EV業界のユニコーン15社のうち、半数以上を中国企業が占めている。
WM Motor
今、かつてないほど多くのスタートアップが「ユニコーン(評価額が10億ドルを超える未上場ベンチャー企業)」の地位を獲得しているが、電気自動車(EV)業界も例外ではない。
ベンチャーキャピタル(VC)の支援を受け、評価額が短期間のうちに10億ドルを超えた未公開EVスタートアップが世界各地で生まれている(なかには量産車の販売実績がない企業もある)。
EVやバッテリーメーカー、充電事業者などを含むEV業界のユニコーン企業は15社あり、このうち中国企業が半数以上を占めている。これは、中国発のスタートアップが世界のEV競争をリードしていることを示している。
中国にこれほど多くのユニコーンが誕生した理由のひとつは、中国国内VCによる投資額の伸びだ。米自動車コンサルティング会社ゾーゾー・ゴー(ZoZo Go)のCEOであるマイケル・ダン(Michael Dunne)は、「中国のVCは、ここ5~7年で大きく成長しました。VCや銀行をはじめ投資家は皆、中国のEVスタートアップを有望な投資先だと考えています」と話す。
また、中国政府が脱ガソリン車を強く推進しているという事情もある。「政府による支援がEV投資を加速させる要因となっています」とダンは話す。
EV業界では近年、ユニコーンの地位を獲得した後に上場を果たした企業が数多く存在する。EVメーカーではアメリカ発のリビアン(Rivian)、二コラ(Nikola)、ファラデー・フューチャー(Faraday Future)、プロテラ(Proterra)、イギリス発のアライバル(Arrival)、中国の理想汽車(Li Auto)、小鵬汽車(Xpeng Motors)、上海蔚来汽車(NIO)はいずれも、評価額が10億ドルを超えた後、IPOもしくはSPAC(特別買収目的会社)を通じて新規公開を果たした。EV充電インフラ運営会社のチャージポイント(ChargePoint)やバッテリーメーカーのクアンタムスケープ(QuantumScape)も同様だ。
だがユニコーン企業に成長したからといって、必ずしも成功するとは限らない。「(EV業界は)企業の運命が急変するダイナミックな業界」とダンは話す。
本稿では、将来が有望視されるEV業界のユニコーン15社を紹介しよう(ピッチブック・データ(PitchBook Data)提供のデータは2022年2月7日時点のもの)。
レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)
レッドウッド・マテリアルズのJ・B・ストラウベル創業者兼CEO。
Redwood Materials
ユニコーン到達日:2021年8月18日
現在の評価額:38億ドル(約4370億円、1ドル=115円換算)
本社:アメリカ・ネバダ州カーソンシティ
テスラ(Tesla)の元最高技術責任者(CTO)J・B・ストラウベル(J. B. Straubel)率いるバッテリーリサイクル会社。EVの使用済みバッテリーから、リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルをリサイクル原料として回収、加工し、再びメーカーに供給している。
これらの原材料を実際に鉱山で採掘するにはコストや技術的な問題があるうえ、非倫理的な手段が用いられることも多く、持続可能ではない。そのため、EVの生産量の増加に伴い、リサイクルが注目されている。
レッドウッド・マテリアルズは2021年7月に7億ドル(約805億円)の資金を調達し、同年9月にはフォード・モーター(Ford Motor)から5000万ドル(約57.5億円)の出資を受けている。
蜂巣能源科技(SVOLT Energy Technology)
ユニコーン到達日:2020年4月30日
現在の評価額:72億1000万ドル(約8292億円)
本社:中国・常州市
リチウムイオン電池、バッテリーシステム、エネルギー貯蔵システムの開発・製造を手がける。中国の自動車メーカーである長城汽車(Great Wall Motor)から電池部門を分離、独立して設立された。
SVOLTは2021年12月、2025年までに車載電池の生産能力を年間600ギガワット時(GWh)まで大幅に引き上げる戦略を明らかにした。この目標が達成されれば、2021年に96.7GWhに達した中国車載電池最大手であるCATL(寧徳時代新能源科技)の生産能力を上回ることになる。2021年には3度の大型資金調達を完了している。
能鏈集団(Newlink Group)
ユニコーン到達日:2021年3月22日
現在の評価額:10億ドル(約1150億円)
本社:中国・北京市
創業は2016年。中国国内のドライバー向けに用途に合ったガソリンスタンドや充電ステーションを検索できる燃料情報アプリを展開している。
EV充電に関して特に厄介なのは、充電方法が事業者によってバラバラで、統一されたアプリもなく、支払いにもそのつど手間がかかることだ。
能鏈集団は燃料の種類にかかわらず、ドライバーが給油または充電するプロセスの簡素化を目指している。米ベイン・キャピタル(Bain Capital)や中国のNIOキャピタル(NIO Capital)などから出資を受けている。
ノースボルト(Northvolt)
ノースボルトのピーター・カールソンCEO
Northvolt
ユニコーン到達日:2019年6月12日
現在の評価額:117億5000万ドル(約1兆3513億円)
本社:スウェーデン、ストックホルム
テスラの元サプライチェーン部門長であるピーター・カールソン(Peter Carlsson)が2016年に創業。フォルクスワーゲン(Volkswagen)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、BMWのほか、スポティファイ(Spotify)の創業者ダニエル・エク(Daniel Ek)などが支援している。
ノースボルトは、EV用電池の希少な原料を再利用し、より環境に配慮した方法でリチウムイオン電池を製造している。2022年中に商用顧客向けに初出荷を予定している。
ノースボルトはヨーロッパの自社工場で生産を行っており、顧客のアジアへのバッテリー依存度を減らせるよう取り組んでいる。
輝能科技(ProLogium Technology)
ユニコーン到達日:2020年4月8日
現在の評価額:25億ドル(約2875億円)
本社:台湾・桃園市
2006年創業。高容量が見込める全固体リチウムセラミック電池の量産化に成功している。
2021年10月にソフトバンクグループや中国のプリマベーラ・キャピタル・グループ(Primavera Capital Group)などから3億2600万ドル(約375億円)の資金を調達し、2023年から2025年にかけて、アジア、ヨーロッパ、アメリカで生産を拡大する予定だ。
2022年1月にはメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)が同社への出資を発表し、全固体電池の共同開発を手がけていく。また、NIOや中国の天際汽車(Enovate Motors)とも提携している。
星星充電(Star Charge)
ユニコーン到達日:2020年9月24日
現在の評価額:24億ドル(約2760億円)
本社:中国・常州市
中国のEV充電インフラ運営会社。自動車メーカーの顧客に充電機器やデータサービス、プラットフォームサービスも提供している。同社のサイトによると、数千台の充電スタンドを運営しており、中国最大の充電インフラ事業者のひとつである。
中国の比亜迪(BYD)や北京汽車(BAIC)をはじめ、BMW、ポルシェ(Porsche)、ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)、フォルクスワーゲンなど、世界の主要な自動車メーカーから注目されている。
威馬汽車(WM Motor)
威馬汽車は2015年にCEOの沈暉によって設立された。
WM Motor
ユニコーン到達日:2021年12月1日
現在の評価額:47億ドル(約5405億円)
本社:中国・上海市
「ウェルトマイスター(Weltmeister)」というブランド名を持つ中国のEVメーカー。2015年にCEOの沈暉(Freeman Shen)によって設立され、テスラや中国大手のNIO、小鵬汽車などのライバルと目されている。
威馬汽車は2018年の北京モーターショーで発表した初の量産車「EX5」で広く知られるようになった。小型クロスオーバーSUVのEVで、価格は4万5000ドル(約518万円)から。EX5は後にEX5-Zと改名された。2台目の量産車は中型クロスオーバーSUVのEX6で、今後SUVのW6を投入する計画がある。
遊侠汽車(Youxia Motors)
ユニコーン到達日:2018年3月31日
現在の評価額:33億5000万ドル(約3853億円)
本社:中国・上海市
低速EV車とEVスポーツカーに特化。2015年7月、市販化に向けて初のEVセダン「Youxia X」を発表した。
中国のEVスタートアップブームが到来した初期の2014年に黄修源(Huang Xiuyuan)が創業。中国で成功を収めているEV大手のNIOと小鵬汽車も同年に創業しており、どちらもその後上場している。
中国では早くからEV業界に参入していたが、2022年1月の報道によると、同社の会長が保有する大半の株式が今後3年間凍結されることになり、同社の将来が危ぶまれている。
特来電新能源(TELD New Energy)
ユニコーン到達日:2020年3月5日
現在の評価額:21億2000万ドル(約2438億円)
本社:中国・青島市
2014年に郭永光(Guo Yongguang)が創業した、中国のEV充電インフラ運営大手。充電スタンドの予約サービスや電力消費データ・充電利用履歴の管理サービスも提供している。
中国の資産運用会社であるCDHインベストメンツ(CDH Investments)やビーナス・グロース(Venus Growth)などから出資を受けている。
アンプル(Ample)
アンプルの充電ステーション。
Ample
ユニコーン到達日:2021年11月10日
現在の評価額:10億ドル(約1150億円)
本社:アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ
2014年にカレド・ハスナ(Khaled Hassounah)とジョン・デ・スーザ(John de Souza)が創業。EVのバッテリー交換の実用化を目指している。
これまでバッテリー交換事業に乗り出した企業はいずれも失敗に終わっている。アンプルはまず保有台数の多い事業者をターゲットとすることで、バッテリー交換に伴う難題を克服しようと考えている。
同社の交換ステーションは自動化されており、配車サービスなどの車両をそこに数分、停車させるだけでフル充電されたバッテリーと交換できる。ただし、この方法だとアンプルのバッテリー構造をEVに組み込む必要があるため、EVメーカーの協力は必須となる。
アンプルは2021年に大手投資ファンド運用会社ブラックストーン・グループ(The Blackstone Group)などから5000万ドル(約58億万円)の出資を受けている。
愛馳汽車(Aiways Automobile)
ユニコーン到達日:2018年4月15日
現在の評価額:15億9000万ドル(約1829億円)
本社:中国・上海市
スウェーデンのボルボ・カーズ(Volvo Cars)の元中国営業チーフである付強(Fu Qiang)が2017年に創業した。
2019年に開催されたジュネーブモーターショーで最初のモデルである「U5」をお披露目した。U5は航続距離250マイル(約400km)を持ち、同年に中国で発売が開始された。2020年には世界各国へ輸出され、特にヨーロッパで人気が高い。とはいえ、売上データを見るかぎり販売台数は数千台にとどまっている。
2台目のモデル「U6」も発売を控えており、さまざまな構想が打ち立てられている。
天際汽車(Enovate Motors)
ユニコーン到達日:2018年7月23日
現在の評価額:36億6000万ドル(約4209億円)
本社:中国・上海市
2015年創業のEVメーカー。これまでにDearcc EV10、ME5、ME7、ME-Sコンセプトカーなどのモデルを製造している。
2019年の上海モーターショーで初のフル電動ミッドサイズSUV「ME7」を発表。翌年には最大310マイル(約500km)の航続距離で販売を開始し、中国の人気自動車メーカーであるNIOのライバルとしての地位を確立した。
同社を率いるのは、上汽フォルクスワーゲン(SAIC Volkswagen)の元幹部である張海亮(Hailiang Zhang)だ。
シラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies)
Sila Nanotechnologies
ユニコーン到達日:2021年1月7日
現在の評価額:33億ドル(約3795億円)
本社:アメリカ・カリフォルニア州アラメダ
2011年創業。シリコンベースの素材を使ったリチウムイオン電池の開発に成功し、2017年に生産を開始。CEOとして指揮を執るのは、テスラでバッテリーシステム設計者を務めたジーン・ベルディチェフスキー(Gene Berdichevsky)だ。
同社の素材を使ったバッテリーは容量が2割増になるといい、現在、フィットネス向けのリストバンド型ウェアラブル端末「Whoop 4.0」で試験的に使用されている。
2019年にメルセデス・ベンツと提携し、2021年には6億ドル(約690億円)の資金調達を終えた。ティー・ロウ・プライス(T. Rowe Price)、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ(Bessemer Venture Partners)、サッター・ヒル・ベンチャーズ(Sutter Hill Ventures)などからも出資を受けている。
ナノテクエナジー(Nanotech Energy)
ユニコーン到達日:2021年9月2日
現在の評価額:16億6000万ドル(約1909億円)
本社:アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス
2014年、CEOのジャック・カバナー(Jack Kavanaugh)が、UCLAの科学者であるリチャード・ケイナー(Richard Kaner)博士とマヘル・エルカディ博士(Maher El-Kady)とともに創業。
現在、不燃性グラフェンをベースにしたバッテリーを開発・製造している。この革新的なバッテリーは電力の貯蔵能力を向上させ、EVに広く使われているリチウムイオン電池に取って代わる新世代電池になるという。
零跑汽車(Leapmotor)
ユニコーン到達日:2019年8月3日
現在の評価額:24億9000ドル(約2864億円)
本社:中国・杭州市
2015年に傅利泉(Liquan Fu)と朱江明(Zhu Jiangming)によって設立されたEVメーカー。VCのセコイア・キャピタル・チャイナ(Sequoia Capital China)と国有企業の上海電気集団(Shanghai Electric Group Corp.)から出資を受けている。香港での超大型IPOの実施を検討している。
現在、フラッグシップモデルC11、T03、S01のEVを製造しており、同社の強みは自動運転用チップ技術と必要な機能を一体化させたオールインワン電気駆動システム「Heracle」だ。
2021年11月時点での受注台数は4万4400台超。この2年間で納入台数をじわじわと増やし、2021年半ばにはひと月当たり約4000台を納入している。
[原文:15 little-known companies that have already hit unicorn status in the booming electric car industry]
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)