年度末が近づいてきました。
1年の成果を振り返る「評価面談」のシーズンですが、ビジネスパーソンの皆さんからは、「リモートワーク中心で仕事をしてきて、適切に評価される(できる)のだろうか?」という不安の声が聞こえてきています。
例えば、メンバークラスの方々からは——
「決してサボっていたわけではないのに、十分な成果を挙げられなかった。自分なりには手応えを得た部分もあるし、少しずつでも前には進んでいるのだが……。コロナ禍以前、オフィスで働いていた頃は、自分が頑張っている姿を上司が見ていてくれている安心感があったけれど、リモートワークではそれがない。最終成果(アウトプット)だけが見られるとなると、評価を下げられてしまうのだろうか……」
一方、チームリーダー・マネジャーなど「上司」の立場にある方々も、こんな不安を抱えているようです。
「リモートワーク中はメンバーの動きをつかめないことが多い。定期的に1on1ミーティングを行ってはいるが、やはり限界がある。成果だけで評価をするのは簡単だが、それだけでなく、頑張っているメンバーの努力のプロセスもきちんと評価してあげたい。その評価が適切にできなければ、モチベーションを下げてしまうのではないか……」
そこで今回は、リモートワーク環境下での人事評価について、上司・部下の双方が納得感を高めるためのヒントをお伝えします。
「働く姿」を見せられなくても、正当な人事評価を得るための方法
まず、評価される側のメンバーの皆さんにお伝えしたいことがあります。
評価は「されるもの」という受け身の考えは捨てて、自ら獲得していくものだと考えましょう。
これは私がリクルート社員だった頃に実践し、効果を挙げていた方法です。
今は目標管理制度(MBO)を導入している企業が多く見られますが、私が若手だった時代も、定期的に上司と面談を行い、目標達成度の振り返りをしていました。
その場で私は、成果の報告だけにとどまらず、「なぜこの成果を出せたのか」というプロセスの分析・報告を細かく行っていました。
それを求められたわけでもないのに、自分がどんな考えや計画に基づき、どんな行動や工夫をしてきたのかを、規定の評価シートとは別のシートにまとめて「プレゼン」したのです。「たまたま運が良かったわけではない」と納得させるために。
そのプレゼンに納得した上司は、マネジャーが集まる査定会議で私の成果・プロセスをしっかりと伝えてくれました。そのかいあって、私は常にトップ査定。
それにより、私は会社組織の中で、自分の希望どおりのキャリアパス(異動・転籍など)を叶えてこられたと思っています。
皆さんが、「頑張っていたのに成果を挙げられていない。低い評価をつけられるのでは」と不安に思っているのであれば、これまでのプロセスを細かく分解して伝えましょう。
そして、「小さくても成果と言えるもの」、そして「今は結果が出ていないが、続けていくことで成果につながるもの」をアウトプットしてください。
「収穫はまだできていないけれど、1年後の収穫のための種まきをしっかりしている」と伝えるのです。
なお、来期に向けてのアドバイスも一つ。
自社の「人事評価基準」を正しく把握してください。
自分なりに目標を掲げ、努力して成果を挙げたとしても、会社が「価値」と捉えている方向性から外れていると、自分が思ったほどには評価されないものです。
ですから、ご自身が所属する会社の評価項目・基準をちゃんと理解しておくことが大切です。それを知ったうえで自身の目標を立て、そのプロセスを日々細かく記録しておくといいでしょう。
適切な評価をするために、日々のメンバーの動きを把握する方法
では次に、評価する側の立場にいるリーダー・マネジャーの方々は、リモートワーク下でどのようにメンバーを評価すればいいのでしょうか。
まず、先ほどメンバークラスの皆さんに向けてアドバイスした以下の行動を、ご自身のチームメンバーに対して促してみてはいかがでしょうか。
- 目標に対する行動のプロセスを細かく分解して報告する
- 成果が挙がっていれば、「なぜ成果を挙げられたのか」を細かく分解して報告する
- 今は成果が挙がっていなくても、「いずれこのような成果につながる」と考えて取り組んできたことを報告する
私も、リクルートでマネジャーを務めていた時期、自分が上司に対してしていたように、メンバーたちに「成果のプロセスを分解して報告して」と伝えていました。それによって、私はメンバーたちの動きや成長を把握できたのです。
さて、今後もしばらくはリモートワークが続く職場が多いと思います。
そこで来期に向けて、日々のメンバーの動きや短期スパンでの成果を把握するために、おすすめの方法をお伝えします。
私が運営するmorichで導入している、目標・プロセス共有の仕組みです。
実にシンプルで、チャットツールのメンバー全員参加のスレッドに、1日2回、全員が次の投稿をするのです。
- 朝の始業時:今日1日の達成目標。「今日はこれをやる」「時間が余ればこれもやりたい」など。なるべく「数字」で示す
- 夕方の終業時:朝の目標に対する達成状況。未達成の場合、その理由を添えることも
朝・夕いずれの投稿も2~3行でOKとしているので、書く側も読む側もほとんど負担を感じずに続けられます。
私は主にメンバーの報告を読む側ですが、大きな問題がなければ、返信はごく簡単なものです。
目標達成できておらず、本人が課題を抱えて悩んでいる場合などは、その内容に応じてメンバー全員から意見やアドバイスをもらえるよう促すか、私が1対1のスレッドでやりとりをします。
これを毎日続けていると、メンバーが今どのような心理状態にあるかも見えたりします。
もちろん、このほかに、月1回と週1回、全員でのミーティングで目標設定・振り返りを行います。そこで立てた目標をベースに、1日の目標に落とし込んでいるわけです。
先日、私の会社では新しいメンバーを迎えました。そのメンバーにも当然、朝・夕の投稿をしてもらうわけですが、入社後しばらく経ってから、こんなことを言っていました。
「前職もリモートワークで、朝一にグループチャットで『今日やること』を申告する習慣がありました。けれど、申告だけで終わり。成果について、報告義務はないし、上司から確認されることもありませんでした。
morichに入社して、夕方の報告もするようになったら、目標達成への意識が強くなり、取り組み姿勢が変わりました」
このように、ほんの2~3行であっても、1日の成果を報告する習慣があるのとないのとでは、意識の持ち方が変わる効果があると思います。そしてちょっとした変化の兆しをつかむこともできますし、メンタリティの状態も把握できるものです。
試してみてはいかがでしょうか。
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※本連載の第73回は、3月21日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。