ワークマンが発表した1人用テント。6色のカラーバリエーションがある。
撮影:横山耕太郎
「キャンプギア(キャンプ用品)のプレーヤーが多い中で埋没しないのか?100社くらいいると思いますが、最近は100円均一やホームセンターもあります。そういう中でワークマンは何を狙うのか説明します」
ワークマン専務の土屋哲雄氏は、2022年2月22日の記者会見でそう切り出した。
ワークマンと言えば、女性や家族向けの商品を前面に打ち出した新業態「#ワークマン女子」に象徴されるように、従来の「作業員向け」から、一般向けのスポーツアウトドアウェアに転換して急成長してきた。
そんなワークマンが今回本格参入を発表したのが、テントや寝袋などの「キャンプギア(キャンプ用品)」だ。しかし国内のキャンプギア市場は、すでにブランド力のある国内外のメーカーが先行している。ワークマンはどんな商品で、どう攻めるのか?
品川で開かれた商品展示会で、ワークマンの戦略を探った。
撮影:Business Insider Japan
1人用テントの価格は4900円
写真に写っているテントやチェア、ランタンなど5点の総額は1万円を下回る。
撮影:横山耕太郎
ワークマンが発売するキャンプギアは約140商品。1人用からテントから家族向けのテント、シュラフ(寝袋)、テーブルやイス、たき木のための台、ランプや手袋など多岐にわたる。
これらの商品でまず目を引くのが、価格の安さ。ワークマンは「キャンプ必需品5点が1万円以下でそろう」とうたう。
記者会見で土屋氏はこう語った。
「狙いは初めてキャンプをする人。キャンプを始めようと思っても、テントが8万円、9万円してしまうハードルがあった。軽い気持ちでキャンプに行けるように、ハードルを下げる低価格だ」(土屋氏)
1人用のテントは4900円(以下いずれも価格は税込み)、チェア1780円、シュラフ(寝袋)1500円、テーブル980円、ランタン780円。これらをすべてそろえても価格は9940円だ。
特にテントが4900円という安さだが、機能性にもこだわりがあるという。
「生地には撥水(はっすい)性があり、入口部分を日よけのように使えるポールもセットになっています」(ワークマン広報部 鈴木悠耶氏)
赤色のテント。これらの色はアンバサーの意見を取り入れて作られた。
撮影:横山耕太郎
デザイン性も強調する。ワークマンでは商品に消費者のニーズを組み入れるために、ブロガーやYouTuberなどを公式アンバサダーに招いている。アンバサダーと商品開発を進め、4900円のテントも鮮やかな赤や植物をあしらった柄など6色展開とした。
素材の「横展開」で低価格に
虫を防ぐ素材で作られた家族向けのテント。
撮影:横山耕太郎
またワークマンが強みとするのが機能性だ。
ワークマンがこれまで展開してきたアウトドアウェアは、燃えにくい「防融加工」や、虫が寄ってこない「防虫加工」、雨などに強い「耐久撥水」などの可能をした素材を使っている。
今回のキャンプギアにも、それらアウトドアウェアと同じ素材などを使用しているため、防虫性能があるテントなど、機能性が高いという。
ウェアと同じ素材や加工技術を使うことで、低コストにもつながっている。
ワークマンの防寒ダウン「フュージョンダウン」の内側の素材には、天然ダウン45%に加えて吸湿発熱綿が使われているが、これをそのままシュラフ(寝袋)にも「横展開」した。価格は7800円。
このシュラフの中身は、ワークマンの防寒ダウンと同じ素材が使われている「フュージョンダウンシュラフ」(7800円)。
撮影:横山耕太郎
目立った「スノーピーク」の成長
Business Insider Japanの取材に応じるワークマン専務取締役・土屋氏。ワークマン再建の指揮を執ったことで知られる。
撮影:山﨑拓実
ただ、これまで衣服を主力商品としてきたをワークマンにとって、キャンプギア市場でどこまで存在感を伸ばせるのかは未知数だ。
キャンプ用品のブランドでは、コールマン(アメリカ)やロゴス(日本)などが知られており、すでに低価格、高価格、初級者、ベテランなどあらゆるカテゴリーの商品群がある。
また最近では特に業界大手・スノーピーク(日本)も売り上げを伸ばしている。スノーピークの2021年度の売上高は約257億円。そのうち国内の売上高は約196億円だった。
ワークマンは初年度の売り上げとして「40億円」を掲げているが、競合他社についてどう考えているのか?
Business Insider Japanの取材に応じた土屋氏はこう話した。
「競合はいないと思っています。私たちは本当の初心者をターゲットにしており、全く違うカテゴリー。また本格的な機能を持ちつつ、この価格帯というのは他にはないと思う」
また2月22日から開始したネット受付で、予想以上の反響があったと自信を見せる。
「4万人を想定してサーバーを用意していましたが、20万人からアクセスがありサイトがちょっと遅くなりました。ものすごい反響で、今日注文できる分では売り切れ商品も多い」(土屋氏)
「急成長は何年も続かない」
女性や家族向けの商品が成長の原動力となってきたが……。
撮影:横山耕太郎
女性向け商品の開発などで急速な発展をしてきたワークマンだが、その成長が鈍化しているのも事実だ。
ワークマンの2021年4月~12月の「既存店売上高」は、前年比1.5%増にとどまった。3年前の2018年4月~12月は前年比14.3%増だったことに比べると、伸び率は減少している。
そんなワークマンにとって、今回のキャンプギアへの本格参入は、次なる収益源としての期待も大きい。
「3割成長は何年も続かない。今は巡航速度。我々は、ガチガチに売り上げを追う会社ではない。ただ、もっとできる事はないかという発想があり、今回の『無在庫販売方式』は新しいやり方だ」(土屋氏)
土屋氏の言う「無在庫販売方式」とは、商品をネットで注文し、店舗で受け取る方式のこと。店舗側にしてみれば、店舗に在庫を抱える必要がないため大きなメリットがあるが、買う側にとってみれば、ネットで注文してわざわざ店舗まで取りに行く手間がかかる。
今回のキャンプギアも、一部の店舗をのぞいて、ネットで注文し、店舗で受け取ることになる。
「確かに二度手間です。でも中には、ほしい商品を探していくつもの店舗を回ってくれる人もいるので、ネットで注文すれば商品ないという状況にはなりません。プラスマイナスゼロだと捉えています」(土屋氏)
とはいえ、ワークマンにとっては大きな挑戦だ。プレスリリースには「社運をかけて取り組む」という表現がある。
ワークマンは都心部での出店が少なく、受け取りに難しさもある。今回新たに都心部での出店も発表しており、4月には東京・銀座、6月には池袋に「#ワークマン女子」の店舗を出店する計画だ。
(文・横山耕太郎)