慈善事業をリードする3人の元大富豪妻たち。寄付か富裕層への増税か。格差が広がる中で深まる議論

おとぎの国のニッポン

Reuters / Shannon Stapleton

2月14日に公開されたアメリカ証券取引委員会(SEC)への書類で、イーロン・マスクが57億ドル(約6555億円)相当のテスラ株を寄付していたことが明らかになった。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、マスクは現在の純資産は2270億ドル(約26兆円)で、世界一の大富豪だ。57億ドルは、マスクの純資産の2.5%に相当する。

だが彼は、しばしば「世界で最もケチなビリオネア」と呼ばれるほど、寄付に消極的だと言われてきた。なので、このニュースに、「お」と思った人も少なくなかったと思う。

翌日 Forbes は早速、「寄付」先がDAF(Donor-advised fund。慈善寄付を管理するために作られた基金)か、マスク財団の可能性を指摘し、資金が第三者に分配されるまでは厳密な意味での「寄付」とは呼びがたく、節税手段かもしれないと報じた

「宇宙より地球でやるべきことがある」とゲイツ

ElonMusk

今や世界一の資産家となったイーロン・マスク氏だが、寄付には消極的だった。

REUTERS/Joe Skipper

Forbes は、富裕層の慈善活動への熱意を示す指標として、総資産と寄付額を考慮して算出する「フィランソロピー・スコア(Philanthropy Score)」を発表している。2021年の「フォーブス400」にランクインした400人のうち、資産の10%以上を寄付したのはわずか19人、1%未満の寄付は過去最高の156人だった。世界一の大富豪の座を争うベゾスとマスクは、共に「1%未満」のグループだった。

2021年にランクインした400人の資産は、総額$4.5トリリオン(4.5兆ドル)にも上り、前年比40%増。好調な株式市場が主な理由だが、同レポートは、彼らの富が急速に膨れ上がっている一方で、寄付のペースはそれに追いついていないと指摘している。

2022年1月に報じられた「Forbes: The 25 Most Philanthropic Billionaires(アメリカで最も慈善活動に熱心な25人のビリオネアたち)」ランキングのトップはウォーレン・バフェット、2位がビル&メリンダ・ゲイツ、3位がジョージ・ソロス、4位がマイケル・ブルームバーグ、5位がベゾスの前妻マッケンジー・スコットだった。

AmazonのCEOを退いて以来、以前よりも慈善活動に積極的になったと言われるジェフ・ベゾスだが、10位以内にすら入っていない。マスクに至っては完全に圏外だ。マスクは、前述の$5.7ビリオンをカウントしなければ、これまでの寄付は$280ミリオン(2億8000万ドル)に留まると言われている。2000億ドル以上ある純資産の約1000分の1という少なさだ。

一方で、ベゾス、マスク、それにリチャード・ブランソンなどの大富豪たちは近年、競い合うかのように、宇宙飛行に熱心に資金を投入している。

2021年9月21日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球上で何百万人もが飢えているというのに、ビリオネアたちは宇宙旅行に何十億ドルも費やして面白がっている(“billionaires joyriding to space while millions go hungry on earth.”)」と非難した。同じ時期、テレビに出演したビル・ゲイツも「宇宙? 我々には地球上でやるべきことがたくさんある(Space? You know, we have a lot to do here on earth)」と皮肉を述べた。

連邦所得税の最高税率を上げ、年収100万ドル超の富裕層の株式などの譲渡益(キャピタルゲイン)にもこの最高税率を適用することを提案しているエリザベス・ウォーレンやバーニー・サンダースなど民主党左派も、超富裕層は気候変動や貧困といった問題をより優先的に捉えるべきだと批判している。

世界で最も裕福な10人の富は倍になった

フードバンク

コロナによって経済格差はますます深刻となった。フードバンクには、仕事を失った人たちが列をなしている。

Getty/Juanmonino

パンデミックは社会の中のさまざまな格差を可視化しただけでなく拡大させ、2020年には世界のビリオネアは史上初めて3000人を超えた。Wealth-X の「ビリオネア・センサス2021」(2021年9月に発表)という分析によると、特にテクノロジーとヘルスケア分野で、ビリオネアは2020年、世界中で前年比13.4%も増加。北米では前年比17.5%増、その次に伸び率が高かったのがアジアの16.5%だ。

2022年1月、90カ国以上で貧困をなくす活動をしているNGO・Oxfamは、「世界で最も裕福な10人の富は、パンデミックの間に倍になった」というレポートを発表した。2020年3月から2021年11月に、世界の99%の人々の収入が減った一方で、世界で最も裕福な10人(全て男性)の資産総額が、$700ビリオン(7000億ドル)から$1.5トリリオン(1.5兆ドル)に倍増したという。

その10人とは、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ベルナルド・アルノー(LVMH)とその家族、ビル・ゲイツ、ラリー・エリソン(オラクル)、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、マーク・ザッカーバーグ、スティーブ・バルマー、ウォーレン・バフェットだ。大多数がアメリカのテクノロジー界のリーダーたちだ。Oxfam は、彼らがその富の99%を失っても、なお地球上の99%よりも裕福だと指摘している。

このレポートは同期間に、1億6000万人以上の人々がパンデミックのせいで貧困に押しやられたとも報告している(Oxfam の「貧困」の定義は、1日あたり$5.50以下で生活しなくてはならない状態)。

慈善事業業界をリードする3人の元妻たち

Eleanor Roosevelt

女性でアメリカの慈善事業をリードした先駆者の1人がエレノア・ルーズベルトだ。

shutterstock/April Sims

「アメリカの慈善事業家」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、興した事業で膨大な財を成し、それを慈善事業に投じた男性たちではないだろうか。ロックフェラー(石油)、カーネギー(鉄鋼)、フォード(自動車)といった19−20世紀の実業家たちの苗字を冠する財団は現在も影響力を持ち続けている。

一方女性はというと、例えばフランクリン・D・ルーズベルト大統領の妻エレノア・ルーズベルトや、ジョン・D・ロックフェラー2世の妻でアート・コレクターとして活躍し、ニューヨーク近代美術館の共同設立者の1人でもあったアビー・ロックフェラーなどが頭に浮かぶが、男性に比べると、圧倒的に数が少ない。

その中で今、アメリカの慈善事業界で注目を集めている3人の女性たちが歴史を塗り替えている

マッケンジー・スコット、メリンダ・フレンチ・ゲイツ、ローレン・パウエル・ジョブズ。彼女たちは、それぞれ大成功した起業家の元妻だが、いわゆる「トロフィー・ワイフ」(男性が社会的に成功した後に、その成功を誇示するため、誰もが羨むような女性を妻にすること)ではなく、長い間共にビジネスを築いてきたパートナーだった。高い教育を受け、政治や社会について強い意見を持ち、夫から独立した一個人としてのキャリアもある。

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