ジャック・ドーシー。
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ツイッター(Twitter)の共同創業者でブロック(Block、前Square)創業者のジャック・ドーシーは、2021年12月、自身のツイートの中でベンチャーキャピタルのWeb3に対する関わり方を批判した。このツイートは波紋を呼び、ドーシーは業界最大級のベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)のパートナー、ロエロフ・ボサ(Roelof Botha)から連絡を受けた。
「あの時、あなたにアドバイスをもらおうと電話したんです。セコイアとしての方針を固め、業界として正しいと言われることをしたいと思っていましたから」ボサは2022年2月16日、セコイアがホストしているTwitter Space(Clubhouseに対抗してTwitterが開始した音声チャットサービス)の中でそうドーシーに語った。この日ドーシーは、Twitter Spaceにスピーカーとして招かれ、自身のWeb3に対する考え方を披露した。
セコイアが投資する案件の5件に1件は仮想通貨関連だとボサは言う。2022年2月17日、セコイアは仮想通貨業界に特化した初のファンド、セコイア・クリプト・ファンドの立ち上げを発表した。その規模は5億〜6億ドル(約575億〜690億円、1ドル=115円換算)となる見込みだ。
「自分たちへのリターンを期待することなく、オープンソース業界に投資すべきだ」とボサに伝えたと、ドーシーはその時の電話の会話を振り返った。
「オープンソース」とは、誰もが自由に使用・改変できる公開コードを意味する。この言葉は、一社によってコントロールされることのない分散型構造を持ったテクノロジーの追求から生まれたものだ。同じ発想から、多くの人がブロックチェーン、仮想通貨、Web3技術を創り出している。
ドーシーは、Twitter Spaceのリスナーに持論を展開するために、数十年前にインターネットが始まったばかりの頃の話をし、1980~90年代のチャットグループ、ユースネット(Usenet)に言及した。
「ユースネットでは、面白い人たちにたくさん出会いました。暗号技術をお金に応用すれば人はオープンな金融ネットワーク、オープンなシステムを手に入れられるといった内容の投稿が多々あり、エネルギーに溢れていたんです」
この考え方に魅了されたドーシーは、プログラミングを学んだ。もっとも、「(プログラミングは)それほど熱心には取り組みませんでした。受け身の姿勢で、できる範囲でって感じでしたけどね」と言う。
それが、リーマンショックの翌年、2009年までの話だ。
「当時、お金や金融に関するテクノロジーにはチャンスがあった。だから多くの企業や事業が立ち上げられたんです」とドーシーは言う。
2009年に設立された企業の中には、ストライプ(Stripe)やスクエア(Square)といった決済サービス会社もある。同じ年に、ビットコインの論文が「サトシ・ナカモト」というペンネームの著者によって発表された。
「ビットコインや初期のインターネットからインスピレーションを受けたのは、どちらも同じようなエネルギーに満ち溢れていたからです。ぶっ飛んでいて、パンクっぽさがありました。既存の体制、特に大企業に挑戦していこうという空気がありました」とドーシーは語る。
実際、ドーシーが運営する上場会社のブロックは、オープンなビットコイン・マイニング・システムを立ち上げた。
この初期のインターネットとの出会いが、オープンソースや分散型構造であるべきだという自分の価値観を形成したとドーシーは言う。だからこそ、Web3分野の多くのプレーヤーが分散型であることを売りにしているのを見て、VCの支援を受けている多くの会社は、実は一部の人の支配が進むという、暗号技術の集権化に寄与していると批判せざるを得なくなったという。
「あなた方はWeb3のオーナーではありません。オーナーはVCとそのリミテッド・パートナーなのです。彼らのやろうとしていることからは決して逃れられません。彼らは、名前をすり替えただけの集権的組織です。あなた方がどんなところに足を踏み入れようとしているのかを知っておくべきです」
「自分たちがどんなところに足を踏み入れようとしているのかを理解しなければならないということを、みんなに知ってもらいたかった」とドーシーは自らのツイートの意図を説明した。
ただしドーシーは、自分が展開する批判は、スタートアップのエコシステムを支えるVCの価値を損なうものではないと明言する。
「VCの必要性は明らかですし、VCの役割も評価しています。しかし投資を受ける側は、VCの投資目的、手段、オーナー、誰がコントロールしているのかを理解する必要があります」
皮肉な面もある。ツイッターもかつてはVCの支援を受けたスタートアップであり、その成功があったからこそドーシーや仲間の共同創業者は億万長者になったのだ。
「Web2の会社を立ち上げるなかで多くのことを学びました。でもそういうのは苦手なので、二度とやりませんけどね」
もうひとつ皮肉な面がある。セコイアは、かつてスクエアの出資者に名を連ね、今では仮想通貨とWeb3の分野における大手VCアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)とライバル関係にある。a16zが最近立ち上げた暗号資産投資ファンドは22億ドル(約2530億円)規模で、仮想通貨投資ファンドとしては最大級だ。ドーシーのツイートは、a16zの共同創業者マーク・アンドリーセンとの公開論争へとつながった。
ドーシーとボサの対話は微妙な意味を持つ。セコイアとその新ファンドは、次世代インターネット技術を、既存の巨大企業の手から奪い取ると公言しているドーシーと足並みを揃えているのだ。
スタートアップが分散化を実践するなら、オープンソースの事業を興すことが一つの方法になるドーシーは言う。
「どの分野であれ、このコミュニティをよくするためにオープンソースの開発者を採用する機会があれば、ぜひ検討することを勧めます」
このような課題があるにせよ、ドーシーは、Web3から生み出される技術に希望を抱いている。
「間違いなくそこには、面白いスピリットと素晴らしいアイデアがあります。しかし、実際にそれがどうやって形になっていくのか、誰が所有しているのか、今後の方向性を決める発言権を誰が持っているのか、真剣に考えるべきです」
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)