食用コオロギのニーズ急増に対応し、グリラスは生産能力を約6倍に増強する。
撮影:湯田陽子
食用コオロギ生産量で国内トップの徳島大学発ベンチャー、グリラスが2月28日、約2億9000万円を調達したと発表した。
出資者には、既存株主のBeyond Next Ventures(ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ)、HOXIN(ホクシン)、産学連携キャピタルなどに加え、新たに、いよぎんキャピタル、近鉄ベンチャーパートナーズ、食の未来ファンド、地域とトモニファンドが加わった。2020年12月のシリーズAラウンドで調達した2億3000万円と合わせ、累計調達額は約5億2000万円。公開情報ベースの昆虫食関連企業の資金調達額としては、国内最大の規模だという。
ここ1〜2年で食用コオロギのニーズが高まり、生産が追いついていないことから、今回の資金を活用し、2023年末までに生産能力を約6倍に増強。ほかに、品種改良やPR、採用にも充てていく。
注目集める食用コオロギ
無印良品の「コオロギせんべい」と「コオロギチョコ」には、グリラスが開発・生産したコオロギパウダーが使われている。
撮影:湯田陽子
無印良品が2020年に「昆虫食」第1弾として発売し、話題になった「コオロギせんべい」。これは、グリラスが開発・生産した食用コオロギパウダーを練り込んだ、良品計画とグリラスの共同開発商品だ。
昆虫は、食料危機を解決する有力な「タンパク質源」と言われている。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量や飼育に必要な水・餌の量が、ウシやブタ、ニワトリと比べて格段に少ないという点で、気候変動対策やSDGsの観点からも期待されている。
2018年、欧州連合(EU)が食用昆虫を食品として承認。これを機に、ベンチャーの参入が活発化するなどサプライヤーが増加しており、2025年には世界の昆虫食市場が1000億円規模になるとも予測されている。
なかでも注目を集めている昆虫が、大量生産が可能で味が良いとされるコオロギだ。
グリラスは、徳島大学でコオロギの食用化を研究していた渡邉崇人助教(当時、現CEO)が2019年に創業。良品計画との共同開発に着手したのが創業直前だったこともあり、発売当時は徳島大学との協業という形で発表されていた。
生産体制を約6倍に増強
コオロギせんべいに続き、グリラスは2021年6月、初の自社ブランド商品としてクッキーとクランチチョコを発売。ECサイトを立ち上げ販売を開始した。
同年9月には同じく自社ブランドの冷凍パン、レトルトカレー、12月には無印良品の昆虫食第2弾「コオロギチョコ」など、協業・自社ブランドを問わず、相次いで商品を市場に投入してきた。
現在、年間10トンを超えるコオロギパウダー原料の生産体制で対応しているが、売り上げの伸びに対して生産が追いつかない状況が続いているという。
このため、今回の調達資金を活用し、生産拠点兼加工所の美馬ファーム(徳島県美馬市)に加え、新たに自社ファームを立ち上げ、2023年末までに現在の約6倍となる年間60トンの生産体制を整える。
グリラスの自社ブランド「シートリア」のクッキー(左)とクランチ(右)。
撮影:湯田陽子
グリラスが現在、徳島県美馬市内に所有する美馬ファーム、コオロギの品種改良を進める研究拠点・美馬研究所は、いずれも廃校を活用した施設だ。
コオロギの生産に関しても、廃棄された農作物や食品加工時に出た残渣(さ)を餌に使う。食品ロスをできるだけ出さない仕組みにも力を入れるグリラスらしい、アップサイクル(廃棄物や不要品に手を加えてモノの価値を高めること)型の取り組みと言える。
ただ、新設するファームについては、生産能力の大幅増強に適した施設かどうかなど、さまざまな条件を踏まえて選定するため、アップサイクル型になるかどうかは未定だという。
Business Insider Japanの取材に対し、グリラス広報の川原琢聖氏はこう話す。
「目下、徳島県内にある複数の候補を比較検討しているところです。自社ファームだけでなく、生産パートナーさんとの協力も含めて、年間60トンのコオロギパウダーを生産する体制を整えていきます」(川原氏)
コオロギの品種改良を加速
グリラスの大きな特徴は、革新的なテクノロジーを積極的に取り入れていることだ。
コオロギ飼育における省人化と省コスト化に向け、2021年から新たな飼育システムの開発に着手。さらに、今回の調達資金を活用し、2023年内に高生産性コオロギの開発、アレルゲンの少ない品種の販売を目指す。
ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ主催の第4回Agri/Food Tech Startup Showcase 2021より(2021年9月開催)。グリラスが同社の特徴やビジョンについて解説。
Beyond Next Ventures Official YouTube Site
高生産性コオロギとひと口に言っても、早く育つ、大きく育つ、多く育つ、安く育つなど、さまざまな側面がある。グリラスでは現在、複数の研究を同時並行で進めており、目標とする「高生産性」化のメドは立っているという。
低アレルゲン化についても2023年内の実現が見えていると、川原氏は言う。
「コオロギをはじめとする昆虫は甲殻類に似たアレルギーを引き起こす可能性があり、食用コオロギ普及の課題にもなっています。ただ、アレルゲンを減らす手法はすでにメドが立っているので、その開発を加速させていく予定です」(川原氏)
急増する世界の人口や新興国の経済発展により、ウシやブタ、ニワトリといった既存の家畜ではタンパク質源をまかない切れない「タンパク質危機」が、2025〜2030年頃に起こると言われている。
2022年1月にグリラスが実施した食と環境・昆虫食に関する調査によると、このタンパク質危機について、「知っており、内容も理解している」と回答した人が11.4%と低いことが明らかになった。
「調査の結果、日本ではまだ、タンパク質危機という基礎的な社会課題に対する認知度が低いことが分かりました。この状況を変えていくような広報やPR、マーケティングにも力を入れていきます」(川原氏)
(文・湯田陽子)