「Z世代・ミレニアル世代が共感」FABRIC TOKYOのオーダーメイドが逆境でも絶好調な3つの理由

FABRIC TOKYO代表の森雄一郎氏

FABRIC TOKYO代表の森雄一郎氏。


テレワークで高価格帯のスーツが売れる理由

テレワークの普及によってスーツを着用する機会が減る中、オーダースーツを手掛けるFABRIC TOKYOは2022年1月にはスーツ販売着数が昨年同月比で2倍に迫る成長を記録した。

「お客様はこの2年で増え、売り上げも好調」と話すのは、代表の森雄一郎氏だ。逆境の中で売り上げを伸ばすことができた理由を、森氏は「高価格帯スーツ」「ビジネスカジュアル」「サステナブル素材」だと話す。

まず1つ目の理由として、スーツを着る人が減る中で意外にも高価格帯のオーダースーツが人気だという。テレワークにより出社や外出が“ハレの日”のように特別になったことで「たまに着るときは、ワンランク上の良いスーツを着たいというニーズが増えている」と森氏。

これは初めてスーツを買う人や若者でも同じで、2021年12月の成人式 (感染拡大により12月に延期して開催されたもの)では一昨年以上に売り上げが伸び、インスタ投稿も増えた。

それだけではない。スーツ上下で3万9800円(税込)のエントリーモデルが売り上げの中心を占めているものの、10万円を超える高価格帯の割合が年々増えてきている。

つまり、FABRIC TOKYOのメインターゲットであるビギナーだけではなく、オーダースーツを購入していた玄人を呼び込めているということだ。

コロナ禍の2年で増えたこのような乗り換え需要は、「オーダーメイドのビジネスウェアの敷居を下げて、より便利に楽しく選べるサービスを展開してきたから」だと森氏は分析する。

具体的には、FABRIC TOKYOの特徴でもあるリアル店舗とオンラインを融合させてきたことだ。これまでは毎回店舗に行き1〜2時間かけて注文していたオーダーメイドのスーツが、全国各地にあるリアル店舗でプロのスタッフに30分程度で採寸してもらうだけで、あとはオンライン上から簡単に注文できる。

「今はオンライン上で商品をしっかり吟味してリアル店舗で“目的買い”する時代です。この傾向は自宅で過ごす時間が多くなり、さらに強くなっています」(森氏)

目的買いを促すブランドと消費者の接点は、自社で発信するスーツにまつわる豊富なコンテンツだ。

自社サイトやメディアでは、FABRIC TOKYOのアイテムの着こなしをはじめ、スーツのサイズ直しや手入れなどの情報、さらには成人式や結婚式といった場でのスーツの着こなし方からマナー、作法に至るまでの記事を掲載している。

サイトの開発チームを自社内に置いてUI・UXを使いやすいように日々改善し続けているという。

「僕らは競合ではなくお客様だけをずっと見続け、フィードバックをいただきながらそれを商品やECサイトに反映させてきました」

サービス設計のヒントになるのが、ユーザーの声。森氏自身も毎月少なくとも2〜3人のユーザーインタビューを行い、ボードメンバーやマネージャーの同席も徹底している。

コロナ禍の売り上げを牽引した“ビジカジ”シリーズ

座って話す森雄一郎氏

森氏がこの日着用していたのは「AUTHENTIC(オーセンティック)」(税込6万3800円)というウール100%のFABRIC TOKYOで最も人気のモデル。水の都と呼ばれる岐阜県大垣市の、地下水がきれいな地域にある老舗で作られたオリジナルの生地を使用。

こうしたユーザーの声からコロナ禍で生まれたヒット商品が、売り上げ増進の2つ目の要素でもある「ビジネスカジュアル」シリーズだ。

同シリーズは2020年10月から始まり、現在は130点以上を展開している。仕事着が外から家で着るものに変化する中で「家でもきれいで快適な仕事着を身につけたい」という需要を取り込み成長してきた。

テレワークのときに羽織れるカジュアルジャケットやチノパンが人気で、既存のユーザーがスーツとあわせて購入するケースが増えている。

ストレッチが効いていて腕が曲がりやすい、汗染みが付かない、何度洗っても縮まないなどの機能もユーザーの声から加えたものだという。

このオーダーメイドの“ビジカジ”の売り上げが、コロナ前に比べて落ち込んだオーダースーツやシャツなどのフォーマルウェアの分を上乗せするかたちとなった。出社の回数が増える中でも止まらない仕事着のカジュアル化需要により、今なお成長を続けている。

ユーザーの声から生まれた「サステナブル梱包」

3つ目の売り上げ好調の理由は、「サステナブル需要」を取り込めたことだと森氏は言う。

コロナ禍で、先に挙げたビジネスカジュアルなどの機能性の素材が売れるようになってから一転、SDGsが国内でも浸透する中で天然素材を使ったスーツの売り上げ比率が上がっているという。

そもそもFABRIC TOKYOは「オーダーメイドそのものが大量生産せず、ムダを作らないサステナブルな生産方法」という思想のもと、フィロソフィーに“ハイサステナビリティ”を掲げるほどこの分野に注力してきたブランドだ。

オフィス内の会議室

オフィス内の会議室名の一つも、フィロソフィーである「Hi-SUSTAINABILITY」となっている。

2021年11月にはAmazonブラックフライデーのタイミングに合わせて「なかなか買えないECサイト」を公開し、生地工場や問屋に眠っていた生地を使ったオーダーアイテムを販売。

アパレル産業にある労働者の搾取、多様性の欠如、環境破壊などに一貫してアクションしてきたことがZ世代やミレニアル世代を中心とした消費者の共感を集めている。

2022年3月からは、一般の梱包パッケージに加えて「サステナブル梱包」をオプションで選べるようにした。

これはスーツ購入時に付いてくるプラスチックのハンガーと不織布のガーメントケースを付けない梱包で、「FABRIC TOKYOでスーツを買って既に持っているから、ハンガーもガーメントケースも必要ない」というユーザーの声を受けて実現したもの。

希望すれば、再生プラスチックを使ったスーツ専用の分厚いオリジナルハンガーも3000円で追加できる。専用のハンガーを使用することで、スーツのジャケットが型崩れせずに保管でき長持ちする。作ったスーツを長く大切に使うこともサステナビリティというわけだ。

「フィロソフィーを反映した一つひとつの地道な活動が大事だと思っています。こうした取り組みは特にリピート率が高いお客様から喜ばれますね」(森氏)

2022年3月から始まる「サステナブル梱包」

2022年3月から始まる「サステナブル梱包」。左の真ん中のハンガーと右上のガーメントケースを付けない代わりに一番下の紙のハンガーが付く。一番上のハンガーが3000円で追加できるオリジナルのハンガー。

全国展開するリアル店舗のもたらす価値

FABRIC TOKYOが注力してきた「高価格帯スーツ」「ビジネスカジュアル」「サステナブル素材」の3点は、新規のユーザーだけではなく、既存ユーザーのロイヤル化にもつながっている。

2022年1月に発表した「ロイヤルティプログラム」では、ユーザー一人ひとりのサービスの利用状況に応じた4段階のステージランクを設定し、ステージごとに各種サポートの提供や限定イベントへの招待、クーポンなどの特典が付く。

このようなロイヤルカスタマーに向けた手厚いサービスからか、FABRIC TOKYOは多くのリピーターを生み出してきた。

そのうち2割は、一度採寸すればスマホで簡単にオーダースーツを注文できるにも関わらず、プロのスタッフによる採寸やスタイリングを求めてリアル店舗を再訪することがあるという。

「体型が変わってサイズの測り直しはもちろん、サイズが複数登録できるのでスタンダードなサイズで一着目をつくって二着目、三着目は遊びを効かしてカスタマイズするというお客様も増えてきています。

僕らも驚いたのですが、夏と冬ではインナーの厚さが変わるからサイズ感を変えて同じスーツを買う人もいるほどです」

様々な生地

お客様のニーズに合わせてたくさんの生地を用意。リアル店舗で手に取ることができる

FABRIC TOKYOでは無人店舗の3Dスキャンで全身500万カ所のサイズを3秒で測る「STAMP」というオーダージーンズも展開するが、オーダースーツではこうしたテクノロジーを活用していない。その理由を「リアル店舗にはオンラインにはない価値があるから」と森氏は話す。

「AIから『あなたにおすすめのサイズをレコメンドしました』と言われて安心感を覚えるお客様の層と、プロのスタッフから『これがあなたに似合うサイズですよ』と言われて安心するお客様の層は全く違うと思っています。

リアル店舗だから安心感を得られることは多いし、それが信頼感にもつながる。それは僕らが大事にしていることでもあります」

注:この記事のリンクを経由すると、編集部とFABRIC TOKYOとのアフィリエイト契約により、編集部が一定割合の利益を得ます。

(文・山下久猛、撮影・関口達朗)

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