2月27日、ロシア軍からと思われるミサイル攻撃を受けて炎上するウクライナ・キエフ郊外の石油貯蔵施設。エネルギー危機への懸念も相まって原油先物価格が急上昇。カナダロイヤル銀行(RBC)は今後も高止まりが続くと予測する。
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ロシアのウクライナ侵攻の影響で世界市場の動揺が続くなか、原油価格は2014年以来となる1バレル100ドルを一時突破した。
北海ブレント先物4月物は2月24日に一時1バレル105ドルを突破し、現在(2月26日時点)は95ドル前後で推移している。また、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)先物も同日100ドルの大台を突破、同90ドル台前半で取引されている。
(※追記:2月28日日本時間朝には北海ブレント4月物が105ドル突破、WTI先物も99ドル台まで再上昇した)
ロシアのプーチン大統領個人をはじめ同国の主要な金融機関などに厳しい経済制裁が課されるなか、最も注目される動きのひとつが、ロシア産天然ガスのドイツ(および欧州供給網)向けパイプライン「ノルドストリーム2」について、ドイツが稼働開始に向けて進めていた最終承認手続きを停止すると発表したことだ。
ウクライナ問題が長期化あるいは泥沼化した場合、同パイプライン事業の白紙化がエネルギー価格高騰に拍車をかけ、ひいては先進国を中心に深刻化するインフレのさらなる上昇圧力になりかねない。
ロシア大統領・首相を歴任したメドベージェフ安全保障会議副議長は2月22日のツイッター投稿で、パイプライン事業の凍結によって、欧州の天然ガス価格がまもなく「1000立方メートルあたり2000ユーロ」に跳ね上がるとし、「素晴らしい新たな世界へようこそ!」と皮肉った。
エネルギー銘柄の年初来パフォーマンス
カナダロイヤル銀行のトレーディング・投資銀行部門、RBCキャピタル・マーケッツは、米証券取引委員会(SEC)に提出された保有株式報告書(13-F)を分析している。
それによれば、米ヘッジファンド各社はエネルギー銘柄の急騰につながる地政学的緊張の高まりまで予測していたわけではないものの、2021年第4四半期(10〜12月)にエネルギーセクターの大型株への資金配分を積み増した。
RBCキャピタル・マーケッツの調査レポート(2月22日付)によれば、ヘッジファンド各社の選好銘柄の多くは年明けから厳しい展開が続いているが、第4四半期に積み増したエネルギー銘柄だけは年初来アウトパフォームを実現しているという。
確かに、パンデミックによる低迷からの回復軌道に乗った世界経済を背景に、エネルギーセクターは2021年からお祭り騒ぎが続いている。また、40年ぶりの高インフレに対する懸念が高まるなか、エネルギー株への投資はヘッジ手段としても使われている。
不安定な相場が続いた2021年1月も、S&P500種を構成する各セクターがことごとく下落したのに対し、エネルギーセクターだけは19%の急上昇を記録した。
パンデミック下の行動制限により大きな打撃を受けたエネルギー企業も、売上高・利益とも急回復を超えて高水準の業績を叩き出している。
米石油メジャーについて言えば、2020年に224億ドル(約2兆5800億円)の損失を出したエクソンモービルは、2021年通期で文字通りV字回復と言える230億ドル(約2兆6500億円)の黒字を計上。シェブロンも2014年以来の高水準となる156億ドル(約1兆8000億円)の黒字決算だった。
英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルや英BPといった欧州の石油メジャーも軒並み大幅黒字を記録している。
RBCロイヤル・マーケッツのコモディティ市場アナリスト、マイケル・トラン、ヘリマ・クロフト、クリストファー・ルーニーの3人は顧客向けレポート(2月14日付)で、以下のような現状分析を提示する。
「今後、地政学的緊張の先行きがどうなろうとも、複数年にわたる石油市場の新たなスーパーサイクル(=長期的価格上昇と市場ひっ迫)を背景に、エネルギー価格は高止まりするでしょう。
現在に至る市場の動きを、当社がスーパーサイクルと表現したのはおよそ1年前のこと。それ以来、3度にわたってそうした指摘をくり返してきました。
最も重要なのは、当社としてそのたびに確信の度合いを増してきたことです。地政学的緊張がこの強気の見方を後押しする形になっていることは間違いないにせよ、そうでなくても純粋に基礎的な条件の分析から当社はスーパーサイクルに突入していると判断しているのです」
上記のRBCアナリスト3人は、原油と精製済み石油製品の供給不足、地政学的緊張の高まり、物価のさらなる上昇により、2022年夏に原油価格は1バレル115ドルを突破、あるいはそれ以上の高騰を見せると予測する。
以下では、2021年第4四半期(10〜12月)に米ヘッジファンドによる保有割合が最も高かった14銘柄を紹介しよう(時価総額以外のデータは2月17日時点)。
1.シェニエール・エナジー(Cheniere Energy)
MarketWatch
時価総額:294.2億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:11.6%
年初来リターン:22.1%
2.アンテロ・ミッドストリーム(Antero Midstream)
Markets Insider
時価総額:46.3億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:0.5%
年初来リターン:6.2%
3.ホーリーフロンティア(HollyFrontier)
Markets Insider
時価総額:57.8億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:6.3%
年初来リターン:17.9%
4.シュランベルジェ(Schlumberger)
Markets Insider
時価総額:566億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:1.2%
年初来リターン:45.4%
5.APA
Markets Insider
時価総額:117.2億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:8.6%
年初来リターン:28.6%
6.テキサス・パシフィック・ランド・トラスト(Texas Pacific Land Trust)
Markets Insider
時価総額:78.1億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:0.6%
年初来リターン:▲11.4%
7.ワンオーケー(Oneok)
Markets Insider
時価総額:276.5億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:0.6%
年初来リターン:14.6%
8.EOGリソーシズ(EOG Resources)
Markets Insider
時価総額:655.1億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:1.8%
年初来リターン:34.9%
9.エクソンモービル(Exxon Mobil)
Markets Insider
時価総額:3285.2億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:1.1%
年初来リターン:35.9%
10.バレロ・エナジー(Valero Energy)
Markets Insider
時価総額:355.6億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:2.9%
年初来リターン:24.0%
11.タルガ・リソーシズ(Targa Resources)
Markets Insider
時価総額:142.6億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:6.4%
年初来リターン:27.7%
12.ハリバートン(Halliburton)
Markets Insider
時価総額:290.8億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:1.8%
年初来リターン:52.3%
13.コノコフィリップス(ConocoPhillips)
Markets Insider
時価総額:1168.4億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:1.3%
年初来リターン:34.4%
14.ヘス(Hess)
Markets Insider
時価総額:291.6億ドル
時価総額に対するヘッジファンド保有比率:2.5%
年初来リターン:35.3%
(翻訳・編集:川村力)