ヘッジファンド各社は厳しい市場環境でも善戦、マイナスリターンを最小限にくいとどめている。ゴールドマン・サックスが各社の保有株式を分析したところ……。
Andrew Burton/Getty Images
物価と金利の上昇が株式市場のリターンにもたらす影響をめぐり、投資家たちが懸念を募らせている。
米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年中に数度の利上げを計画していることから、将来の業績ポテンシャルをベースに価値が決まるグロース(高成長)株に見切りをつけ、ファンダメンタルズ(=経済の基礎的要因)との関係が深く価格決定力を持つ銘柄が多いバリュー(割安)株に資金を移す動きが加速している。
一方、消費者はすでに危機を実感している。エネルギー価格の急騰が主因で、原油(WTI原油先物)価格は2月に入って1バレル90ドル超の高水準で推移。2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、一時は2014年7月以来となる1バレル100ドルを突破した。
そうした動きを尻目に、ヘッジファンド各社はグロース株からバリュー株へのシフト、いわゆる「グレート・ローテーション」を先取りする形で動いてきた。
米グローバルマクロ系ヘッジファンド、クレスキャット・キャピタル(Crescat Capital)のケビン・スミス創業者兼最高投資責任者(CIO)は、2022年1月に割高なハイテク株を中心に株価急落が起きることを、2021年時点で予測していた。
グレート・ローテーションとは、投資家はメガテック株のように割高でロングデュレーション(=資金回収に時間がかかる)金融資産を嫌い、日々の経済活動で実際に使われるモノやサービスにかかわる銀行株やエネルギー株のような割安資産への配分を優先するという考えを軸にした動きだ。
米国大型株の動向を示すS&P500種株価指数は、52週高値に比べて約12%下落、ハイテク株が多いナスダック総合指数は同約20%の下落を記録している(いずれも2月24日終値ベース)。
一方、S&Pピュアグロース株価指数は2021年11月に記録した過去最高値から22%下落したのに対し、同バリュー株価指数の下落幅はわずか5%にとどまっている。
米金融大手ゴールドマン・サックスは最新レポート(2月22日付)のなかで、2021年第4四半期(10〜12月)に米証券取引委員会(SEC)に提出された株式保有報告書類(13F)を分析し、ヘッジファンド各社がエネルギーや金融などバリュー銘柄の多いセクターへの資金シフトを進めていることを明らかにしている。
同社アナリストのベン・スナイダーの指摘はこうだ。
「ヘッジファンドは、情報テクノロジー、通信サービス、一般消費財へのエクスポージャー(=資産をリスクにさらす割合)を減らす一方、エネルギー、金融、工業、素材へのエクスポージャーを増やしています。
情報テクノロジーはセクターとしてラッセル3000種指数(=米国株の時価総額上位3000銘柄で構成)に占める割合が大きいので、そもそもアンダーウェイト(=資産配分を少なめに)気味に運用するのがヘッジファンドの常套手段ですが、最近ではこの10数年になかったほど情報テクノロジーへのエクスポージャーをしぼり込んでいます」
実際、ゴールドマン・サックスの調査によれば、ヘッジファンドのグロース株へのエクスポージャーは2011年以降で最も少なく、逆に最も選好された銘柄は石油・ガスなどだった。
「ヘッジファンド各社はエネルギーへの傾斜を全セクター中最大となる250ベーシスポイント(2.5%)増やしました。当社も最近、原油価格の見通しとエネルギー株のバリュエーション低迷を踏まえ、同セクターをオーバーウェイトに上方修正しました。エネルギーは年初来、S&P500種の各セクターのなかで最も高いパフォーマンス(23%上昇)を示しています」
しかし、もちろん割安株だけがすべてではない。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは上記のレポートで、ヘッジファンドの選好度が最も高いロングポジション(=買い持ち)銘柄を集めた「VIP」リストを紹介。
そこでは、グロース株の極致とも言えるフェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)、アマゾン、アップル、マイクロソフト、グーグルが、依然としてランキング上位に入る。
このVIPリストは、2001年以降の全四半期の約6割(59%)でS&P500種株価指数を上回るパフォーマンスを発揮してきたが、2021年はついにS&P500種を下回り、20年間で最悪の4四半期を経験した。
「ライジングスター」と「フォーリンスター」
ゴールドマン・サックスの最新レポートの別セクションでは、「ライジングスター」銘柄と「フォーリン・スター」銘柄を特集している。
ヘッジファンドによる保有株数に最も大きな増減のあった銘柄で、最も増えた銘柄はたいていその後の四半期で競合他社をアウトパフォームすることが、過去20年間のデータから明らかになっている。最も減った銘柄も同様にアンダーパフォームになりやすい。
「ヘッジファンドからの選好度の変化は、将来の株式パフォーマンスを示す強いシグナルになり得ます」(ベン・スナイダー、前出)
スナイダーによれば、ライジングスター銘柄は2021年末までアウトパフォームを継続してきたものの、2022年の年明け早々に起きた市場下落を受けてパフォーマンスが低下している。
それでも、S&P500種指数への連動を目指すパッシブ運用よりは良い成績を残してきた。
「アルファ(=市場平均を超過するファンドのリターン)とベータ(=市場平均に連動するリターン)のいずれにとっても厳しい環境のなか、米国株を運用するヘッジファンドのリターンは年初来マイナス3%で踏みとどまっています。一方のS&P500種は年初来マイナス9%で、2009年以降では最悪の年明けでした」(同)
先述のように、ゴールドマン・サックスはヘッジファンドの株式保有報告書(13-F)を分析している。最も保有株数が増え、今後アウトパフォームが期待される「ライジングスター」上位20銘柄を以下に紹介しよう。
1.テスラ(Tesla)
時価総額:9050億ドル
セクター:一般消費財
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:28%
2.サイラスワン(CyrusOne)
時価総額:120億ドル
セクター:不動産
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:25%
3.ヘルスケア・トラスト・オブ・アメリカ(Healthcare Trust of America)
時価総額:70億ドル
セクター:不動産
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:23%
4.サーナー(Cerner)
時価総額:270億ドル
セクター:ヘルスケア
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:21%
5.デックスコム(DexCom)
時価総額:390億ドル
セクター:ヘルスケア
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:21%
6.ヴイエムウェア(VMware)
時価総額:520億ドル
セクター:ヘルスケア
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:21%
7.アマゾン(Amazon)
時価総額:1兆5700億ドル
セクター:一般消費財
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:20%
8.スターウッド・プロパティ・トラスト(Starwood Property Trust)
時価総額:70億ドル
セクター:金融
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:18%
9.テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)
時価総額:1500億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:17%
10.マイクロン・テクノロジー(Micron Technology)
時価総額:1010億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:17%
11.サレプタ・セラピューティクス(Sarepta Therapeutics)
時価総額:70億ドル
セクター:ヘルスケア
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:17%
12.ペンテア(Pentair)
時価総額:100億ドル
セクター:工業
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:17%
13.バルボリン(Valvoline)
時価総額:60億ドル
セクター:素材
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:17%
14.エヌビディア(NVidia)
時価総額:6070億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:16%
15.アバララ(Avalara)
時価総額:90億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:15%
16.ダブルベリファイ(DoubleVerify)
時価総額:40億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:15%
17.マーベル・テクノロジー(Marvell Technology)
時価総額:570億ドル
セクター:情報テクノロジー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:14%
18.アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer Daniels Midland)
時価総額:430億ドル
セクター:生活必需品
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:14%
19.イーオージー・リソーシズ(EOG Resources)
時価総額:660億ドル
セクター:エネルギー
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:14%
20.ハンツマン(Huntsman Corporation)
時価総額:80億ドル
セクター:素材
ヘッジファンド保有株数の前四半期比増加率:14%
(翻訳・編集:川村力)