シャケリ・リチャードソン(左)とカミラ・ワリエワ(右)。
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- オリンピック選手は、何百種類もの薬物の使用を禁じられている。
- 多くの場合、禁止薬物は持久力、筋力、エネルギー、集中力などを向上させると考えられている。
- この規則は選手が陽性と判定された場合、どのようなペナルティを受けるかを巡り、常に論争を巻き起こしている。
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)によると、オリンピックなどの国際スポーツ大会に出場するアスリートは、安全上のリスクがある、不当な利益をもたらす、あるいは「スポーツ精神」に反するという理由で、特定の薬物の使用が禁止されている。
シャケリ・リチャードソン(Sha'Carri Richardson)やカミラ・ワリエワ(Kamila Valieva)といった有名なアスリートをめぐる最近の論争は、禁止薬物を使用したアスリートはどうなるべきか、また、なぜ特定の薬物が禁止されているのかについて疑問を投げかけている。
現在、数百種類の物質が使用禁止リストに掲載されており、それらを禁止する理由も多岐にわたっている。禁止薬物の主に興奮剤、タンパク同化剤、代謝調節剤といったカテゴリーに分けられており、筋肉の増加の促進、血流の改善、持久力と集中力の向上などによって、競争能力に影響を与える。
「タンパク同化ステロイド」は筋肉や体力の増強に有利
禁止されている物質の中には、アスリートがより早く筋肉をつけるために、競技中ではなく競技前に使用するものもある。
アメリカ、ミネソタ州の総合病院メイヨー クリニック(Mayo Clinic)によると、トレーニング・ドラッグとして知られるカテゴリーには、タンパク同化ステロイド(アナボリック・ステロイド)が含まれる。これは、ヒトのホルモンであるテストステロンをさまざまな形で人工的に合成したもので、体を大きく強くするために筋肉をつける働きをするという。
「成長因子」は筋肉や結合組織を保護する
ヒト成長ホルモン(human growth hormone:HGH)などの成長因子は、筋肉と靭帯、腱などの結合組織の形成を助け、激しい運動で破壊されないように保護する働きがある。
ナイジェリアの女子陸上選手、ブレッシング・オカグバレ(Blessing Okagbare)は、検査で成長ホルモンに陽性反応が出たため、2021年の東京オリンピックへの出場を禁止された。
「ペプチドホルモン」は赤血球を増加させる
成長ホルモンと同じカテゴリーに含まれるのが、エリスロポエチンなどのペプチドホルモンで、体内で赤血球をより多く作り、筋肉への酸素供給をより効果的にする働きがある。つまり、この薬は、より酸素を多く利用できるようにすることで、持久力を向上させるのだ。
ペンシルベニア州立大学の健康・スポーツ科学名誉教授、チャールズ・イェサリス(Charles Yesalis)博士は、ペプチドホルモンを競技力向上のために使用することは「血液ドーピング」と呼ばれているとInsiderに語っている。
「トリメタジジン」のようなホルモンや代謝調節物質は、効率的で疲労しにくい体を作る
代謝調節剤などと呼ばれる薬物は、体内の特定の化学反応を早めたり遅らせたりすることができる。持久系スポーツのアスリートの疲労を遅らせたり、運動の効率を上げることから、パフォーマンスを向上させるものと考えられている。
例えば、トリメタジジンは狭心症(血流低下による胸部の痛み)の治療に用いられる薬で、心拍数や血圧を上昇させずに、心臓の働きを活発にする作用がある。最近では、2022年の北京オリンピックでロシアのフィギュアスケート選手、カミラ・ワリエワ(Kamila Valieva)がトリメタジジンの陽性反応を示し、出場が許可されながらもメダル獲得のチャンスを逃したことが話題になった。
コカインやアンフェタミンなどの「興奮剤」は、エネルギー、スピード、反応時間を向上させる
興奮祭には、エネルギーや集中力を高める薬物や医薬品が含まれる。メイヨークリニックによると、アスリートの血流や反応時間を改善するだけでなく、競技中にアスリートの集中力を維持できるようにすることで、利益をもたらすことができるという。
コカイン、メタンフェタミンなどの違法薬物、またアデロールなどの処方薬も禁止される興奮剤のカテゴリーに含まれる。
シカゴ・トリビューンによると、世界で最も人気のあるパフォーマンス向上薬であるカフェインも、その興奮作用から、2004年までオリンピックで禁止薬物に指定されていた。
大麻の有効成分「THC」はパフォーマンス向上剤としては「グレーゾーン」
大麻は20年前からオリンピックで禁止されており、その有効成分であるTHCを含む製品も同様に禁止されている。
しかし、専門家はパフォーマンスを向上させる薬物としてはTHCを「グレーゾーン」だとしている。イェサリス博士によると、この物質は主に回復を促進し、痛みを緩和するために使用されているという。
カンナビジオールあるいはCBDと呼ばれる大麻の別の成分は、2019年に禁止物質リストから削除された。CBDは、THCと同様の鎮痛効果やリラックス効果に関連しており、向精神作用や 「ハイ」になる効果はない。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)