マネーフォワードが2022年に設置した名古屋開発拠点の拠点長・長島圭祐さん。長島さんは新卒2年目で抜擢された。
撮影:横山耕太郎
「名古屋はITエンジニア採用のブルーオーシャンだと感じています」
家計簿アプリなどを手がけるマネーフォワードは1月、名古屋に開発拠点を新設した。
マネーフォワードはもともと名古屋を含めて、全国に営業担当の支社を置くが、ITエンジニアが集まる開発拠点は、東京、福岡、京都、ベトナムだけだった。そして今回、5つ目の開発拠点として名古屋が加わった。
名古屋の開発拠点の拠点長に抜擢(ばってき)されたのは、新卒入社2年目のエンジニア・長島圭祐さん(27)。長島さんはもともと福岡の開発拠点で働いていたITエンジニアで、福岡では現地でエンジニアの採用にも関わってきた。
名古屋のあたらな開発拠点のミッションは、新サービスの開発だけでなく、名古屋エリアでエンジニア人材の採用を加速させることだ。
リモートワークが当たり前になったが、開発拠点を東京以外に作る意味はあるのか?若きリーダーに聞いた。
東京で働かなくても「デメリットはない」
事業の拡大に伴い、マネ―フォワードでは積極的な人材採用を続けている。
出典:マネ―フォワード2021年11月期決算説明資料
「福岡や名古屋でエンジニアとして働くことは、東京と比べて、デメリットは全くないと思っています。ただ僕は東京勤務の経験はないのですが…」
マネーフォワード名古屋の開発拠点長を任された長島さんはそう話す。
石川県出身の長島さんは、九州大学大学院に在学中、マネーフォワードの福岡開発拠点で長期インターンを経験。大学院修了後、そのままマネーフォワードに入社した。
長島さんは、マネーフォワードの開発拠点について、「東京本社の下請けという位置づけはない」と強調する。
「サービスの企画から関われるかどうかで、業務の幅は変わってきます。マネーフォワードの場合は、各開発拠点で企画から開発を手がけています。使っている技術は東京と同水準のモダン技術スタック(アプリケーションを実行するために使用されるOSやソフトウェア)で、各開発拠点が裁量を持って選定もできます。待遇も東京に引けをとりません」
長島さんは福岡拠点に在籍中に、クラウド型債務管理システム「マネーフォワードクラウド債務支払」の立ち上げ開発を担当。その実績が評価され、拠点長を任された。
都心の7割の家賃で「ほぼ新築」
マネーフォワード名古屋開発拠点のメンバー。オフィスは名古屋駅前のミッドランドスクエア内にある。
提供:マネーフォワード
本当に東京で得られる経験と、名古屋で得られる経験に差はないのか?
長島さんは「確かに東京にいれば、エンジニアコミュニティーの数も多い」としたうえで、こう話す。
「コロナで東京以外からでも参加できるオンラインのコミュニティーも活発になっており、オンラインでのインプットの機会は広がっています。また、生活費が安い分、例えば英語やプログラミングなどの学習の費用や、プライベートの充実の費用にあてることもできます」
また生活費の安さも魅力の一つ。長島さんは2022年1月から名古屋に住むが、ほぼ新築のマンションに「都心の7割ほどの家賃」で暮らせているという。
「特に新卒では家賃は重荷。生活費を下げつつ、生活の質を上げられるので地方移住の流れは今後も広がるのではないでしょうか」
意外と多いエンジニアの出社ニーズ
しかしフルリモート勤務も珍しくなくなった今、そもそも各地に拠点を作る必要はあるのか?
「出社かリモートかは好みが分かれるところですが、オフィスに通える距離で働きたいというエンジニアは少なくない」と長島さんは言う。
「『プロダクトを企画する段階では対面で密なコミュニケーションをしたい』というエンジニアは多いです。特に若手社員の中には、一人でこもるよりも社員と交流したいと思う人もいます」
長島さん自身も、コロナ前には先輩社員と一つの画面で一緒にコードを書くペアプログラミングで指導してもらうこともあった。
「リモートワークで画面の共有はオンラインでもできますが、実際にどう手を動かしているのかは画面では分かりません。対面でこそ得られるインプットにも価値がある」
IT企業が「東京以外」を目指す理由
マネーフォワードは2017年に福岡拠点を設置して以降、2018年にはベトナム(ホーチミンとハノイ)、2019年には京都、2021年には大阪と開発拠点を設置し、現地で人材の採用を進めてきた。
マネーフォワードに限らず東京に本社を置くIT企業が、東京以外に開発拠点を設ける例は多い。
大手ではサイバーエージェントやLINE、メルカリは福岡などに開発拠点を置く。ベンチャーでもSansanは札幌や大阪に、freeeも名古屋などに開発拠点を設けている。
東京以外の拠点が注目される一つの理由は、ITエンジニア採用が難しいことがある。
厚生労働省が発表した2021年12月の有効求人倍率(パートを除く)の平均は1.18倍なのに対し、ITエンジニア(情報処理・通信技術者)は1.57倍と高い水準が続いている。
一方でIT企業に勤めるエンジニアは東京に集中していることから、競争相手の少ない「東京以外」の都市での採用を狙う企業もある。
「東海地域、特に愛知県ではITエンジニアの採用は活況で、2019年と比べエンジニアの求人数は2倍程度まで増えている。ただもともとエンジニアの数が少なく、ITエンジニア職の転職者をみると、東京勤務の経験のある人材が多い。
東京に比べると役職や待遇などの条件がいいケースも多いため、今後もU・Iターンによる転職が増えていく可能性もある」(エン・ジャパン「エンエージェント」東海エリア責任者、青柳佳彦氏)
名古屋で「新卒採用」目指す
マネーフォワード名古屋開発拠点では新卒採用も視野に入れている。
撮影:横山耕太郎
マネーフォワード名古屋開発拠点では、現在のところ中途採用のみを進めているが、今後は名古屋エリアでの新卒採用も視野に入れる。
「中途の人材を採用するだけでは、エンジニア不足は解消されません。インターンも含めて、新卒で若手の獲得し育成する必要があると考えています」(長島さん)
名古屋は名門・名古屋大学を始め、多くの大学を擁する都市でもある。ただ、自動車関連の製造業が多いこともあり、IT企業を志望する学生はインターンを受けに上京したり、卒業後は東京に行ったりするケースが多い。
「私も福岡の大学時代、プログラミングの道に進みたいと思ってもつてがなかった。たまたま友人がマネーフォワードのインターンを誘ってくれて、この世界に入りました。
例えば名古屋では、名古屋大学の情報系学部が有名ですが、IT企業を志望する学生が地元で働ける選択肢を増やしたいと思っています」
大学などが主催する就職イベントにも参加したいと言うが、就活イベントに参加する企業は製造業が中心。長島さんは名古屋に本社や拠点を置くIT企業と協力し、大学への働きかけたいと話す。
「マネーフォワードのようなITベンチャーの魅力は、自分の仕事の貢献をすぐに感じられること。東京でのエンジニア経験のない私でも、ここまで成長できました。
“東京以外”のエンジニアとして、私自身がロールモデルになり仲間を増やしていきたいと思っています」
(文・横山耕太郎)