2月20日、ウクライナ東部ドネツク州の最前線にて、ウクライナ軍の兵士。いま以上に大規模な軍事衝突は起こりうるのか。
REUTERS/Gleb Garanich
ここ数週間、地政学的な緊張が徐々に高まりつつある。第1の要因はもちろん、ウクライナとロシアが全面戦争に突入する可能性への懸念だ。
投資家のリスク回避の動きを受け、S&P500種やナスダック総合などアメリカの主要な株価指数は年初来、乱高下を経て大幅な下落を記録。
ここ2週間については、ロシアがウクライナ国境付近から「一部撤収」を発表(2月15日)したために株価は一時上昇したものの、翌日には「撤収の動きなし」あるいは「撤収は虚偽」とされ、侵攻の可能性はむしろ高まったと報じられると再び下落した。
この一触即発の状態が今後どのように推移するのか、確たることは言えない状況だが、大手銀行や投資会社はどこも最も可能性の高いシナリオを何とか見定めようと分析を続けている。
なかでも最大規模を誇るスイス金融大手UBSでは、マーク・ヘーフェリ最高投資責任者(CIO)率いる富裕層向け資産管理部門が、予測シナリオを提供しつつ投資家向けの対処法をまとめている。
ヘーフェリらによれば、さまざまなシナリオの可能性を吟味した上で、最も可能性が高いのは(紛争と緊張の)「時間をかけた段階的縮小」という。
「当社は中心シナリオとして、外交上の努力によって、最終的には緊張が緩和されると考えています。
数カ月の時間を要すると予想され、その間は足もとで起きているような突発的緊張がくり返される可能性があります。とは言え、米ロ両国とも最終的には、軍事衝突のもたらす経済的・政治的コストはあまりに甚大で、得られる利益と釣り合わないとの結論に達するでしょう」
それでも、全面戦争の可能性が残されていることには変わりない。UBSは事態が最悪の方向に進んだ場合についても、想定される諸々の影響を分析している。
「ロシアがウクライナ侵攻に及んだ場合、欧米諸国は経済制裁を強化し、ロシアの長期成長見通しに深刻なダメージをもたらします。
2020年から21年にかけて起きたベラルーシの(大統領選挙での不正をめぐる)反政府デモ、2021年上半期のロシアでの(野党指導者の収監に対する)抗議デモ、さらには2022年初頭に起きたカザフスタンの(ガス価格値上げに端を発する)反政府デモのときのように、国内のセンチメント(市場心理)の急激な悪化は避けられません」
そして、軍事衝突に(直接的に)巻き込まれる地域以外の投資家にとって、最も懸念されるのはエネルギー市場への影響だ。その点、ヘーフェリ率いるチームは以下のように分析する。
「欧州連合(EU)はロシア産天然ガスが輸入量の4割近く、石油も同3割を占めるため、相当なダメージを被ることになるでしょう。
ただし、軍事衝突が起きたとしても、エネルギーの流れが寸断されるなど深刻な障害が発生する可能性は低いと当社は考えます。と言うのも、欧州向けのエネルギー輸出が長期にわたって途絶えれば、ロシア側が受ける経済的打撃も深刻なものになるからです」
こうした背景を踏まえ、なおかつ足もとで続く高インフレを考慮したとき、投資家はどう対応すべきだろうか。
UBSは、地政学的緊張を内包しつつも世界経済は引き続き力強く成長し、金融市場も2022年末には年初より上振れして着地すると予測しており、そのような見方をベースに、ヘーフェリらは投資家に3つの柱から成るアドバイスを提供する。
「足もとのボラティリティ(=価格変動性)に揺られるなかで忘れてはならないのは、世界経済が依然として堅調で、企業収益も順調に成長しているという事実です。当社のベースシナリオでは、株式市場は年初に比べアップサイドでの着地を予測しています。
軍事衝突が激化した場合、欧州株を重視する当社の戦略的推奨銘柄の一部にネガティブな影響が生じる可能性はありますが、エネルギーと金融、バリュー(=割安)株、コモディティなどの銘柄はいずれも強靭な経済成長の恩恵を受け、主要な市場リスクからも比較的切り離されたポジションをキープするでしょう」
1.リスク分散の徹底と長期視点での投資
UBSによれば、一般的に、徹底して分散化が図られた投資ポートフォリオに対しては、地政学的な緊張や危機がもたらす悪影響は長続きしないという。
「分散投資が徹底されたポートフォリオと長期的な視点に立った投資計画があれば、当社ベースシナリオのように地政学的緊張が最終的に緩和されたときに即座に対応できますし、リスクシナリオに沿って事態が推移し市場下落や景気後退が起きた場合でも、よりうまく乗り切ることができるはずです」
2.コモディティ投資などで地政学的ヘッジ
「(貴金属や農産物などの)コモディティ、エネルギー関連株への資産配分は、ポートフォリオのリスクをヘッジするのに役立つ、投資家にとって魅力的な選択肢と当社は考えています。ウクライナ危機の帰趨(きすう)にかかわらず、需要増と若干の供給制約を追い風に、原油価格は2022年にさらに上昇すると予想しています」
3.金利上昇への備え
UBSは、金利上昇時にアウトパフォーム(=ベンチマークを上回るパフォーマンス)を期待できるセクターに資産を傾斜配分することで、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め政策がポートフォリオにもたらす潜在的なリスクを軽減できると指摘する。
「例えば、金融セクターは一般的に、金利上昇時には純金利収入が増えるので恩恵を被ります。
バリュー(=割安)セクターは、金利上昇が最も厳しい向かい風となるハイテク株などのグロース(=高成長)セクターを上回るパフォーマンスを期待できます。
また債券について言えば、米国シニアローン(=投資適格未満の企業への担保付き貸付)は変動金利商品で、固定利付債券に比べて金利上昇時の耐性が高いと考えています」
(翻訳・編集:川村力)