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アリババ創業者のジャック・マー氏は2017年2月4日、オーストラリア・ニュージーランドに拠点を設立した際の記念スピーチで、グローバル化と多様性の必要性を訴えた。
当時、マー氏はトランプ大統領とアメリカでの100万人の雇用創出を約束し、中国政府とも良好な関係を築いていた。
それから5年、ウクライナ情勢が緊迫し、世界は混沌の中にある。中国政府の圧力を受け、公の場での発言をやめたマー氏は、この状況をどう思っているのだろうか。スピーチの抄訳をお届けする。
私たちのビジョンは今後20年で世界に1億の雇用を生み出し、20億の顧客にサービスを提供し、1000万の中小企業がアリババのプラットフォームによって利益を得られるよう支援することです。
グローバル化こそが正しい方向だと信じています。多くの人がグローバル化を歓迎していないことも承知しています。それでも私たちはグローバル化と貿易の進展を推し進めます。グローバル化は過去20年にわたって、6万社の大企業に支配されてきました。しかしもし、アリババが世界の(中小零細企業)600万事業者の越境ECをサポートできるなら? グローバル化は始まったばかりなのです。
グローバル化を成長痛と考えてください。そして私たちはグローバル化にもっと包容力を持たせなければいけません。創業以来18年、アリババは中小零細企業、若者、女性にフォーカスしてきました。私たちは女性の未来を信じています。小さな企業はイノベーションの中心にあり、多くの雇用を創出してきました。大企業が従業員を倍に増やすよりも小さい企業が1人、2人のポストを増やす方がずっと現実的です。また、若い人には未来があるべきです。
女性がいるから世界は多様性を増す
テクノロジーはあらゆるものにエネルギーを注入します。世界はITからDTの時代に入りました。DTといってもドナルド・トランプのことではありませんよ。データテクノロジーです。私たちは、女性こそがアリババのイノベーション能力の源泉だと信じています。アリババの社員の48%、管理職の34%が女性で、わが社の経営層には女性が少なくありません。
女性がいるから世界は多様なのです。彼女たちは男性に比べ、世界や人々に関心を向けます。男性は仕事を気にしがちですが、女性は父母、家族、子どもに気持ちを向け、仕事に対しても思いやりが深いです。
そして、私たちはグローバル化、貿易が必要だと信じています。単なる商品の売買ではありません。信用や文化のやりとりです。貿易が止まれば、世界は行き詰まります。
私たちは貿易とビジネスを通じて、世界を元気にするべきです。私たちはビジネスと信頼で世界を結ぶべきです。アリババが手掛けるのはビジネスだけでなく、信頼、友情、相互理解の橋渡しです。あなたは決して他人に取引を強要できません。貿易は信頼の基礎なくしては成り立ちません。
人類が戦うべきは貧困、環境汚染
2021年10月、オランダの花生産者と語るジャック・マー氏(右)。この1年半、公の場に出る機会は激減している。
Reuters
私は技術の信奉者です。新しい技術は良いことと悪いことをもたらします。第一次産業革命は第一次世界大戦を、第二次産業革命は第二次世界大戦をもたらしました。そして世界は今、第三次産業革命、すなわち情報技術(IT)革命のさなかにいます。
第一次産業革命は人間にエネルギー(力)を与え、機械が人間の力を上回る世界が訪れました。第二次産業革命は距離の問題を解決し、機械が人間より速く、遠くに行けるようになりました。今の産業革命は人間の頭脳の限界を解放します。あなたが望もうが望むまいが、機械は人より賢くなります。
だけど機械が人より賢くなっても、人間には「知恵」があります。もし第三次世界大戦が起きるなら、それは人類対貧困、環境汚染、病気との戦いでなければなりません。人々が手を携え共に前進してこそ、私たちはより多くの問題に対処できるのです。我々が同じ方向を向けないなら、厄介ごとはさらに手を付けられなくなります。
中国は世界第2の経済国です。中国経済は輸出から輸入にシフトしており、今は輸入大国と言っていいでしょう。中国には3億人の中間層がおり、今後10~15年のGDP成長率が4~5%で推移すれば、中間層は5億人近くに増えます。
そうするとより高品質の商品、サービスのニーズが高まります。それを全て自国で賄うのは不可能で、他国と一緒に努力しなければなりません。中国が生産拠点から内需型の経済システムにシフトしていくことは、巨大な変化を生みます。
3億人の中間層の消費能力はまだまだ低く、どうやってお金を使うか学習の段階にあります。短期的にはさまざまな問題が起きるでしょうが、5~10年後、中国はより透明でオープンな国になっていると自信を持って言えます。
老人は尊重すべき、でも機会は若者に譲れ
今後20年は、中小企業がグローバル化を進める絶好の機会になるでしょう。世界は非常に面白いです。南半球と北半球が存在することで、2つの春、2つの冬を経験できます。中小企業にとってはシーズンが2回あるようなもので、例えば水着、スキー用品のメーカーは、「オフシーズン」をなくすことができます。アリババのプラットフォームを使えば、世界中で売買ができます。南北半球の市場がシームレスに接続し、一緒にビジネスができるのです。
アリババはグローバル化の歩みを止めません。より面白い世界を創造するため、また、人々が世界の先行きを心配しなくて済むように、私はみんなが手を取り合い、一緒にビジネスをすることを望みます。
心配はいりません。若い人を、未来を信じましょう。創業以来18年間、私は他の人よりも多くの悩みや葛藤を抱えていましたし、数多くの過ちを犯しました。多くの人が私について書かれた書籍を読むようになりましたが、もし自分で書くなら「私が犯した1001の失敗」をテーマにしたいですね。自分の成功よりも、自分が乗り越えてきたミスやけがについてシェアしたいです。
私が皆さんに伝えたいこと、それは
今日は残酷、明日はもっと残酷。明後日は美しい。ただし多くの人が明日の夜死んでしまい、次の日の美しい太陽を見ることはできない。
ということです。
是非、今後30年を注視してください。1回の産業革命は50年間続きます。最初の20年は技術の進展。次の30年は技術の応用です。電気はアメリカが発明したわけではありません。自動車だってそうです。でもアメリカ人はそれを理解し、より多く使う方法を見つけました。
これからの30年間、私たちはテクノロジーを運用し、変化を受け止める必要があります。これは人類にとって素晴らしい機会です。従業員30人以下の企業には特に注目しましょう。これら小さな企業が、柔軟性を発揮して21世紀を生き抜いていくのです。それらは優れたテクノロジーと若者を活用し成長を続けます。それこそが私たちの未来です。
老人は尊重すべきですが、機会は若い人に譲りましょう。それが自分たちの機会にもなります。
(翻訳/構成・浦上早苗、ジャック・マー写真・VCG/VCG via Getty Images、連載バナー画像デザイン・星野美緒)