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「ウクライナ危機が中国の台湾武力行使を後押し」説は本当なのか。民主と専制の「危うい二元論」との指摘も

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ウクライナ軍の国内演習。「全面戦争」を仕掛けてきたロシアとどう対峙するか。

Press service of the Ukrainian Armed Forces General Staff/Handout via REUTERS

ロシアのプーチン政権はウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認、2月24日にウクライナの首都キエフなどの軍事施設にミサイル攻撃を開始した。

冷戦終結から30年以上の月日が流れたが、他国の主権を踏みにじるロシアの今回の軍事行動は、前世紀の「米ソ冷戦時代」の再現を思わせる。

金融機関などに経済制裁を科したアメリカのバイデン政権も、結果的にロシアの軍事侵攻を止められなかった責任を内外から追及されるだろう。

インド太平洋地域に外交の軸足を移したと見られたバイデン政権だが、ウクライナ問題の火消しが急務となり、欧州に精力を集中せざるを得なくなった。

中国とロシアの立場は「真逆」

一方、アジアではこの間、ロシアのウクライナ侵攻を阻止できなければ、中国による台湾への武力行使にはずみがつくという「ウクライナ・台湾連動」説が語られてきた。

しかし、中国の主張とスタンスは「アメリカと台湾内部の独立勢力が、中国の主権と領土の一体性を破壊しようとしている」というもので、ウクライナの一部地域の分離独立を承認したロシアとは真逆の関係にある。

中国外務省の華春瑩報道局長は2月24日の記者会見で、ロシアの軍事侵攻について「中国の同意は必要ない」と話し、ウクライナ侵攻に中国は関与せずとの立場を示している。

では、ウクライナ問題は今後、米中関係と台湾情勢にどう波及するのか。あらためて考えてみたい。

ロシアによる親ロシア派地域「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立承認が、主権独立国家であるウクライナの「主権と領土の一体性」を侵害し、国際法違反に該当する行為であるのは間違いない。

だが、プーチン大統領による東部2地域への派兵命令が「ウクライナ侵攻」に当たるかどうかは“グレー”だった。

プーチン大統領が投げた“クセ球”に、バイデン政権の対応は揺れ動いた。

独立承認直後、ロシアが東部2地域に派兵した場合、侵攻と判断するかどうかを聞かれたアメリカの政府高官は(2月21日時点では)、2地域は2014年から実質的にロシアの占領下にあるとの見方を示し、派兵は「新たな措置には当たらない」と位置づけた。

バイデン米大統領は翌日、ロシアによる独立承認と派兵決定について、ようやく「侵攻の始まり」と断定し、同国の金融銀行2行などを対象に、米金融機関との取引禁止など第1弾の金融・経済制裁に踏み切ると発表。2月24日に予定していた米ロ外相会談および首脳会談も白紙化した。

さて、中国政府はウクライナ問題にどんなスタンスで臨んでいるのか。

中国はそもそもロシアのクリミア併合(2014年)を支持していない。当時、併合を無効とする安保理決議案をアメリカが提出すると、中国は反対せず棄権に回っている。

今回、習近平国家主席はプーチン大統領と会談(2月4日)して、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対するロシアの立場を支持する一方、ウクライナ問題については対話による解決を強調した。

また、ミュンヘン安全保障会議でオンライン演説(2月19日)した中国の王毅外相は、「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重され、守られるべきだ」と発言。ロシアのウクライナ軍事侵攻をけん制した。

王毅外相はさらに、ブリンケン米国務長官との電話会談(2月22日)で「中国はすべての当事者に対して自制を要請する。『安全保障の不可分性の原則』(=他国を犠牲にして自国の安全保障を強化することは許されない)を実行することの重要性を認識し、対話と交渉を通じて事態を緩和し、相違を解決するよう求める」と述べ、独立承認を支持しない考えを示している。

こうした中国の態度は何を意味するのか。

中国が台湾の独立に反対し、圧力を強めるのは、分離独立の下地があるチベット、新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区などに伝播(でんぱ)するのを恐れるからだ。

さらにもうひとつ忘れてはならない中国の認識がある。それは、現時点で台湾統一は実現していないものの、「(台湾を含む)中国の主権と領土は分裂していない」という現状認識だ。

ロシアの東部2地域独立承認を支持すれば、「主権と領土の一体性」を掲げて台湾独立に反対する自らの論拠を否定することになってしまう。

そう考えると、中国とロシアのスタンスは「真逆」であることがよく分かるだろう。

「ウクライナ・台湾連動」説の典型

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中国の習近平国家主席(左)とロシアのウラジミール・プーチン大統領。2019年6月撮影。

REUTERS/Evgenia Novozhenina/Pool

そのような中国とロシアのスタンスの違いを踏まえた上で、「ウクライナ・台湾連動」説の信ぴょう性を検証してみたい。

典型的な論理を見てみよう。

日本経済新聞は1月26日付の記事で「米欧がロシアの軍事侵攻を止められなければ、中国による台湾侵攻の抑止にも影響が出る」と政府内の見方を紹介。

さらに「ウクライナ情勢への対処は一方的な現状変更を試みる相手に日米欧が結束して行動できるかを試す機会だ」として、日本政府が欧米とともに厳しい制裁措置をとるよう主張している。

また、林芳正外相は2月22日、欧州連合(EU)加盟国とインド太平洋地域諸国のオンライン外相会合で、「中国が力で現状変更を図る一方的な動きを強めている」と指摘し、台湾問題への波及に警戒感を表明した。

アメリカが東アジアと東欧の「二正面作戦」を迫られ、台湾問題に全力を集中できない状況を中国が歓迎していることは間違いない。しかし、だからと言って、バイデン政権の動揺を見た中国がいまこそ好機とばかり台湾への武力行使に走ると見るのは、さすがに論理が飛躍しすぎだ。

こうした「ウクライナ・台湾連動」説が、政界からメディアまでを広く覆うのは、日米安全保障を「対中同盟」へと変質させ、反中世論が大政翼賛的にまん延している日本の現状の反映と筆者は考える。

習近平国家主席が2019年1月に打ち出した台湾政策の基本は「平和統一」。さらに、統一は「中華民族の復興」と関連づけられ、中国建国100年を迎える2049年までに実現すべき長期目標として設定されている。

「外国勢力の介入」や「平和統一の可能性が完全に失われた場合」は、非平和的手段(武力行使)の行使が容認される(反国家分裂法)ものの、台湾統一は中国にとって基本的に「息の長い」戦略だ。台湾問題は、中国独自の論理を正確に理解しないと判断を誤る。

内外の客観情勢を見れば、武力行使は自殺行為に等しい。経済成長の鈍化に加え、少子高齢化という構造的矛盾に直面する習指導部が、米中軍事衝突のリスクをおかして台湾への武力行使を実行に移せば、共産党による一党支配体制の維持という至上命題まで危機に陥れかねない。

ウクライナと台湾を結びつける短絡さ

当の台湾はウクライナ情勢をどのように見ているのだろう。

蔡英文総統は、同国の安全保障政策を統括する国家安全会議(1月31日)で「ウクライナ情勢の台湾海峡への影響」について協議し、専任の「タスクフォース」を設置するよう指示。情勢を神経質に注視している。

中国情勢に詳しい台湾・淡江大学中国大陸研究所の趙春山名誉教授は、台湾メディアへの寄稿で「台湾はウクライナではない」としつつ、(1)ロシアの軍事行動(2)アメリカの対応(3)ウクライナの危機管理、の3点に注意を払えと指摘する。(1)は中国共産党、(2)はアメリカ、(3)は台湾に、それぞれ主体を「置き換え可能」と見るからだ。

趙名誉教授は、外交戦略の中心をインド太平洋に置くアメリカが、ウクライナより台湾に派兵する可能性のほうが高いと予測。英紙を引用しながら、ウクライナ危機と台湾危機は米ロと米中の「代理戦争」になる可能性があると指摘している。

そうした見方に対し、中国共産党系の「環球時報」は「台湾をウクライナと連動させるワナ」と題する中国国際問題研究所の崔洪建・欧州所長による論評を掲載(2月15日付)した。

崔所長は「ウクライナと台湾を結びつける論理は短絡。国際社会に『民主vs独裁』を売り込もうとしている」と批判する。

ウクライナ・台湾連動説が(1)両国を民主国家と位置づけ、(2)内政と外交を混同し、(3)両国を大国同士のゲームの「駒」と見る、ことを前提にしていると指摘した上で、次のように結論する。

「台湾統一は中国の内政問題。台湾を国家と同一視する言説のワナに陥り、台湾独立勢力が台湾問題を国際化し、アメリカがそこに必死に介入しようとしている」

崔所長の指摘するように、安易なウクライナ・台湾連動説からは、「一つの中国」に関する法的正統性や国家論などの重要な論点を素通りして、民主か専制かの二元論へと誘導する危うさが感じられてならない。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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