メタのマーク・ザッカーバーグ。
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アップル、メタ(旧フェイスブック)、グーグル、アマゾン、マイクロソフトの力が増すにつれ、彼らに対する政治的な監視の目は厳しくなっている。
大手テック企業は、政治家に働きかけ、影響力を行使するためのロビイスト集団を少人数ながら雇っている。アメリカ国内や海外の政治家が、巨大テック企業の独占的な行動を阻止し、買収を抑制し、ユーザーの選択肢を保護しようと新しい法律を導入するのに対抗するためだ。
2022年には「 American Innovation and Choice Online Act(米国イノベーション・選択オンライン法案)」が成立する見通しだ。これは、大手テック企業のプラットフォームの力を抑制することを目的としたもので、テック企業が自社の製品やサービスを優遇したり、ライバル企業に不利益を与えるのを防ぐための法律だ。
EUも同様に、アプリストアの力を軽減させ、違法コンテンツの取り締まりを目的とする「Digital Markets Act(デジタル市場法)」と「Digital Services Act(デジタルサービス法)」という2つの重要な法律を成立させる見通しだ。
テックジャイアント各社は、政治的にも注目を浴びている。
アマゾンは、自社のマーケットプレイスで売れている販売者の商品データをコピーし、自社ブランド商品としてインドで販売していると報じられ、批判を浴びた。一方メタは、ティーンエイジャーがInstagramを使うことで自信を失うと言われている問題に関して専門家に調査を依頼していたことをウォール・ストリート・ジャーナルに報じられている。メタは若者ユーザーの安全政策を堅持していると守りの姿勢だ。
またイギリスでは、「テック企業が憎しみを増幅している」と非難する政治家たちに対し、ロビイストたちが自社の政策について定期的な説明を繰り広げている。
このように政治的な熱気が高まる中、ロビイストたちは、時には「人間の盾」となって働くことになる。しかし、そんな彼らは一体どれだけの報酬を得ているのだろうか。
Insiderは、政治の中心に働きかける大手テック企業の担当者たちがどれだけの報酬を得ているのかを調べるため、メタ、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップルがアメリカ政府に提出を義務づけられている、ビザを保有する従業員のデータを入手し分析した。
このデータは、2021年までの従業員の基本給をカバーしているが、ボーナスや株式報酬は含まれていない。また、対象となるのは海外からアメリカでの就職を希望する人のみで、すべての従業員の報酬を示しているわけではない。しかし、テック企業がどれくらいの給与を支払う意思があるのかが垣間見える。
以下は、政府渉外、政策担当役員、政策プログラム・マネジャー、参事官、広報担当者などの役職だ。これらの役職のすべての人が法案に直接影響を与えるわけではないが、政策活動を行うことで、法案に一定の関与はあるといえる。
メタのグローバル・セーフティ・ポリシー・ディレクターは3200万円以上の報酬
ソーシャルメディアと有害コンテンツの規制について政治家と議論した後、自社のグローバルポリシー・コミュニケーション担当のニック・クレッグと共にダブリンのメリオン・ホテルを後にするメタのマーク・ザッカーバーグCEO。
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政治家たちは、テック企業が国家並みの力を持ち得ることを示す例として、何年も前からメタに注目している。
2022年2月に上院に提出された「子どもオンライン安全法案」は、メタのSNSプラットフォームが10代の若者に有害であることが明らかになったことで、特に同社をターゲットにしている。イギリスでも同様の法案が審議中で、「有害な」オンラインコンテンツの削除を怠った場合、企業の幹部が懲役刑になるという条項が含まれている。
メタの開示書類によると、メタは2021年、アメリカ国内だけで、ロビー活動に過去最高の2000万ドル(約23億円、1ドル=115円換算)を使った。
2021年、一部の幹部が提示された給与額は次の通りだ。
- グローバル安全政策担当ディレクター:26万7300~27万9839ドル(約3070万〜3200万円)
- 公共政策ディレクター:26万1874ドル
- グローバルソリューションパートナー:18万6139~20万5870ドル
- 政策プログラムマネジャー:15万7251〜19万3050ドル
- 技術政策研究員:16万7000ドル
- WhatsAppの公共政策マネージャー:15万4000ドル
- WhatsAppプライバシー・コンプライアンス・プログラムマネージャー:13万ドル
- 政策立案・調整:12万5730ドル
- 政府・政策・アドボカシーGPAパートナーマネージャー:11万5400ドル
グーグルは政策アドバイザーに2200万円を支払った
2016年、カリフォルニアで開催されたグーグルのイベントで講演するサンダー・ピチャイCEO。
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最近の情報開示によると、グーグルは2021年に国内でのロビイストに1000万ドル(約11億5000万円)近くを支払った。
同社は、米国イノベーション・選択オンライン法に反対するなど、議会で大きく働きかけている。グーグルのロビイストたちは、この法案によって消費者に提供するグーグル検索とグーグルマップの質が低下してしまうと主張している。
2021年に同社が一部の政策担当者に提示した金額は以下の通りだ。
- 政策アドバイザー:19万2000ドル(約2200万円)
- 政府業務・公共政策マネージャー:16万5000ドル
- 政策スペシャリスト:12万8000〜16万4000ドル
- 信頼と安全に関するストラテジスト:12万ドル
- 法務業務アソシエイト:10万6017ドル
アップルのグローバルセキュリティマネジャーの基本給は2600万円
アップルのティム・クックCEO。
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アップルは、同社のApp Storeの力が制限されるような規制強化策に直面している。上院の委員会は2022年3月初め、デジタルアプリから徴収する手数料を制限する法案を提出した。EUはアップルに対し、自社のアプリ内決済の仕組みと並行して、第三者がApp Storeでの決済手段を提供できるようにすることも求めている。
これとは別に、カリフォルニア州やイリノイ州など8人の民主党の州財務長官が2022年3月、米証券取引委員会に書簡を送り、アップルがハラスメントの苦情を黙らせるために雇用契約に隠蔽条項を使用し、投資家を欺いたかどうかについて調査を行うよう要請している。
同社は2021年のロビー活動費として650万ドル(約7億4700万円)を計上している。
アップルのセキュリティとPRの役職の2021年の給与の一例は以下の通りだ。
- グローバルセキュリティマネジャー:22万2905ドル(約2600万円)
- PRマネージャー:17万4000〜17万9220ドル
- グローバルコンプライアンスアナリスト:13万0000ドル
アマゾンの広報スペシャリストは基本給が730万円という人も
2021年の国連環境サミットCOP26で講演するアマゾンのジェフ・べソス。
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メタと並び、2021年に最も多くのロビー活動資金を使ったのがアマゾンとその子会社だ。アマゾンは今年、ジェネリック薬品の広告をめぐり独禁法監視委員会からと、組合を作ろうとする労働者の扱いをめぐって連邦政府の労働関係の委員会から、それぞれ批判を受けている。
また、Alexaを搭載したデバイスが機密情報を広範囲に収集していることから、ユーザーデータの取り扱いについても厳しい目が向けられている。アマゾンは、他の大手テック企業と同様に、イノベーションとアメリカの競争力を阻害すると主張する米国イノベーション・選択オンライン法案に反対するロビー活動を展開している。
以下は、アマゾンがいくつかの政策関連の職種に対して提示した報酬額だ。
- 法律顧問III:10万5747〜27万3000ドル(約1200万〜3100万円)
- プリンシパル・リーガル・カウンセル: 13万8486〜16万ドル
- 法律顧問II:10万5747〜15万5000ドル
- 客員学者:9万3240〜15万3840ドル
- PRスペシャリストII:6万3378ドル(約730万円)
マイクロソフトの法律顧問は約2800万円の収入を得た
マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
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マイクロソフトは、1990年代後半に独占禁止法違反の訴訟で数多く戦って以来、「ビッグ4(グーグル、アマゾン、メタ、アップル)」に比べ政策面では比較的目立たない存在だった。2022年1月に発表されたゲーム会社、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収によって、マイクロソフトにはさらに厳しい監視の目が向けられるかもしれないが、それでも議会では比較的好意的に受け止められているようだ。
マイクロソフトは、首都ワシントンでは相当な存在感を示している。2021年の連邦政府のロビー活動に関する情報開示では、1010万ドル(約11.6億円)の支出が記録されている。
以下は、マイクロソフトが政策担当者に支払っている金額である。
- 法律顧問:18万5000〜24万1760ドル(約2100万〜2800万円)
- 広報担当者:13万4000ドル
(翻訳、編集・大門小百合)