南極のコマンダンテ・フェラス基地の外で夕暮れ時に撮影されたヒゲペンギン。
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- 地球の気温が4度上昇すると、動植物の種の半分が絶滅の危機に瀕する可能性がある。
- IPCCの新しい報告書は、ホッキョクグマやペンギンなどの動物の大量絶滅を警告している。
- 地球の気温が1.5度上昇した場合、陸上種の最大14%が絶滅のリスクに直面する可能性がある。
何百もの種が猛暑や海洋の温暖化により絶滅したが、地球上の動物の絶滅で気候変動と直接関係しているものはほとんどない。
2009年、グレートバリアリーフの海面上昇と高潮が重なり、ネズミの一種、ブランブルケイメロミスが姿を消した。その7年後、この種は人間が引き起こした気候変動によって絶滅した最初の哺乳類となった。
地球の気温が上昇し続ければ、今後数十年の間に気候に関連した絶滅がさらに数多く発生することが予想される。これは地球温暖化についての研究をまとめる国連の「気候変動に関する政府間パネル (IPCC)」が2022年2月28日に発表した報告書によるものだ
もし地球の気温が産業革命以前の水準より4度上昇した場合(これは温室効果ガスの排出量が非常に多いことを想定したシナリオだ)、植物と動物の種の半分が脅かされる可能性があるという。このレベルの温暖化が起こると、熱帯雨林、藻場、サンゴ礁を永久に変えてしまう大量死や絶滅が起こる可能性がある。
報告書によると、地球の気温上昇が1.5度だった場合は陸上種の最大14%が絶滅の危機に直面する可能性があるという。2021年に発表されたIPCCの報告書によれば、人類の温室効果ガス排出が原因で、地球は過去170年間ですでに1.1度も温暖化していることが分かっている。気温が2度上昇すれば、陸上種の最大18%が絶滅の危機にさらされる可能性があり、そのリスクは、3度で最大29%、4度で最大39%、5度では最大48%に上昇する。
2020年10月29日、カリフォルニア州ライトウッドのリトル・ロック川で火災に遭い、保護された絶滅危惧種のヤマキアシガエル。
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報告書によると、無脊椎動物は中程度の温暖化(3.2度)で最も高い絶滅リスクに直面するという。このシナリオでは、無脊椎動物の15%が絶滅する可能性がある。
地球の気温上昇が何度だったとしても、種の絶滅は気候変動がもたらす取り返しのつかない影響だと報告書は述べている。
アザラシやホッキョクグマは絶滅の危機に瀕している
北極海の流氷にいるホッキョクグマ。
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高山や極地などの寒冷地に生息する種は、特に高い絶滅リスクに直面している。
報告書によるとアザラシやホッキョクグマなどの北極圏の動物は、2度以下の温暖化でも深刻な脅威にさらされるという。これらの動物たちは海氷の上で生活するように進化してきたが、海氷は気温の上昇により急速に縮小している。報告書は今後100年以内に夏場の海氷は完全に消滅してしまうと予測している。
これは北極圏の動物の中には新しい住処に移動しないと今後数十年のうちに絶滅してしまうものがいることを意味している。
しかし動物を生息地の外に移動させるのは難しい。例えば、ホッキョクグマを南極に移動させると、南極に生息するペンギンを捕食してしまう可能性がある。場合によっては絶滅を防ぐために動物園で保護しなければいけないこともあるかもしれない。
熱帯地域では、熱波によってサンゴ礁やマングローブの森が滅ぼされる脅威に直面している。報告書によると、1.5度の温暖化で21世紀半ばまでに熱帯地域のサンゴ礁の最大90%が失われ、2度の温暖化でサンゴ礁が完全に絶滅する可能性があるという。
動物の絶滅は人間の生活を脅かす可能性もある
2017年5月5日、セーシェル共和国のビクトリア港の市場で魚を買う男性。
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動物種の絶滅は、場合によっては生態系全体を崩壊させる可能性がある。
生態系は、汚染や異常気象、気温の変化から逃れるために、植物や動物その他の生物からなる生物の多様性に依存している。そのため、ある種が絶滅すると、他の種が生き残るのが難しくなる。報告書によると、生物多様性の損失は作物の不作や水不足を招く可能性があるという。そして、たった0.5度の温暖化が、ある種が生き残れるかどうかの分かれ目になる。
IPCCの報告書の著者らは、生物多様性が脅かされている地域の種の絶滅の危険性は、温暖化が1.5度から2度になれば2倍になり、1.5度から3度になれば少なくとも10倍になる可能性があることを明らかにした。
アフリカとアジアでは、4億人以上がタンパク質を漁業に依存している。たとえ気温の上昇が1.6度を超えなくても、地元の海の魚の絶滅により、アフリカの熱帯地域の漁業は21世紀末までに収穫量の最大41%を失う可能性がある。
イワシやニシンなどの一般的に消費される魚も、海が温暖化すると絶滅する可能性がある。
「これは人間の幸福にとっても重要なことだ」 と、この報告書の主執筆者で国際環境開発研究所 (IIED)で人間居住計画部門のディレクターを務めるデビッド・ドッドマン (David Dodman)はInsiderに語った。
「世界中の多くの人々が、食糧を得て、生計を立てるために、自然の生態系との非常に密接な相互作用に依存しているのが現状だ」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)