なぜ採用担当者のSNS炎上が続出しているのか…学生も呆れるその実情とは

電車でスマートフォンを見る男性の手

現代では多くの人々がスマートフォンを手にSNSに様々な思いを吐露している。

撮影:今村拓馬

「令和は1億総自己主張時代」になる。あるPRパーソンがそう予言していた。

コロナで密室のコミュニケーションが減少したものの、人々の自己主張欲求は急に収まるものではなく、日々SNSを中心にさまざまな本音が今日も溢れ出している。

企業にとっては、難しい時代になってきた。つい先日も、人事系のアカウントが「炎上」状態になったことがSNS上で話題になったばかりだ。

炎上は、個人の解釈のズレから生まれる。

多様性の時代と言われるが、人々の価値観が急に多様化したというよりは違和感を言語化できる勇気と、それを言える場所が整ったと言った方が適切かもしれない。

「相手の気持ちになって考えよう」

小学校でそのように教えられた記憶があるが、残念ながら自分も含め、大人になってもこれを実行するのは難しい。

「SNS採用術」は、諸刃の剣

スマホを眺める男性

SNSで気軽に採用担当のアカウントを見て企業研究を行うことも、今やZ世代にとっては当たり前のことなのかもしれない。

撮影:今村拓馬

だが、相手の気持ちになって考えるのが非常に難しい仕事がある。

その1つが新卒採用担当だ。

個の時代と言われて久しい。就職活動や新卒採用のシーンにおいても、学生や、担当者がTwitterを活用するのがここ数年で一般的になりつつある。

XX@23卒」「XX@XXX人事」など、人事担当者だと表明しているアカウントも少なくない。

なかでも採用担当者のアカウントは、熱心に所属会社の魅力を伝えようと日々盛況だ。Twitterの140文字の中で、毎日しのぎを削っている。

「ついにフォロワー1000人達成しました! 今後も学生さんのためになる情報発信を頑張ります!会社の採用ページも覗いてください!!」(ツイートの一例)

22時を過ぎても「まだまだこれから仕事!気合!」的な、投稿もある。令和になっても、かつて企業戦士と言われたモーレツ社員たちは実は健在だ。

仕事が自己実現に直結していることは、いいことだとも言える。しかし少し心配になることもある。

ある学生に「採用担当の方って、フォロワー数のノルマを負わされてるんですか? 忙しいのに大変そうです」と聞かれた。

人事の人が学生へ真摯に向き合うことより自分の承認欲求のために動いている気がして、志望度下がりました」とも。

デジタルネイティブと言われる今の学生たち。SNSに関しては生活必需品のためか、僕からすると全員達人で、本文よりもその行間や背景情報まで読み取るのが普通らしい。

Z世代はsober(落ち着いた、しらふな)とも言われるが、「大人たち」の言動を、とても冷静に観察している。

学生に最も距離が近いはず、なのに

就活生が歩く様子

採用担当と距離が近いからこそ、本音を隠そうとする就活生も。

撮影:今村拓馬

なぜ、新卒の採用担当は学生たちの気持ちを汲み取れないのか。

「キチョハナカンシャ」という、ネットで使われる就活用語がある。

会社説明会などで、学生が質問の前に発する「本日は貴重なお話をありがとうございました」という、決まり文句の略だ。

基本的に学生は就職活動の時に本音を言いにくい。

評価基準がわからない中、自分を見定めようとしている相手に対して、自己開示をする理由はなかなか見つからない。

「説明会のアンケートはエントリーシートだと思っています」

「一旦、志望度が高まりましたと書いてます」

「第一志望じゃない企業にも第一志望ですって言った方がいいですよね」

僕の耳に届くこのような学生の本心は、皮肉にも、最も距離が近いはずの採用担当者から最も遠いところで聞こえてくる。採用担当者が悪い云々ではなく、構造的に大きな問題があるのだと思う。

確か自分も当時、ある企業説明会の帰りに「今日の説明会、5分で帰りたくなったわ」と電車で友人と話しながら帰っていた気がする。でも最後までいたし、アンケートはいい感じに書いた。

面接で偉そうにされても、飲み会で友達に「今日の面接、圧迫だったわ(笑)」と言っても、それらの声は、せいぜい隣に座っていた大人の人が聴いているくらいで、時間と共に消えていった。

出会って1時間で、自分の人生に関わる権利を持っている人に「本音を教えてくれ」と言われても、それは酷な話だ。

オンライン面接は密室じゃない

女性が話し合う様子

SNS上では企業の面接の様子や人事の情報が流出する事態も。

撮影:今村拓馬

「デジタルタトゥー」という言葉がある。

SNSやCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)など個人主体のメディアが次々と生まれ、何でも体験をオンラインでシェアし続ける時代になった。

同時に、これまで就職活動で泣き寝入りしていた学生たちの声は、デジタルタトゥーとしてスクリーンショットを撮られ、それがオープンチャットやSNSなどに噴出し始めている。

そしてタトゥーは消えない。

どれだけ、個人が真摯であろうとしても、構造上採用担当者が裸の王様にならざるを得ない状況が何十年も続いてしまったというツケは、とんでもない大きさになり、今、一括返済を求められている。

密室の様子も、デジタル上で中継されている。

例えば、「Twitterで明るいツイートをしている人事の方が面接で出てきたんですけど、顔がすごく疲れてました」という体験談を実際に聞く。

ブランドは体験でつくられるという。

期待を「高める」体験だけでなく、期待に「応える」体験もセットで提供しなければならない。よくブランディングは「いい感じに見せること」という意味でも使われるが、そんな簡単なものではない。

最初の期待に応えなければ、次の期待はつくれないのだから。

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