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「金融版の核兵器」ロシアのSWIFT排除で何が起きるのか。破壊的制裁の解除にはプーチン政権交代必要か【Q&A】

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2月27日、モスクワ市内のフルニチェフ国立科学産業宇宙センターを訪れたロシアのプーチン大統領。一方で核抑止力を有する部隊に「特別警戒態勢」をとるよう指示。西側諸国や日本による経済制裁は機能するのか、瀬戸際の攻防が続く。

Sputnik/Sergey Guneev/Kremlin via REUTERS

ウクライナ侵攻を強行したロシアに対する、西側諸国は「最後の一手」の制裁措置として、国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する決定を下した。

「金融版の核兵器」(ルメール仏経済財務相)とも形容されるSWIFTからの排除は、国内外への影響があまりに大きく、ドイツ、イタリア、オーストリアといった欧州の主要な国々が反対してきた。

例えば、ドイツのベアボック外相は「鋭い刃が、必ずしも賢明な手段とは限らない」と慎重な姿勢を明言していた。

それでも、ロシア軍の首都キーウ(ロシア語表記:キエフ)侵入、停戦交渉打ち切りなど事態の深刻化が報じられるなか、それまで反対していた欧州諸国も強硬姿勢に転じ、2月26日にはついに合意に至った。

非情に聞こえることを承知で言えば、金融市場は戦争それ自体に着目しているわけではない。戦争に付随して発生する経済・金融情勢の変化、具体的には両陣営における制裁の応酬がどんな影響をもたらすかにこそ、市場の視線は注がれている。

その意味で、金融市場が最も警戒するのはキーウ陥落の一報より、SWIFTからの排除決定だったと言っても過言ではない。

以下で、SWIFTからの排除の影響について、6つの切り口から整理、分析を試みた。

【Q1】SWIFT排除、ロシアにとって最大の影響は?

SWIFT排除の影響は、ロシアとそれ以外の国々について別途理解する必要がある。端的に言えば、ロシアでは「通貨危機」、ロシア以外では「資源価格上昇」が警戒される

まずロシアへの影響について整理しよう。

通貨危機という言葉が指す範囲は非常に広く、ある国の通貨の価値が短期的かつ急激に毀損(きそん)した場合に起きる、ネガティブな経済現象全般を想定した総称と言える。

SWIFT排除がもたらす最大の効果は、排除された国で「外貨が得られない」事態が発生することだ。

原油や天然ガス、穀物などを海外でいくら売り上げても、その国の通貨(外貨)で支払われた代金がロシアに還流する道筋が断たれることになる。

現状、ロシアとの貿易取引までが禁止されているわけではないものの、代金の支払いと受け取りができない以上、貿易取引も早晩行き詰まるだろう。

また、ロシアに対する海外からの証券投資・直接投資など、資本取引も断たれる。

そのように貿易取引と資本取引がいずれも完全停止するので、為替市場においてロシアルーブルは圧倒的に売り超過になる。

そうなる未来が確実に見えているので、現時点でロシアルーブルを保有している個人も企業も売りの一択しかない。

ここで2020年の貿易統計を見ておくと、ロシアの貿易総額は約5600億ドル(約65兆円)、同国の名目国内総生産(GDP)の40%程度を占める。

ロシアの貿易相手国は欧州連合(EU)から中国へと徐々に軸足が移りつつあるが【図表1】、それでも、EUと日本、アメリカなどの取引額を合わせれば、ロシアの貿易総額の40%以上を占める規模になる。

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【図表1】ロシアの外貨準備構成の変化。

出所:ロシア中央銀行

ドル、ユーロ、円といった主要外国通貨の為替取引が止まれば、当然、それらの通貨で決済される貿易取引もほぼ止まる。

名目GDP比で16%程度(=貿易総額の40%×日米欧貿易額に相当する40%)の経済活動がまるごと抜け落ちれば、その影響が甚大なものとなるのは確実だ。

SWIFT排除は、要するに「金融版の兵糧攻め」と言える。

上で指摘したように、国際決済システムであるSWIFTが使えなければ、お金が流れないから、海外との資本取引はもとより貿易取引も滞る。もしSWIFTを迂回する手段があっても、暴落した自国通貨では満足な価格・量の取引はできない。

結果として、海外から入ってくる物資は価格が高く、量も少なくなる。ロシア国内では供給不足が発生し、需要超過が慢性化するので、需給もひっ迫する。

そうなれば、スタグフレーション(=不況下で進行する物価上昇)の様相が強まり、おそらくロシア国民は戦争を仕掛けたプーチン政権への不満を募らせるだろう。

SWIFT排除が解除されるには、プーチン大統領が白旗をあげて譲歩するか、プーチン政権が交代するか、などなど現時点ではおよそ想定できない展開が必要となる。

ちなみに、2012年にはイランの核開発疑惑に対してSWIFT排除が決定され、同国は石油輸出による潤沢な外貨収入を受けとれなくなった。このときは制裁が功を奏し、2015年のイラン核合意につながったとされる。

最後に、今回のSWIFT排除は、ロシアにその潤沢な外貨準備(=為替介入時などに使う準備資産)を使って通貨防衛(ロシアルーブル買い・外貨売り)をされないよう、ロシア中央銀行も制裁対象とされている。

したがって、ロシアが購入している米国債や英国債、ユーロ域内債も凍結される。欧米諸国の財政目線で言い換えれば、「ロシアから借りた資金を全額踏み倒す」行為そのもので、通貨危機の渦中にあるロシアにとって痛烈な一撃になるだろう。

【Q2】SWIFT排除、西側諸国への最大の影響は?

排除されるロシアが直面するほど悲惨な展開にはならないものの、「金融版の核兵器」とされるほどの制裁は、課す側にも相応の影響・ダメージをもたらす。

影響は多岐にわたるが、主に(1)資源価格が高騰する(2)別の国際決済システムが勃興する契機になる、という2点が挙げられる。西側諸国に関係するのはこのうち(1)だ。

【Q1】で説明したように、ロシアは天然資源を海外で販売しても代金が還流しないから、商売を断念せざるを得ない。資源輸入国の立場で言えば、ロシアから調達するメドが立たなくなる。欧州を中心にただでさえひっ迫している需給は深刻化し、資源価格はさらに高くなる。

SWIFTは世界のドル建て取引のほぼすべてを担っている。つまり、石油・ガスのような地下資源に限らず、ドル建てで取引される小麦などの食料まで広く影響を受ける(なお、小麦の輸出でロシアは世界1位、ウクライナは世界5位=国連食糧農業機関[FAO]2020年確定値)。

したがって、食料も含めた広い意味での資源価格が高止まりする懸念が強い

そうした動きが家計の生活コストに跳ね返るまでには数カ月のラグがあると思われるが、徐々にしかし確実に、家計を蝕んでいくのは確実だ。

こうした副作用こそ、西側諸国がSWIFT排除に踏み切れなかった最大の理由と言っていいだろう。さらに裏を返せば、この副作用を緩和する妙手が見つかったからこそ、SWIFT排除に踏み切ったと考えるのが自然だ。

が、そのあたりに触れた発表や報道はいまのところ見出せない。ひょっとしたら見切り発車なのかもしれない。

なお、上記では資源価格を例に取り上げたが、資金や代金を受け取れなくなるのは、ロシアに進出している外資系企業、ロシアにいる留学生、真っ当な市民団体も同じだ。

2017年に北朝鮮、2012年と18年にはイランがSWIFTから排除されているが、両国の民間への影響度は、ロシアほどの大国にもたらされる影響とはさすがに比較できない。過去の経験則をもとにして有効な予測シナリオを立てるのはきわめて困難な状況だ。

【Q3】SWIFT排除、それ以外に最大の影響は?

【Q2】の最初に触れた(2)別の国際決済システムが勃興する契機になる、というのが回答だ。

アメリカに対抗したい勢力(ロシア以外では中国や中東諸国)にとって、SWIFTに代替できる決済システムの構築は、永年の課題だった。

ロシアは2014年のクリミア侵攻をめぐって経済制裁を受け、SWIFTに代わる独自の決済ネットワークとして「SPFS」を導入したが、現時点では国内金融向けのシステムにとどまっている。

中国が2015年に導入した国際決済システム「CIPS」も、今回のロシアのSWIFT排除により資金が流れ込み、利用拡大の契機になる可能性も指摘される。

【Q4】ロシアの潤沢な外貨準備はまったく換金できないのか?

一部は換金可能と推測される。

SWIFTからの排除でロシアは外貨を得られなくなるので、ロシアルーブルの外貨との交換価値を示す為替レートは当然下がるしかない。その展開を見越して、ロシアルーブルは目下史上最安値を更新中だ。

すでに触れたように、ロシア中央銀行も制裁対象になるため、ロシアが誇る巨額の外貨準備は通貨防衛(ロシアルーブル買い・外貨売り)に使えない

ロシア中銀は外貨準備を構成する通貨を公表している数少ない中銀で、そのデータによれば、2021年6月末時点で外貨準備のうちドルは16.4%、ユーロは32.3%、英ポンドは6.5%となっている。

円の独立項目はないが、ロシア中銀の報告書で「その他」10%のうち5.7%(ポイント)が円の構成割合だと言及されている。

ドル、ユーロ、英ポンド、円はいずれもSWIFT排除参加国の通貨なので、ロシアが保有する外貨準備のうち60.9%は、凍結されて使えない外貨となる

逆に、ロシアが換金できるとすればそれ以外の外貨準備だ。13.1%を占める人民元と、21.7%を占める金(ゴールド)がそれにあたる。

上記のロシア中銀データによれば、2021年6月末時点でロシアの外貨準備は5853億ドルだから、人民元と金を合計した34.8%、つまり約2037億ドル程度が換金可能と考えられる。

絶対数としてはもちろん少額ではない。しかし、これからロシアが直面するSWIFT排除の破壊的な影響を考えれば、2000億ドルあってもしょせん「焼け石に水」だ。

ただし、下の【図表2】に示した通り、過去5年間ほど「人民元を増やして、ドルを減らす」外貨準備のバランス修正の意図があったことは間違いなく、それが今回のような事態に備えた措置だった可能性は高い。

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【図表1】ロシアの外貨準備構成の変化。

出所:ロシア中央銀行

そうした事前準備の形跡が感じられるからこそ、ロシアには(外貨準備を使う以外に)何かの備えがあるのかもしれない、と見る向きもある。

【Q5】SWIFT排除、欧州諸国への影響は?

もともと亀裂が走っていた大陸欧州の分断を深める可能性がある。

欧州のロシア資源依存度は、天然ガス、石油ともに30~40%とされるが、国によって事情はかなり異なる。ドイツやフィンランド、バルト三国、東欧諸国は50~100%と依存度が高く、フランスやオランダは10~20%にとどまる。

今回、欧州は国際社会の雰囲気に押される格好でロシアのSWIFT排除に合意できたものの、結果として割を食うのは(ロシアへの資源依存度が高い)地理的に東側の(ロシアに近い)国々だ。

ドイツをはじめ欧州東側に位置する国々は、今後エネルギー事情が相当ひっ迫する懸念がある。一方でフランスやオランダはそうでもない(ドイツが原発廃止路線をあきらめればその限りではないが)。

それは大陸欧州に「縦」の亀裂が生じることを意味する

それより以前、メルケル前独首相の無制限難民受け入れ(2015年夏)をきっかけに、大陸欧州には「ドイツ対東欧」という「縦」の亀裂が走っていた。

今後はその亀裂がやや西に逸(そ)れて、「フランス中心の西側欧州対ドイツ(など東側欧州)」という構図にシフトしていく。

その上で、従前から存在する経済格差に照らした南北対立を意味する「横」の亀裂(象徴的には「ドイツ対南欧諸国」)、EU運営方式をめぐる「斜め」の亀裂(象徴的には「ドイツ・フランス対オランダ・北欧諸国」)も存続し、複雑な視点が生まれることになる。

【Q6】FRBの利上げ含め、コロナ危機からの金融政策正常化はどうなる?

非常に難しくなったと言わざるを得ない。

ロシアのSWIFT排除によって世界の資源需給はますますひっ迫し、エネルギー関連に限らず、小麦など食料価格の上昇圧力も強まる。スタグフレーション(=不況下で進行する物価高騰)が世界経済全体に重くのしかかるようになるだろう。

スタグフレーションが世界経済のテーマになってしまうと、中央銀行ができることは限定されてしまう

金融引き締めによって需要を抑圧し、縮小均衡で物価上昇を止めるか、供給制約が解消するまでの時間稼ぎに金融緩和を継続し、景気を下支えするかの二者択一になる。

前者は景気後退を覚悟した方策ながら、物価上昇を抑止できる可能性は高まる。後者だと不況にはなりにくいもののスタグフレーションが(少なくとも当面は)悪化する可能性が高まる。

現状、米連邦準備制度理事会(FRB)は前者に軸足を置き、欧州中央銀行(ECB)は後者に軸足を置いているように見える。

政策主張の継続性を踏まえれば、FRBが3月の利上げ着手計画について、これから態度を変更する展開は考えにくい。

ECBも「金融政策でガスパイプラインに天然ガスを充てんすることはできない」(ラガルド総裁)とするなど、目下のインフレ高進に金融政策が無力であることを自認しており、金融引き締めに急転直下シフトする展開は考えにくい。

ただし、春先以降はアメリカでも(前年比で見た)インフレ圧力が後退していくと予想される。懸念された住宅価格の上昇はすでにピークアウトし、ISM製造業景況指数などに表れる企業マインドからは出荷遅延も緩んできていることが感じられる。

そうした変化を踏まえると、3月の最初のFRB利上げは計画通り実施されるとしても、2回目以降の利上げはこれまでとは違う空気で迎えられる可能性が高い。

その際、ウクライナ危機から派生した世界経済の下振れが懸念されていれば、FRBもECBに近い(景気重視のハト派)スタンスへ切り替わっていくと筆者は考えている。

FRB利上げは3回程度と筆者はこれまで予測してきたが、ウクライナ危機により1回ないしは2回にとどまる可能性が高まってきているように思う。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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