アルペンスキーで冬季五輪3大会連続出場を果たしたミカエラ・シフリン。
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2014年ソチ冬季オリンピックで、ミカエラ・シフリン(Mikaela Shiffrin、アメリカ)は18歳にしてアルペンスキー回転で史上最年少となる金メダリストとなった。2018年平昌では女子大回転で再び金メダルを手にし、女子アルペン複合でも銀メダルを獲得した。
しかし2022年2月に開催された北京冬季オリンピックでは、シフリンはその2種目で思いもよらない悲惨な結果に終わった。大回転は1回目で転倒し、アルペン複合後半の回転ではコースアウトしてしまった。これらの失敗により、同種目でのメダル獲得の可能性を失った。
シフリンはNBCの取材に対し、「この15年間、回転での自分のスキーや勝つためのメンタリティについて分かっていたつもりでしたが、すべて否定されたような気がします」と話した。
北京冬季オリンピックで予期せぬ敗北を喫したアメリカ人は、シフリンだけではない。
2014年と2018年大会の金メダリストであるスノーボード選手ジェイミー・アンダーソン(Jamie Anderson)は、スロープスタイルで大方の予想に反して入賞できなかった。アンダーソンは敗退後、NBCの取材に応じ、幸せは競技結果にとらわれるものではないこと、そしてチームメイトをサポートしていくことを語った。
アンダーソンは、「少し精神的に参ってしまいました。私も人間ですから。常にベストを尽くして一生懸命やっていますが、ロボットのようにはいきません」と話した。
シフリンやアンダーソンのように、多くの人はキャリアを積んでいくなかで挫折や失敗に直面する。そしてこの2人のアスリートと同様に、私たちは弱い存在であるということを忘れてはいけない。オリンピックコーチや元アスリートによると、失敗は避けられないものなのだ。
本稿では、トップアスリートに指導しているコーチや元アスリートから話を聞いた手痛い失敗への対処法を紹介する。対処法は誰もが自らの成長のために実践できるものだ。
失敗は避けられないが意味がある
試合に負け会場を去らなければならなかったり、たった一度のミスで夢が砕け散ってしまったりすると、アスリートは喪失感に押しつぶされそうになる。
しかし一時の失敗は、往々にして人生という大きな旅の糧になるものだ。そう話すのは、2020年夏季オリンピックで金メダル5個、銀メダル6個、銅メダル3個を獲得した女子陸上競技アメリカ代表選手団のヘッドコーチ、ローズ・マンデー(Rose Monday)だ。
「私はオリンピック選手になるために、オリンピック選考会に3度挑戦しました」。マンデーは、1984年、1988年、1992年のオリンピック代表選考会に陸上選手として挑んだ。「でも気がついたら、オリンピックコーチを3度も経験するという、もっと大きな計画が私の人生に用意されていたのです」
マンデーは、2012年と2016年のオリンピックではアシスタントコーチに、2020年大会ではヘッドコーチに任命された。オリンピックのコーチになろうとは全く思っていなかったが、彼女は、勝者とは過去の敗北を乗り越え「次の成功のチャンスに向かって進む人」のことだと話す。
将来を見つめ自分の夢を再定義することは、これまでの成長の糧ともなった失敗から目を逸らすこととは別物だとマンデーは言う。ケガをしたり、試合に負けたり、何かを断念したりするたびに「悲しむ時間」は必要であり、コーチは選手にその時間を与えることが重要だ。
「これはスポーツに限った話ではありません。潔く勝ち、潔く負けることを学ぶことが大切なのです」とマンデーは話す。
コーチであるマンデーは、選手を導くうえで常にポジティブでいるよう努め、失敗を恐れずに受け入れるよう指導している。
「失敗への対処に不可欠なのは、ユーモアのセンスです」と助言する。
仕事だけが人生ではない
現在、ノートルダム大学で陸上競技のアシスタントコーチを務めるロドニー・ザイダーウィック(Rodney Zuyderwyk)は、2008年から4大会連続で夏季オリンピックの陸上種目に出場したカーラ・ウィンガー(Kara Winger)の元コーチでもある。そのザイダーウィックは、失敗はあなた自身やキャリアを否定するものではないと言う。
アスリートであれビジネスパーソンであれ、キャリア上での失敗にうまく対処するためには、競技や仕事に邁進するだけでなく、それ以外のアイデンティティを持つことが大事だとザイダーウィックはアドバイスする。
「競技生活は長い人生のほんの一部であり、人生の目的は競技場で出す結果よりもはるかに大きいものだということを知っておくべきです」とザイダーウィックは話す。
スポーツや仕事以外に打ち込めるものを持っていれば、競技場や職場で思うような結果が得られないときに、必要な視点をもたらしてくれるという。
これはアスリートとビジネスパーソンに共通する教訓だが、コーチや会社も、選手や社員が熱意を保てるようサポートすべきだとザイダーウィックは言う。練習にも楽しみを見出せるアスリートこそが、一流の選手に成長するからだ。職場の上司は、部下が担っている仕事は会社にとって価値があるものだということを伝えていくべきだろう。
「選手には楽しみながら、広い視野を持って取り組んでほしい。やればできると励ましながら、選手のやる気を引き出しています」とザイダーウィックは話す。
[原文:Olympic coaches share the 2 mental habits they use to keep athletes resilient]
(翻訳:西村敦子、編集:大門小百合)