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元グーグル・エンジニアがたった1人で作った「再エネ研究所」。震災で感じた“反省”が原動力に

樽石さんの写真

研究用のPHEVを受電する樽石将人さん。

撮影:横山耕太郎

「“再生可能エネルギー×IT”は、重要なのにぽっかり空いてしまっている分野。この分野で心踊る人材を増やしたい」

グ―グルのエンジニアや、楽天、RettyのCTOなどを経て、数十社の技術顧問を兼任——。そんな輝かしいキャリアを歩んできた樽石将人さん(44)が、たった一人で副業として始めたプロジェクトがある。

そのプロジェクトとは、太陽光パネルや蓄電池、複数台のEVを備え、ITを活用した再生可能エネルギーの効率的な利用を追求する研究拠点を作ることだ。

多額の費用がかかる研究開発は、資金が潤沢な企業がR&D(研究開発)事業として取り組むのが一般的だ。しかし、樽石さんはあえて一人で会社を設立。その上、企業からの出資や国の補助金などはこれまでほぼ受けず、自己資金で研究を進めている。

企業から引く手あまたの現役のITの専門家が、なぜ1人で再エネ研究に取り組む道を選んだのか?

人生の転換点は東日本大震災

Googleのロゴ

樽石さんはグーグルのエンジニアとして働いている時に、東日本大震災を経験した。

shutterstock

樽石さんがデジタルの世界に興味を持ったのは小学2年生の時。親が持っていたパソコンを使い、プログラミングコードを手打ちで映す「写経」が始まりだった。

「親がゲームを買ってくれなかったので、写経してゲームを作るしかなかったんです。でも徐々にゲームが目的ではなく、プログラムを動かすことが面白くなっていきました」

学生時代にオープンソースソフトウェアで知られるRed Hat(現在は米IBMの子会社)でインターンとして働き始め、大学院修了後に日本法人初の新卒社員として入社。その後、グーグルや楽天のエンジニア、グルメサイト・RettyのCTOなどを歴任し、インターネットの基盤作りから、サービス、会社経営まで幅広い経験を積んだという。

そんな樽井さんにとって、人生の転換点となったのが、グーグルのエンジニアとして勤務していた時に経験した東日本大震災だったという。

福島から避難した祖母との生活

六本木ヒルズの写真

夜の六本木ヒルズ。樽石さんがグーグルに勤務していた当時、このビルにあった。

GettyImages

2011年3月、東日本大震災が日本を襲った時、樽石さんは六本木ヒルズにあったグーグルのオフィスで働いていた。

「すごい揺れでしたが、ビル自体は免震構造なので、どれほどの被害が出ているのか、すぐには分かりませんでした」

当時は渋谷区に住んでいたが、計画停電などで通勤が難しくなり、千葉県にある実家に移り住み、在宅勤務に切り替えた。

千葉の実家には、震災当時85歳だった樽石さんの祖母も福島県いわき市から避難していた。祖母に住み慣れた福島を離れる体力はなかったが、東京電力第一電子力発電所の事故に加え、地域で断水状態が続いていたことから、避難の説得を受け入れたという。

樽石さんはテレビを見る祖母の隣でパソコンを開き、グーグルが急きょ開発に着手した、避難者の安否確認サービスなどを作ったという。

故郷を追われた祖母と暮らしながら、これまでの生活を振り返った時、樽石さんは「東京での生活を反省した」という。

「福島の原発は東京電力のもので、東京で使う電気を作っている場所。六本木オフィスや渋谷の住宅でこうこうと明かりがともる生活してきた自分は、原発事故の加害者なんだと思うようになりました」

再エネ、AI活用で「潮目が変わった」

ソーラーパネル

再生可能エネルギーが注目を浴び、国内には大量の太陽光パネルが設置されたが、課題も浮き彫りになった(写真はイメージです)。

REUTERS/Issei Kato

震災後、樽石さんは都内の自宅に太陽光パネルを設置するなど、再生可能エネルギーに関心を持つようになった。しかし当時はまだ事業に結びつけては考えることはなかった。

「グーグルには2013年まで在籍していましたが、当時の再生可能エネルギー事業は、建設業が中心。補助金で成り立つビジネスでした」

しかしその後、再生可能エネルギーの発電量が増えたことで、次第に課題が表面化してきた。

例えば急増した太陽光発電では、晴れている時には効率よく発電できるが、曇りの時は当然、発電の効率は悪くなる。だからといって、発電量の少ない曇りや雨の時は電気の使用を減らすことは現実的ではない

そんな状況で注目されてきたのがIoTや、AIを駆使したエネルギーの効率利用だ。

「2015年ごろからIoTが普及し、潮目が変わってきました。IoTやAIを使えば、晴れた時にはお湯を沸かしたり、エアコンで部屋を涼しくしたりして、曇った時には電力使用を抑えるなど、生活に負担がない形で電力需要を制御することができます。

『日本の再生可能エネルギーに関わりたい』とずっと思ってきましたが、やっと専門性を発揮できる状況になりました

高額な設備投資…費用を捻出する方法は?

DSC_0644

充電の実験などに使っているMINIのPHEV車。

撮影:横山耕太郎

家庭で効率的に電力を発電し、効率的に利用することで、家庭で発電した電力だけで生活する——。

そんな社会の実現を目指す樽石さんは、RettyのCTOだった2018年から、副業の個人事業として研究拠点作りに着手した。

ただ、再生可能エネルギーに関するR&D(研究開発)費用は決して安くない。

「年間10メガワット時を発電する太陽光発電で数百万円、電池を貯めるバッテリーも100万円単位、充電の実験に使うEVは安くても1台300~400万円以上。ソフトウェアの開発は、100円程度からできるのに比べたらすごい額の資金が必要になります」

そこで樽石さんが考え出した費用の捻出方法は、「コンサルで稼ぐ」という方法だった。

これまでのデジタルスキルを生かして、DXなどデジタルシフトを進める企業のコンサル事業を開始。そこで必要なキャッシュを獲得する方法をとった。

企業のDX需要もあり、多い時には同時に20社の依頼を受けたこともあったという。

事業を始めた当初は、デジタルに関するコンサル事業ばかりだったが、ここ1年ほどは「どうすればグリーンシフトができるのか?」などの再生エネルギー全般に関する依頼や、ベンチャー企業と協業した再エネ向けAIシステムの開発など、再エネに直接関係する依頼が増えた。

2021年には、「樽石デジタル技術研究所」として、社員のいない合同会社を設立。今ではほぼ、IT分野ではなく、再エネ関連の依頼で会社が回せるようになったという。

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