2022年の株価低迷を事前に予測していた米金融大手モルガン・スタンレーは、ロシアのウクライナ軍事侵攻で世界の市場環境がますます厳しくなるなか、高いパフォーマンスを発揮する厳選銘柄を顧客向けに推奨している。
REUTERS/Brendan McDermid
米金融大手モルガン・スタンレー米国株チーフストラテジスト兼最高投資責任者(CIO)のマイケル・ウィルソンは2021年末、3年連続で好調を維持した株式市場がついに下落するとのきわめて大胆な予測を発表。S&P500種株価指数の2022年末目標を、他の金融大手の予測値に比べて圧倒的に低い「4400」としている。
2022年はまだ始まって2カ月少々だが、現時点で言えば、ウィルソンの予測は的中ということになる。2月末のS&P500種株価指数は「4374」だった。
ウィルソンは(昨年末に予測した)2022年末目標だけでなく、新年早々にも新たに予測を的中させている。
1月前半に大幅下落を記録した株式市場が、月末には早くも持ちなおすとの(同業他社の)予測について、ウィルソンは疑わしいとの見方を提示していた。
案の定、S&P500種株価指数は年明け1月3日につけた史上最高値を更新するどころか、同27日に1月の最安値を記録する結果となった。翌2月には、1月の最安値を一時下回っている。
【図表1】ロシアのウクライナ軍事侵攻は2022年2月、S&P500種株価指数に1月最安値を下回るインパクトをもたらした。
Morgan Stanley
ウィルソンは最近の顧客向けレポート(2月28日付)で、投資家はいま、ロシアとウクライナの紛争激化、金利上昇に伴う(将来得られる利益の現在価値の低下による)株価バリュエーションの縮小、モルガン・スタンレー分析に見られるような企業収益の伸びの鈍化など、通常より相当に複雑な市場環境に直面していると指摘する。
ロシアは数カ月前からウクライナ侵攻の気配を見せていたものの、プーチン政権が本当にそれを決断したときには、同国の議員たちもさすがに衝撃を隠せなかった。
ウィルソンはロシアの軍事侵攻こそ予想していなかったものの、それ以外に株式市場をおびやかす2つのリスクを数カ月前には見抜いていた。
ウィルソンは2021年秋の顧客向けレポート(9月20日付)で、米連邦準備制度理事会(FRB)が経済状況の急回復を受けてコロナ復興のための景気刺激策を迅速に終了せねばならなくなる「火」のシナリオと、企業業績の伸びが予想より早く鈍化する「氷」のシナリオを挙げている。
半年後、「火」のシナリオが現実のものとなった。
インフレ率は40年ぶりの高水準に達し、FRBは利上げを急ぐタカ派に転換、S&P500種株価指数はウィルソンの予測通り10%低下して調整局面入りした。
金利上昇の見通しを受けて株価バリュエーションは縮小したが、経済成長の鈍化が今後も続けばバリュエーションはさらに縮小する可能性もあるとウィルソンは指摘する【図表2】。
【図表2】米国株バリュエーション(S&P500種の予想株価収益率)の推移。
Morgan Stanley
一方、企業収益の伸びの鈍化を軸とする「氷」のシナリオについては、ウィルソンは必ずしもそうした展開になるとは限らないとしている。
ウィルソンによれば、モルガン・スタンレーの顧客の一部はこのシナリオをあり得ないと考えているものの、企業の業績ガイダンス(予想)が圧倒的にネガティブ(下向き)に偏っていることを踏まえ、同社は企業収益の伸びが予想より早く鈍化するとの予測を堅持している【図表3】。
【図表3】ポジティブ(上向き)業績ガイダンスに対するネガティブガイダンスの比率の推移。2021年第4四半期(10〜12月)から急上昇中。
Morgan Stanley
「予想される需要(資金回収)および/あるいは利益の不足により、ここ2四半期(2021年10〜12月、2022年1〜3月)の業績ガイダンスにおいて、ポジティブ(上向き)に対するネガティブの比率が急上昇しており、収益成長の予想水準が高すぎるように見え始めています」
「火」と「氷」のシナリオがいずれも現実のものになるとすれば、モルガン・スタンレーが悲観的になるのも無理はない。
「バリュエーションの割高感が残ったまま、業績低下リスクが高まっている状況です。2月末には(空売り投資家のショートカバーなど)戦術的な株価上昇が見られたものの、FRBが本格的な金融引き締めに着手し、企業の収益悪化が顕在化してくる3月にはその勢いも失われるでしょう」(マイケル・ウィルソン)
リスク上昇時に投資すべき銘柄
モルガン・スタンレーの見方は悲観的に過ぎるのかもしれない。ただ、それは同社のストラテジストが「永遠の弱気派」ばかりということではない。
ウィルソンらはあくまで、株式市場を取り巻く環境がますます厳しくなるなかで、投資家は選択をより慎重に行うべきと考えているにすぎない。
「世界がますます困難な状況に向かうなか、どこの市場も企業の成長実現性とキャッシュフロー総出力により高い関心を寄せるようになっています。コロナ回復期の急激な需要の反動やコストの上昇などさまざまな要因から、2022年の収益予想達成は企業にとってほとんどの投資家が考える以上に難しいでしょう
市場はいま、厳しさを増す経営環境下でも好業績を実現できる可能性がより高い企業に資金を集中させています。将来の成長性や景気動向に左右されない安定感ではなく、より多くの利益を生み出す経営効率こそが重視されているのです」
なお、モルガン・スタンレーは「経営効率」を、(売上高)設備投資率、売上高在庫比率、従業員離職率の3指標から定義している。
これらの指標が低く抑えられている企業は、商品在庫を物理的資産に過剰投資することなく売上高を増やし、従業員の勤労意欲を高く維持できる。
【図表4】経営効率の高い企業銘柄のパフォーマンス(左)と低い銘柄のパフォーマンスの対比。赤枠部分のように明暗が分かれている。
Morgan Stanley
上の【図表4】に示したように、2021年後半以降、(上記で定義される)経営効率の高い企業はアウトパフォーム(=ベンチマークを上回る株価パフォーマンス)し、低い企業は劣後しているとウィルソンは指摘する。
また、営業利益率の低い企業の株価も同時期にアンダーパフォーム(=ベンチマークを下回るパフォーマンス)しており、それは取りも直さず、粗原材料や労賃が上昇するなかで効率的なコストマネジメントに成功している企業を投資家が評価し始めていることを意味する【図表5】。
【図表5】営業利益率の低い企業銘柄(左)と高い銘柄の対比。やはり明暗が分かれている。
Morgan Stanley
モルガン・スタンレーの顧客向けレポートには、経営効率が高く、なおかつ同社が「オーバーウェイト(強気)」の投資判断をつけている47銘柄リストが掲載されている。
うち13銘柄は時価総額100億ドル(約1兆1500億円)未満で、日本でも広く知られている企業の例としては、スポーツアパレルのアンダーアーマーが挙げられる。
それ以外の大型株34銘柄については、以下で時価総額(2月25日時点)、セクター、業種とともに紹介しよう。
なお、ウェルズ・ファーゴ、ウーバー、イートン、コルテバの4銘柄は、モルガン・スタンレーのアナリストによる「トップピック」(=厳選した有望銘柄)として特筆されている。
1.コカ・コーラ(Coca-Cola)
時価総額:2635億ドル
セクター:生活必需品
業界:食料・飲料・タバコ
2.ウォルト・ディズニー(Walt Disney)
時価総額:2603億ドル
セクター:通信サービス
業界:メディア・エンターテインメント
3.シェブロン(Chevron)
時価総額:2532億ドル
セクター:エネルギー
業界:エネルギー
4.ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)
時価総額:2091億ドル
セクター:金融
業界:銀行
5.クアルコム(Qualcomm)
時価総額:1969億ドル
セクター:情報テクノロジー
業界:半導体・半導体装置
6.フィリップ・モリス(Philip Morris)
時価総額:1601億ドル
セクター:生活必需品
業界:食料・飲料・タバコ
7.ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)
時価総額:726億ドル
セクター:工業
業界:輸送
8.ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)
時価総額:724億ドル
セクター:ヘルスケア
業界:ヘルスケア機器・サービス
9.エドワーズ・ライフサイエンス(Edwards Lifesciences)
時価総額:682億ドル
セクター:ヘルスケア
業界:ヘルスケア機器・サービス
10.イートン(Eaton)
時価総額:632億ドル
セクター:工業
業界:資本財
11.ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)
時価総額:577億ドル
セクター:工業
業界:資本財
12.メットライフ(MetLife)
時価総額:564億ドル
セクター:金融
業界:保険
13.サイモン・プロパティ・グループ(Simon Property Group)
時価総額:484億ドル
セクター:不動産
業界:不動産
14.アメリカン・エレクトリック(American Electric)
時価総額:455億ドル
セクター:公益事業
業界:公益事業
15.トレイン・テクノロジーズ(Trane Technologies)
時価総額:411億ドル
セクター:工業
業界:資本財
16.ウェルタワー(Welltower)
時価総額:377億ドル
セクター:不動産
業界:不動産
17.コルテバ・アグリサイエンス(Corteva Agriscience)
時価総額:350億ドル
セクター:素材
業界:素材
18.バレロ・エナジー(Valero Energy)
時価総額:339億ドル
セクター:エネルギー
業界:エネルギー
19.パブリック・サービス・エンタープライズ・グループ(Public Service Enterprise Group)
時価総額:336億ドル
セクター:公益事業
業界:公益事業
20.リヨンデルベーセル・インダストリーズ(LyondellBasell Industries)
時価総額:320億ドル
セクター:素材
業界:素材
21.アメテック(Ametek)
時価総額:316億ドル
セクター:工業
業界:資本財
22.スタンレー・ブラック・アンド・デッカー(Stanley Black & Decker)
時価総額:285億ドル
セクター:工業
業界:資本財
23.ベーカーヒューズ(Baker Hughes)
時価総額:249億ドル
セクター:エネルギー
業界:エネルギー
24.センターポイント・エナジー(Centerpoint Energy)
時価総額:178億ドル
セクター:公益事業
業界:公益事業
25.アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Alnylam Pharmaceuticals)
時価総額:165億ドル
セクター:ヘルスケア
業界:製薬・バイオテクノロジー・ライフサイエンス
26.ウェスタン・デジタル(Western Digital)
時価総額:161億ドル
セクター:情報テクノロジー
業界:テクノロジーハードウェア・装置
27.ノートンライフロック(NortonLifeLock)
時価総額:151億ドル
セクター:情報テクノロジー
業界:ソフトウェア&サービス
28.バス&ボディワークス(Bath & Body Works)
時価総額:145億ドル
セクター:一般消費財
業界:小売り
29.ハウメット・エアロスペース(Howmet Aerospace)
時価総額:133億ドル
セクター:工業
業界:資本財
30.エランコ・アニマル・ヘルス(Elanco Animal Health)
時価総額:123億ドル
セクター:ヘルスケア
業界:製薬・バイオテクノロジー・ライフサイエンス
31.APA
時価総額:121億ドル
セクター:エネルギー
業界:エネルギー
32.デンツプライシロナ(Dentsply Sirona)
時価総額:117億ドル
セクター:ヘルスケア
業界:ヘルスケア機器・サービス
33.ゲーミング・アンド・レジャー・プロパティーズ(Gaming and Leisure Properties)
時価総額:111億ドル
セクター:不動産
業界:不動産
34.ビストラ・エナジー(Vistra Energy)
時価総額:105億ドル
セクター:公益事業
業界:公益事業
(翻訳・編集:川村力)