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「アフリカに20兆円」投じるEU版“一帯一路”の現実…脱炭素化は誰のためか

EU-AU Summitに登壇する首脳陣。

EU-AU Summitに登壇する首脳陣。一番左は欧州委員長のフォン・デア・ライエン氏。奥にはフランスのマクロン大統領の姿も見える。このほかセネガルのマッキー・サル大統領、アフリカ連合のムーサ・ファキ委員長の姿も見える。

John Thys / REUTERS

欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)が2月17日から2日間にわたって首脳会談を開催、経済・社会・政治の広範にわたる協力関係の構築に向けた『共同ビジョン』を発表した。

この中でEUはAUに対して、官民で少なくとも1500億ユーロ(約20兆円)を支援することを発表した。投資のみならず衛生や教育の面でのサポートも含まれる。

このプランは、EUが2021年末に発表した「グローバル・ゲートウェイ」構想に基づくものだ。この構想の下でEUは、2021年から2027年の間に3000億ユーロ(約39兆円)を支援し、途上国の脱炭素化やデジタル化をサポートすると表明している。つまりグローバル・ゲートウェイ構想の資金枠の半分が、今回のAU向け支援に向けられることになる。

グローバル・ゲートウェイ構想は、米国のバイデン大統領が音頭を取ったG7(先進7カ国)による途上国向けインフラ支援構想である「ビルド・バック・ベター・ワールド」(B3W)構想とも連動する。B3Wは、中国の「一帯一路」というアジア・ヨーロッパ間の陸路・航路で結ばれた地域における経済協力の枠組みに対抗されて提唱された構想ゆえに、グローバル・ゲートウェイ構想もまた一帯一路を念頭に置いている。

一帯一路に関しては、途上国が「債務の罠」に陥るものだという批判が欧米からなされている。

債務の返済が滞ったことを理由に中国企業に運営権を譲渡することになったスリランカのハンバントタ港のケースがよく引き合いに出されるが、一方で「中国による投融資が途上国の資金需要を満たしている」という事実も見過ごせない。それに、採算割れして不良債権化した資産を中国が掴まされている、という見方もまた興味深い。

それが中国を引き寄せた要因でもあるが、アフリカには天然資源が豊富に埋蔵されている。また出生率が高いために、有望な消費財のマーケットでもある。歴史的な経緯からEUとアフリカの経済関係は既に密接だが、米国や中国との競争を念頭にEUはアフリカとの関係性をさらに緊密化させたいと目論んでいるようだ(図表参照)。

図表 各国のアフリカ向け投資の累積額(2018年)

図表 各国のアフリカ向け投資の累積額(2018年)

(出所)Factsheet on EU-Africa relations

脱炭素化やデジタル化であれば支援がしやすいEU

いずれにせよ、EUは中国を念頭にAUとの関係の強化を模索している。AUとしても、中国へのけん制という意味も含めて、EUからの支援を引き出す必要がある。EUとAUの双方のニーズがかみ合った今回の1500億ユーロ規模の支援パッケージだが、ここでもEUは自らが重視する脱炭素化やデジタル化に対するこだわりを隠そうとしない。

フォン・デア・ライエン欧州委員長らEUの執行部が描く経済成長戦略は、脱炭素化とデジタル化を両輪とするものだ。 そうしたEUが描くフォーマットを、支援という形を通じてアフリカに適用しようという意図が透けて見える。

もう一つ重要な点として、脱炭素化やデジタル化といったEUが描く戦略にかなうならば、EUが途上国向けに資金を拠出しやすいという側面があると考えられる。

フォン・デア・ライエン欧州委員長らEU執行部のみならず、ヨーロッパ的な価値観を重視する欧州議会にとっても、脱炭素化やデジタル化に適う途上国向け支援というストーリーは受け入れやすい。現実主義的なEU執行部に比べると、欧州議会は理想主義的であり、EUが掲げる普遍的な価値観に対しては強いこだわりを堅持している。

その意味では、欧州議会もEU発のグローバルスタンダードを確立することを重視している。そのため、脱炭素化やデジタル化に適う投資をサポートすることに対して、欧州議会が反発することもない。

とはいえ気になるのが、肝心の途上国サイドの理屈だ。つまり、脱炭素化やデジタル化に対するニーズがどれだけあるのかという点だ。

途上国は脱炭素やデジタル化を望んでいるのか?

フランスのマクロン大統領に歓迎されるマラウィのラザロ・チャクウェラ大統領。

フランスのマクロン大統領に歓迎されるマラウィのラザロ・チャクウェラ大統領。後ろにはミシェルEU大統領もいる。

Olivier Hoslet / REUTERS

途上国と言っても発展段階は多様だ。ましてアフリカの場合、多くの国で紛争を抱えている状況にある。農作物や鉱物など一次産品の価格上昇もあって一人当たりGDP(国内総生産)が増えた国も少なくないが、貧富の格差は依然として大きい。衛生状態が悪い国も少なくなく、基本的なインフラさえ整備されていない国はまだまだ多い。

そうしたアフリカの実情を踏まえた場合、一体どれだけの国に脱炭素化やデジタル化に対するニーズがあるのだろうか。経済活動に不可欠な、よりベーシックなインフラ支援にこそニーズがあるのではないだろうか。脱炭素化やデジタル化に適う最新鋭の設備を整備することは、経済の発展段階を考えればオーバースペックではないだろうか。

EUとてそうしたことは理解しているのだろう。だからこそ『共同ビジョン』には衛生や教育面でのサポートについても言及があるわけだ。一方でEUは、アフリカ向け融資につき、必ずしも無償資金協力を前提としているわけではない。有償資金協力となれば、当然だが何らかのコンディショナリティ(融資条件)を課してくると考えられる。

かつて世界銀行や国際通貨基金(IMF)は、途上国の融資に際して自由化を前提とする融資条件を課した。俗にワシントン・コンセンサスと言われるアプローチだったが、経済の発展段階を考慮に入れず画一的な対応に終始したため、必ずしも効果を持たなかったばかりか、むしろ途上国側の経済を混乱に導いたと批判されている。

ましてEUの場合、アフリカなど途上国に対して政治的なコンディショナリティを課す可能性が高いのではないだろうか。

具体的に言うと、それは基本的人権の尊重であり、法の支配の確立であり、民主主義の確立だろう。これらは確かに重要な要素であるが、果たして途上国のインフラ支援という文脈から場合に適切なアプローチとなり得るのか。

途上国が中国の支援を受け入れた理由は何か

鉄道の建設作業を進める中国人エンジニアと、地元の建設労働者

ケニアのエマリでモンバサとナイロビを結ぶ鉄道の建設作業を進める中国人エンジニアと、地元の建設労働者(2015年10月撮影)。

REUTERS/Noor Khamis

少なくない国が中国からのインフラ支援を受け入れた最たる理由は、話の早さにあったと言える。

途上国においては、経済的な合理性よりも政治的な合理性が優先されるプロジェクトが少なくない。欧米は経済的な合理性を重視するため、なかなか支援を引き出すことができない。そうした隙をついてきたのが中国によるサポートだったわけだ。

経済と同様に、社会や政治にも発展段階は存在する。現代アフリカ史をひもとけば、議会制民主主義の導入を急いだ結果、国会が公然な部族間闘争の場と化し、むしろ政治が混乱してしまった経験も数多い。

経済の発展に関しては、アレクサンダー・ガーシェンクロンが提唱した「後発性の優位」という仮説が通用するのだろう。つまり、途上国は先進国の経験を下敷きに、先進国がたどった過程をスキップして経済を発展させることができる。実際に、アフリカでは固定電話が普及する前に、多くの人がスマートフォンを使っている事実がある。

しかしながら、社会や政治に「後発性の優位」があるかは定かではない。少なくとも、上から押し付けるようなスタンスではうまく行かず、結局は中国の伸長を招くことになりかねない。

バイデン政権の人気低迷でB3Wに実行のめどがつかない中で、日本の対アフリカ支援にも大きな影響を及ぼす可能性があるEUの支援動向につき、注視したい。

(文・土田陽介

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