納できる。
撮影:西田宗千佳
おもしろいのは、使用するペンを本体の「下」に収納できることだ。
Surface Laptop Studioでは、主にペンとして別売の「Surface Slim Pen 2」が推奨されている。Surface Pro 8やSurface Duo 2でも使われているものだ。
Surface Laptop Studioは、キーボード側が薄い箱を2つ重ねたような構造になっている。上はキーボードやタッチパッドがあり、その下はひとまわり小さく、段差になっているイメージだ。
キーボードとタッチパッドのサイズは十分に余裕があり、使いやすい。
撮影:西田宗千佳
左右から吸排気してCPU・GPUを冷やしているが、手前も一段下がっているので、ここにSurface Slim Pen 2をマグネットで止める形になる。
本体左側。USB Type-Cインターフェースが2つある。Type-Aは用意されていない。
撮影:西田宗千佳
本体右側。ヘッドホン端子と、細長いSurface専用コネクターがある。
撮影:西田宗千佳
マグネットは強力なので簡単には落ちない。同時に充電やペアリングも行うようになっている。
Surface Bookまではペンをしまう場所がなかったので不便だったが、この仕組みはかなり使いやすい。
これらの点を総合すると、重さを除けば「ノートPCとしての完成度」は相当に高い。
ゲーム性能では「ゲーミングPC」に負ける
では、もう1つの特徴である「パフォーマンス」の点をチェックしてみよう。
一般的なビジネス用途において、Surface Laptop Studioはまったく問題なく快適だ。今回試用したモデルのスペックは以下の通り。快適なのも当然ではある。
- CPU:第11世代 Core i7-11370H(クロック周波数3.3GHz)
- メモリー:32G
- GPU:GeForce RTX 3050Ti
比較対象に使った、ASUS製のゲーミングPC「ROG Zephyrus G14」2021年モデル。2021年5月購入時の価格は24万円程度。
撮影:西田宗千佳
では、GPUを酷使する用途はどうだろう?
具体的には、ゲームやVRだ。こうした用途には、いわゆる「ゲーミングPC」を使うのが一般的だ。
ここでは筆者が日常で使っているASUS製ゲーミングPC「ROG Zephyrus G14」(CPUはAMD Ryzen 9 5900HS、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060 Max-Q)と比較する。
今回の試用機の性能は、そもそもゲーミングPCとしては「少し低め」ではある。
その上で、ゲームを想定した3Dグラフィックスのベンチマークである「3D Mark」と、同じくVRを想定した「VR Mark」の値を見ていこう。
ゲームを軸に3D性能を測る「3D Mark」。いくつかのテストがあるが、今回は「Time Spy」を利用。左がSurface Laptop Studioで、右がゲーミングPC。スペック分の差がはっきり出た印象だ。
VR関連アプリ性能を測る「VR Mark」。VRなので左右2画面分の描画とそのフレームレートを計測。こちらもSurface Laptop Studioが少し劣る。
だが、PC全体で見れば、Surface Laptop Studioは決して性能が悪いわけではない。「2560×1440ピクセル(WQHD)で画質設計は抑えめ」くらいなら、十分快適に遊べるのではないかと思う。
参考として出ている「Apex Legends」の「1440p(WQHD)/Ultra」設定の描画コマ数は毎秒40コマを超える程度となっている。
ただ気になるのは、ゲーミングPCと比較した場合、「発熱によってCPU性能が絞られているのではないか」と思える挙動がある点だ。
何度もテストして本体が熱くなった時は、CPUの値が落ちているように思える。
また、表面温度はキーボードからパームレストまで全体が40度を越える。ボディーが金属製ということもあり、熱が伝わりやすいのだろう。ゲームを全力でやるなら、やはりゲーミングPCをおすすめする。
ゲーミングPCほどの性能はないが、静かで「快適」
本体底面の空調用のスリット。ここから吸排気するが、ファンの音は負荷の割に静かだ。
撮影:西田宗千佳
軸を性能から「快適さ」に変えてみると、Surface Laptop Studioは、悪い部分ばかりではない。
まず、動作音がかなり違う。負荷の低い、ウェブ閲覧やオフィスワークなどを利用した場合でも、ゲーミングPCは35dBくらいの音で動作し、多少ファンの音が気になる。
だが、Surface Laptop Studioはほぼ無音に感じられる30dB程度。周囲の環境音と変わらない。
ベンチマークを回してフルにCPU/GPUが回り始めるとさらに変わる。ゲーミングPCは40dB近くまで音が大きくなり、いかにも「ファンが全力で回っている」感じがするが、Surface Laptop Studioは35dB程度で、ゲーミングPCの低負荷時よりちょっとうるさい、くらいで収まる。
排気も、ゲーミングPCは左右にかなり熱い空気が出ていき、机の上が熱くなる。一方でSurface Laptop Studioは、本体手前の左右だけが熱くなり、奥側はそうでもない。
電源のサイズを比較。左がSurface Laptop Studio用で、右がゲーミングPC用。左なら日常的に持ち運べるが、右はかなり厳しい。
撮影:西田宗千佳
電源のサイズも違う。
ゲーミングPCは最大180Wの出力だが、Surface Laptop Studioは102W。だからその分コンパクトだ。Core i5モデルだと65W出力の電源に変わるので、さらに小さくなる。
これらの点を考えると、Surface Laptop Studioの設計の狙いが見えてくる。
もちろん高負荷で使えることを想定した製品なのだが、ゲーミングPCのように「常に全力」を想定しているものではない。
日常の大半を占める「ビジネスワークや低負荷のクリエイティブワーク」は快適さを重視し、必要な時には高い負荷もOK、というバランスなのだろう。ゲームも、性能とのバランスを理解した上で楽しむなら十分だと思う。
結局のところ、スタイリッシュさを含めた「バランス」がSurface Laptop Studioの持ち味だ。従来に比べ完成度は上がったが、製品の特徴として「無理をさせない」スペックであり、構造であることも見えてくる。
今回レビューしたモデルは34万1880円(税込)。これは性能比だけで言えばゲーミングPCよりも高いものだ。
だが、デザイン+ペン+日常の使い勝手、という面を足したとき、このバランスをどう受け止めるかが、購入するかどうかのポイントになるだろう。
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