NFTとメタバースが消費者向け技術の主流となり、ビットコインは後塵を拝するのか。
Francesco Carta fotografo/Getty Images
2022年2月に行われたスーパーボールでは、数多くの仮想通貨のコマーシャルが流れた。レブロン・ジェームズ(LeBron James)などのスター選手やラリー・デイビッド(Larry David)らコメディアンを起用した広告は、誰もが仮想通貨市場に参入していることを示唆している。最大の仮想通貨取引所の1つであるコインベース(Coinbase)は、新規ユーザーに対して15ドル(約1800円、1ドル=117円換算)相当のビットコインを提供するキャンペーンを行ったほどだ。
しかし、この盛り上がりのほとんどは、ビットコイン以外の仮想通貨に集中している。2021年には330億ドル(約3兆8610億円)以上のベンチャーキャピタルの資金が仮想通貨に流れ込んだが、その資金のほとんどがビットコイン開発に使われなかった。
当初、多くの人々は、ビットコインを麻薬や密輸のための神秘的で極悪な決済手段と見ていた。一方、ビットコインの伝道者たちは、これは金融システムと貨幣の概念に革命を起こすものだと語っていた。2008年の金融危機をきっかけに政府や金融機関に対する不信感が高まったことで、既存の金融システムに対するカウンターカルチャーが始まった。今では、レイ・ダリオ(Ray Dalio)のようなベテラン投資家からフィデリティやゴールドマン・サックスのような金融機関までがビットコインを受け入れている。
ビットコインは今も仮想通貨の中で最大の時価総額を持つ。しかし、仮想通貨全体の総時価総額に占めるシェアは低下しつつある。
なぜ、開発資金がビットコインに向かわなかったのか?
一つには、消費者向けの決済システムとして、ビットコインが成功していないということがある。ビットコインは資産としては主流だが、その内在する欠点のため、一般的な決済システムとして使われることはほとんどない。例えば、速度が遅い。はっきり言おう。コーヒーショップで、ビットコインの支払いが完了するまで20分も待つ人はいないだろう。
ビットコインが初めて取引された2009年は、iPhoneの最新機能が3Gで、32ギガバイトのストレージが贅沢品とされていた年だ。あれから13年経った今、ビットコインを支えるテクノロジーは時代遅れになった。私たちがいま必要としている、大量のデータトランザクションを処理するために構築されたものではないのだ。
また、ビットコインの主眼は、決済システムから「価値の貯蔵」に移行したというが、その主な理由は発行総量が上限2100万枚と決まっているからだ。さらに、ビットコインの検証プロセスには膨大な電力消費量を要することも批判の的となっている。
ビットコインを支える技術は歴史的な成果といえるが、ビットコインによる技術の使用法は一次元的だ。この技術には、新しい刺激的な使い方が登場してきている。非代替性トークン(NFT)は、芸術や音楽の売買方法を変えつつあるし、分散型金融は消費者の資金管理の方法を変えつつある。そしてメタバースは、ソーシャルメディア、オンラインゲーム、広告、ショッピングを再定義しようとしている。
仮想通貨の技術の新しいユースケースは、あらゆる形態の消費者向け技術に影響を与えることになるが、そのいずれもビットコインとは関係がない。
イーサリアムが市場を席捲
イーサリアム(Ethereum)は2015年に発行され、現在では時価総額で2番目の仮想通貨となっている。ビットコインと同様にイーサリアムもまた、ブロックチェーン技術にとっては極めて重要な変化を体現している。私はイーサリアムを仮想通貨と呼ぶのが嫌いだ。なぜなら、イーサリアムはそれ以上の存在だからだ。
イーサリアムは、アップルのiOSやグーグルのAndroid OSのように、プログラミングが可能な世界的な強力コンピューティング・エンジンなのだ。開発者がiOSやAndroidのアプリを作るのと同じように、開発者はイーサリアムのブロックチェーンで分散型アプリを作ることができる。現在、イーサリアム・ブロックチェーンは、消費者向け暗号製品の基礎的な構成要素となっている。NFTからビデオゲームに至るまで、あらゆるものの作成に使用されている。
新種の仮想通貨であるイーサリアムなら、ビットコインにはできない多くのことが簡単にできる。また、イーサリアムは消費電力がはるかに少なく、より環境に優しいとされている。
私は、ビットコインとそれが象徴するものが大好きだ。しかし仮想通貨の使い勝手は、それが提供するデジタルな価値を大きく上回るものだ。
仮想通貨の未来は、ビットコインよりもはるかに重要な使われ方をする消費者向けアプリケーションをどれだけ生み出せるにかかっている。
アンドリュー・キグエル(Andrew Kiguel):Web 3.0資産に投資する上場企業トークン・ドットコム(Tokens.com)のCEO兼共同設立者。トークン・ドットコムのほか、メタバース・グループ、ビットコイン、イーサリアムにも所属。
(翻訳・住本時久、編集・大門小百合)