演説するウクライナのキスリツァ国連大使(2022年2月28日)
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ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、国連では2月28日から総会緊急特別会合が始まり、国連幹部や各国の代表らが演説した。
ウクライナの国連大使は「ウクライナが生き残らなければ、国際平和は生き残れない」と発言。戦闘で死亡したロシア兵から回収したスマートフォンに残されていた母親との会話とされるテキストメッセージを読み上げ、戦争の悲惨さを各国に訴えた。
国連総会議長「暴力を止めなければならない」
シャヒド国連総会議長
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シャヒド国連総会議長(モルディブ)は、国連憲章を引用しながら「暴力を止めなければ」と発言した。
「現在進行中の軍事攻撃は、これと矛盾している。国連憲章は武力による威嚇や行使をせず、平和的手段で紛争を解決することを定めている」
「暴力を止めなければならない。人道法と国際人道法は尊重されなければならない。そして外交と対話が優位に立たなければならない」
グテーレス事務総長「もう、うんざりだ」
国連のグテーレス事務総長
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グテーレス事務総長も「ロシアのミサイルと空爆は、昼夜を問わずウクライナの都市を襲っている」とロシアの侵攻を非難した。
「首都キーウ(ロシア語表記:キエフ)は四方八方から包囲されている。 断続的な攻撃に直面する300万人の住民は自宅、間に合わせの防空壕、地下鉄への避難を余儀なくされている」
「UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、すでに50万人のウクライナ人が国境を越えて避難しているという」
また、グテーレス氏はロシアの攻撃が一般市民への犠牲を生んでいる証言があるとも指摘。「もう十分だ」とも述べ、ウクライナでの戦闘を止めるべきだと強く訴えた。
「ロシアの攻撃は、主にウクライナの軍事施設を標的にしていると言われているが、住宅や重要な民間インフラなど非軍事的な目標が大きな被害を受けたという信頼できる証言がある」
「暴力がエスカレートし、子どもを含む民間人の死者が出ていることは、まったく容認できない」
「もう、うんざりだ。兵士は兵舎に戻る必要がある。指導者たちは、平和のために動く必要がある。一般市民は保護されなければならない。国際人道法および人権法が遵守されなければならない」
「国際的に認められた国境線内におけるウクライナの主権・独立・領土保全は、総会決議に基づき尊重されなければならない」
さらにグテーレス氏は、27日にロシアが核戦力を念頭に抑止力を特別態勢に移行したことについて、「核兵器による紛争は考えられない。核兵器の使用を正当化するものは何もない」とロシアを非難。戦争は諸問題の解決策ではないと訴えた。
「戦争は解決策ではありません。 戦争は死であり、人間の苦しみであり、無意味な破壊であり、気候危機と生物多様性の損失、パンデミックからの極めて必要な社会経済的回復、人種と性別の隔たりの回復、その他多くの21世紀の緊急課題という、人類が直面する真の課題から多大な目をそらせるものだ」
「私たちは今、平和を必要としているのです」
ウクライナ大使「ウクライナが生き残らなければ、国際平和は生き残れない」
戦闘で死亡したロシア兵から回収したスマートフォンに残されていたメッセージ会話のスクリーンショットとされるものを掲げるウクライナのキスリツァ国連大使(2022年2月28日)
REUTERS/Carlo Allegri
ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は、「国連が設立されて以来初となる本格的な戦争が、ヨーロッパの中心で展開された」と発言。これまでに16人の子どもを含む352人のウクライナ人が死亡し、2000人以上が負傷していると報告した。
キスリツァ氏は世界中の誰もが、ロシアとベラルーシが「侵略」を始めたことを知っていると非難。
「ウクライナが生き残らなければ、国際平和は生き残れない」「ウクライナが生き残れなければ、国連も生き残れない。 ウクライナが生き残らなければ、次に民主主義が敗れても不思議はない」と危機を訴えた。
キスリツァ氏は核兵器をちらつかせるロシアのプーチン大統領の行動を「狂気」と呼び、自殺を望むのなら核など用いず「地下壕の男(ヒトラーの暗喩)」のように自ら命を絶てと激しく非難した。
またキスリツァ氏は、戦闘で死亡したロシア兵から回収したスマートフォンに残されていたとする、兵士と母親の会話とされるテキストを読み上げた。
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母:どうしてこんなに返事が来ないの?本当に訓練中なの?
兵士:ママ、私はもうクリミアにいないんだ。訓練じゃないんだ。
母:それなら、どこにいるの?お父さんが小包を送れるかどうか聞いているの。
兵士:ママはどんな小包を送ってくれるの?僕は今すぐにでも首を吊りたいんだ。
母:何を言ってるの? 何があったの?
兵士:ママ、私は今ウクライナにいるんだ。ここでは本当に戦争が起きているんだ。怖いよ。
私たちはすべての都市を同時に爆撃しているんだ。民間人さえも標的にしている。
彼らは私たちを歓迎すると聞いていたけど、装甲車の下に倒れ込み、車輪の下に身を投げ出して、通さないようにするんだ。
彼らは私たちをファシストと呼んでいる。とてもつらいよ。
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ただ、キスリツァ氏はこのメッセージを残したとするロシア兵が死亡した状況など、詳細については明らかにしなかった。ロシアのネベンジャ国連大使は「つくられたものだ」と、虚偽だとして批判した。
このメッセージが実際に「戦死したロシア兵と母との会話メッセージ」かBusiness Insiderは独自に検証できていない。
ロシア大使はプーチン大統領と同じ主張を展開、侵攻を正当化
演説するロシアのネベンジャ国連大使(2022年2月28日)
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これに対しロシアのネベンジャ国連大使は通訳を介し、ロシアの行動が「ねじ曲げられ、妨害されている」と述べ、メディアやSNSが「嘘」を広めていると主張した。キスリツァ氏が読み上げたロシア兵のものとされるメッセージも「虚偽だ」と否定した。
さらに、ネベンジャ氏はロシアが「特殊軍事作戦」と呼ぶ侵攻はウクライナが招いたと主張。
ウクライナ東部でロシアを後ろ盾とする武装勢力が実効支配する地域で「8年間、ウクライナ政府の拷問と大量虐殺にさらされてきた※」とプーチン大統領と同じ主張を展開し、「ウクライナの非軍事化・非ナチス化が必要」と侵攻を正当化する主張を列挙した。
ウクライナ侵攻をめぐっては25日、80カ国がロシアへの避難と即時撤退を求める決議案を国連安保理に共同提案していたが、投票は賛成11、反対1、棄権3。ロシアが拒否権を行使し、国連安保理が行動できず、今回の総会緊急特別会合に至ったという経緯がある。
総会緊急特別会合は数日間続き、各国の代表が演説し、総会としての決議がなされる見通しだ。
「国連総会緊急特別会合」とは
Twitter/@UN
国連総会緊急特別会合とは、「国際平和への脅威・平和の破壊および侵略行為」が存在すると思われるにも関わらず、国連安全保障理事会(安保理)が常任理事国の5大国の拒否権の行使によって機能しない場合、安保理に代わって行動するために国連総会が開く会合だ。
開催には「国際社会の平和と安全の維持」が困難になったとき、安保理の決議による要請か国連加盟国の半数の要請が必要。
ただし、緊急特別会合の要請手続きに関する採決では、安保理常任理事国の5大国も拒否権を行使できない。
この手続きを定めた総会決議は「平和のための結集」決議と呼ばれ、1950年11月に採択された。
当時は旧ソ連が北朝鮮を援護するため安保理で拒否権を多数発動。安保理が機能不全に陥ったことが背景にあった。
初の総会緊急特別会合は、第二次中東戦争(スエズ戦争、1956〜57)のときで、国連PKO(平和維持活動)である第一次国連緊急軍(UNEF 1)が初めて作られた。
「平和の破壊あるいは侵略行為」が発生した場合には「国際の平和と安全を維持または回復するために必要」とみなせば、総会は2/3の多数決で武力行使も含む集団安全保障措置を加盟国に勧告することも可能だ。ただ、安保理決議と違い総会決議に法的拘束力はない。あくまで国連としての意思を示す意味合いが強い。
安保理の要請による総会緊急特別会合は、1982年のイスラエルによる「レバノン侵攻」以来となる。
※ウクライナの首都はウクライナ語読み「キーウ」(ロシア語読み:キエフ)」と表記します。
(文・吉川慧)