ロシアがウクライナに侵攻した後、金の価格が一時1オンス当たり2000ドル近くまで高騰した。
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ロシアがウクライナに侵攻した後、株式や債券の相場が悪化し、ビットコインも乱高下した。2月末、金は約8カ月ぶりに1オンス当たり1900ドル(約21万8000円、1ドル=115円換算)を超えた。
投資家は危機の際に「安全資産」として金を購入する傾向がある。強気の予測をする市場関係者は、ウクライナでの戦争が続けば、金の価格は2000ドル(約23万円)を超える可能性があるという。
「最近のロシアとの緊張の高まりは、エネルギー価格の上昇により、あらゆる経済分野に明らかにスタグフレーション(不況下で進行する物価上昇)リスクを生み出しています。それが、今後数カ月にわたり、金の価格が上昇すると見る理由です」
これは、シニアコモディティストラテジストのダミアン・クルバリン(Damian Courvalin)率いるゴールドマン・サックスのチームが発表した最近の調査レポートの予測だ。彼らは金の中期的な価格目標を1オンス当たり2150ドル(約24万7000円)に設定している。
しかし、コモディティ分析サイトDailyFX.comのストラテジストたちは、金は「ウクライナ情勢で市場のボラティリティが増した場合にのみ、値上がりを続けるだろう」と警告する。
DailyFX.comのクリストファー・ベッキオ(Christopher Vecchio)は2月28日の調査レポートで、「金価格の動向は、ここから先は明らかだ。第3次世界大戦になるか破綻するかだ」と述べ、「NATOがロシア・ウクライナ紛争に巻き込まれない限り、金の価格はすでに2022年の最高値を記録したと考えるべきだ」という。
デンマークのオンライン銀行、サクソバンクによると、ロシア中央銀行は世界第2位の金の保有量を誇り、保有高は1400億ドル(約16.1兆円)、銀行全体の資産の23%を占めているという。サクソバンクのコモディティ戦略の担当者は、ウクライナ侵攻でルーブルが過去最低に下落した後、ロシアは自国通貨を支えるため、金の一部を売却する可能性があると指摘する。
「彼らが金を売り始めない理由はいくつかありますが、そうはならないリスクも常に市場に存在しているのです」とオーレ・ハンセン(Ole Hansen)はサクソ・マーケット・コール(Saxo Market Call)というポッドキャスト番組で語った。「仮にロシアが流動性という意味で本当に窮地に追い込まれたら、金を売るのも一つの方法になると思います」
Insiderでは現状を踏まえ、インフレ率と金利という、2022年の金相場に影響する2つの要因についても分析した。
インフレ率
アメリカの消費者物価指数は先月7.5%と40年ぶりの高水準に達し、ロシアのウクライナ侵攻により、コモディティ価格はさらに上昇した。原油は2月24日、2014年末以来の1バレル100ドル(約1万1500円)を突破した。
金は「価値貯蔵の手段」として機能する実物資産であるため、インフレに対するヘッジとみなされることが多い。
「ロシア・ウクライナ危機が意味するものは、(金が)短期的な安全資産として買われる可能性があるというだけではない。より重要なのは、今回の危機がインフレ率の上昇を引き起こすということだ。このことからも、今回の危機は貴金属価格の上昇見通しを引き続き支えることになるだろう」とハンセンは最近の調査レポートで指摘する。
仮想通貨に強気な市場関係者は以前、インフレになれば、ビットコインが「価値貯蔵の手段」として金を抜くと主張してきた。しかしロシアの侵攻の後、「デジタル・ゴールド(訳注:金などの貴金属と同じように、地政学的、経済的混乱の際でも価値を維持できるという考え方から仮想通貨をそう呼ぶ)」と言われるビットコインは、過去1カ月の最安値である3万5000ドル(約400万円)を下回る価格に落ち込んだ。
ゴールドマン・サックスのストラテジストたちは1月26日の調査リポートで、金はビットコインよりも安全なインフレヘッジであると主張する。
「金はリスクオフ(相対的に安全と思われる資産への資金移動)のインフレヘッジだが、ビットコインはリスクオン(リスクの高い資産への資金移動)のインフレヘッジ」と副社長のミハイル・スプロギス(Mikhail Sprogis)率いるチームは言う。
「ビットコインのボラティリティは低くなる気配がなく、仮想通貨は昨年のリスク調整ベースでも、他の資産に比べてパフォーマンスがよくありません。仮想通貨が防衛的な資産投資の流れの中で、金やドルと競い合うようになるにはまだ時間がかかるでしょう」
金利
2022年、FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする世界の中央銀行は、利上げに踏み切ると予想されている(訳注:FRBのパウエル議長は3月2日、事実上のゼロ金利政策を解除する方針を表明した)。利上げでインフレ率は低下するが、金の長期的な価格にも打撃を与える可能性がある。
一部のアナリストは、金利の上昇が、高利回りの資産との競争を激化させるため、金の価格を抑制することになると考えている。
「G7諸国の成長が鈍化し、中央銀行がタカ派的(訳注:金融引き締めに動く傾向)になっている経済環境では、金の価格が大きく上昇し続けることにはならないでしょう」とDailyFX.comのベッキオは言う。
しかし、セントルイス連邦準備銀行によると、1970年以降の金利と金の相関関係は低い。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻は、低迷する株式市場を支えるためにFRBをよりハト派的で、金融緩和の方向に動かす可能性がある。
「多くの投資家の予想に反して、最近の米国実質金利の上昇の間、金はかなりの強さを保っています」とスプロギスらは言う。「これは、金がインフレヘッジと防衛資産の両方の役割を担っているためだと我々は考えています」
(翻訳、編集・大門小百合)