地政学的リスクが耳目を集めている。ロシアによるウクライナ侵攻の文字がニュースが日々見出しに躍り、株式市場は混乱状態に陥った。
「ウクライナ情勢は、石油やガスなど天然資源の移送に脅威を与えています。その他の国でも、中国と台湾の関係は穏やかではなく、半導体製造をはじめIT産業にとって大きな悩みの種になっています」
モーガン・クリーク・キャピタルのマーク・ユースコCEO兼CIO
Mark Yusko
そう語るのは、投資運用会社モーガン・クリーク・キャピタルのマーク・ユースコCEO兼CIO(最高投資責任者)だ。
投資において懸念材料となるのは地政学的リスクだけではない。もう一つの懸念材料は、欧米の中央銀行が長年続けてきた量的緩和・歴史的低金利政策を終了することによる影響だ、とユースコは言う。これまでの金融緩和政策によって、債券投資はリターンを得にくくなる一方、株価は危険なレベルにまで押し上げられた。
市場に待ち受ける不確実性を乗り切るために、投資戦略には十分な分散が必要だ。ユースコの投資運用会社は、基金型投資モデルを採用しており、一般的な投資運用会社より幅広い分散投資を行っている。
株式・債券比率を60:40に保つだけでなく、ヘッジファンド、ベンチャーキャピタル、コモディティからデジタル資産に至るまで、さまざまなオルタナティブ投資も行っている。
「我々独自の判断基準に加え、分散とヘッジを組み合わせた投資戦略に注力することで、今日のような困難な投資環境においても、投資家の資金を守り、増やすことは可能です。集中が富を生み出し、分散が富を保護します。地政学的リスクと不確実性が高まる時期には、分散が正しい戦略です」とユースコは語る。
不確実性をヘッジするためのポートフォリオ戦略
では、地政学的リスクをヘッジするにはどのようなポートフォリオを組むべきなのか。
ユースコは、自ら提案するポートフォリオを「地政学的不確実性対応型分散ポートフォリオ(GUDP)」と呼ぶ。ポートフォリオを抜本的に変更するのではなく、微調整をするというもので、ポイントは以下の4つだ。
第1に、ETF(上場投資信託)を通じてコモディティ投資を行うことだ。例えば、金であればSPDRゴールドシェアーズ(SPDR Gold Shares:GLD)、石油サービス・セクターならヴァンエック石油サービス(VanEck Oil Services:OIH)、石油生産セクターならSPDR S&P石油・ガス探鉱生産(SPDR S&P Oil & Gas Exploration & Production:XOP)などがおすすめだという。
ESGを重んじる流れのために、エネルギー関連株は1年前には見向きもされなかった。しかし、年初から直近まで、エネルギー業種はS&P500の中で、最も高いパフォーマンスを示している。ユースコは、エネルギー業種への投資が、地政学的リスクと石油・ガス価格高騰に対する有効なヘッジになると考えている。
第2に、重要なのはキャッシュだ、とユースコは言う。地政学・経済的不確実性が高まる時期には、流動性を高めることが肝要だ。しかし、現金を持っているだけでは不十分で、裁定取引(アービトラージ)などを活用した投資が必要だという。裁定取引とは、ある市場で証券を買い、別の市場で同じ証券をより高値で売るという方法だ。
なお、ユースコは、マネー・マーケット・ファンド(MMF)はすすめていない。短期債券への投資よりも、裁定取引を活用した投資対象の方が、同じリスクで若干高いリターンが得られるという。
このアプローチにおいて検討すべきETFとしては、ザ・マージャー・ファンド・クラスA(MERFX)、ファースト・トラスト・オルタナティブ・アブソリュート・リターン戦略ETF(First Trust Alternative Absolute Return Strategy ETF:FAAR)などだ。なお、ユースコが率いるモーガン・クリークでは、キャッシュに代わる投資先として、エキソス・アクティブSPACアービトラージETF(Exos Active SPAC Arbitrage ETF:CSH)を提供している。
第3に、株式全般について、比重をグロース株からバリュー株に移行させることだ。簡単な方法としては、ヴァンガード・バリュー・インデックス・ファンドETF(Vanguard Value Index Fund ETF:VTV)など、バリュー株中心のETFへの投資だ。
この環境下において、中国株も売られ、株価が低下した。テンセントやアリババなど中国系の優良なテック銘柄は、今日、絶好の買い場にあるとユースコは言う。
「中国が台湾に侵攻する懸念が高まると、中国のテック企業の株価はさらに下げ圧力にさらされるでしょう」とユースコは言う。
中国系テック銘柄への投資については、クレーンシェアーズCSIチャイナ・インターネットETF(KraneShares CSI China Internet ETF:KWEB)などが検討対象になるだろう。
第4に、投資家はデジタル資産についても、ある程度の投資を行うべきだとユースコは考えている。
ただし、仮想通貨に直接投資する煩わしさを軽減するため、集約的に管理されたファンドに投資する方法をすすめる。
検討すべきETFとして挙げるのは、グレイスケール・ビットコイン・トラスト(Grayscale Bitcoin Trust:GBTC)やビットワイズ10クリプト・インデックス・ユニッツ・ベネフィシャル・インタレスト(Bitwise 10 Crypto Index Units Beneficial Interest:BITW)などだ。
(翻訳・住本時久、編集・野田翔 )