トンガの噴煙を段階ごとにとらえた、GOES-17衛星による一連の静止画像、2022年1月15日撮影。
Joshua Stevens/Kristopher Bedka/Konstantin Khlopenkov/NASA Langley Research Center/NOAA GEOS-17/NESDIS
- 地球の軌道を回る2基の人工衛星がとらえたトンガの火山噴火の画像を、NASAの科学者が分析した。
- 1月15日の噴火では、噴煙が中間圏まで到達していた。中間圏は流れ星が生まれる場所だ。
- 高さ36マイル(58キロメートル)の噴煙は、人工衛星がとらえたものとしては過去最大規模だ。
2022年1月15日に発生したトンガの火山噴火では、人工衛星が史上初めて、火山灰の噴煙が中間圏まで到達する様子をとらえた。中間圏は、地球大気の下から3番目にあたる層で、成層圏と熱圏のあいだに位置する。
アメリカ航空宇宙局(NASA)によれば、トンガの噴火は、人工衛星による地球の観測開始以降に起きたものとしては過去最大だったという。太平洋に位置するこの火山は、TNT火薬およそ10メガトンに相当する威力で噴煙を空に噴き上げたが、そのとき、2基の気象衛星が上空を通過していた。
その衛星(アメリカ海洋大気庁[NOAA]の「GOES-17」と、日本の気象衛星「ひまわり8号」)は、およそ13時間にわたって、10分ごとに噴火を赤外線でとらえた。
NASAの科学者たちが画像を分析したところ、最初の噴火で噴き上げられた火山灰は、高さ36マイル(58キロメートル)に達し、中間圏に突入していたことがわかった。中間圏は、地球に降ってきた隕石が燃え上がり、夜空を横切る流れ星になる場所だ。
噴煙がそれほどの高さに達するまでに、およそ30分を要した。その後、第2の噴煙が高さ31マイル(50キロメートル)超まで噴き上がった。どちらも、下の衛星画像では黄色で示されている。噴煙の上部はガスに変わり、ほぼ直後に消散した。これは、中間圏が乾燥した状態にあるからだ。
Joshua Stevens/Kristopher Bedka/Konstantin Khlopenkov/NASA Langley Research Center/NOAA GEOS-17/NESDIS
「この激しさは、過去に研究したどんな嵐雲をもはるかに超えている」
暴風雨を専門とするNASAの大気科学者クリストファー・ベッカ(Kristopher Bedka)は、2月16日の声明の中でそう述べている。
「幸運なことに、最新世代の静止衛星で詳細に観測できた。その進化を分析するためにこのデータを革新的な方法で使用することができる」
NASAによれば、この噴火が起きるまで、人工衛星がとらえた過去最大の噴煙は、1991年のピナツボ火山噴火時のものだったという。そのときの噴煙は、フィリピン上空22マイル(35キロメートル)まで達し、成層圏に深く入りこんだが、中間圏には届かなかった。
雷の研究が、トンガ噴火の追跡に貢献
フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火のさなかに生じた稲妻。2022年1月14日。ソーシャルメディア動画のスクリーンショット。
Tonga Geological Services/Reuters
トンガの火山は、かつては完全に海に沈んでいた。科学者たちの注意を引いたのは、2014年と2015年に海底が隆起しつつ小規模噴火が起こったときのことだ。この隆起により、もともとあったふたつの島、フンガトンガ島とフンガハアパイ島がひとつにつながった。
その後、ほぼ10年にわたって小規模な火山活動が続いていたが、2022年1月に一連の爆発的噴火を起こした。この噴火により、2015年にできた島が消滅し、フンガトンガ島とフンガハアパイ島の大部分が吹き飛んだ。
この島は無人だったが、噴火と、それにより生じた津波は、人が暮らす近くの島々の住宅、船、漁場を破壊し、トンガをインターネットにつないでいた海底ケーブルを切断した。噴火を直接的な原因とする死者は3名だった。世界銀行の推計によれば、この噴火によって生じた損害は9040万ドル(約104億3900万円)にのぼるという。これは、トンガGDPの20%に相当する。
ベッカをはじめとするNASAの研究者は、最初の噴火で生じた噴煙を測量するため、2つの人工衛星がとらえた画像を利用した。人間の脳がふたつの目を使っているのと同じ仕組みだ。それぞれの衛星の画像と、その画像が撮影された角度の違いをアルゴリズムにより比較し、噴煙の3Dプロフィールを構築した。このテクニックは、成層圏で生じる激しい雷雲を研究するために開発されたものだ。
「火山の熱と海からの水蒸気という組みあわせが、この噴火を前例のないものにした。途轍もない雷雲を生む巨大な燃料のようなものだ」とベッカは述べ、こう続けた。
「過去に観測されたどんな雷雲と比べても、今回の噴煙はその2.5倍の高さに達した。この噴火では、信じられないほど多くの稲妻も発生した」
フィンランド企業ヴァイサラ(Vaisala)が運営するグローバル雷検知ネットワークによれば、この噴火により、6時間で40万回にのぼる稲妻が発生したという。
「そうしたことから、この噴火は気象の観点からも大きな意味がある」とベッカは付け加えた。
(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)