Mike Nudelman/Business Insider
ロシアによるウクライナ侵攻において、世界は思いもよらない武器を活用している。「仮想通貨」だ。
ウクライナのデジタルウォレットは国防資金として数百万ドル(数億円)を集め、西側はロシアに対する仮想通貨制裁の可能性を検討している。分散型自律組織(DAO)と呼ばれる仮想通貨団体は、NFT販売を通じてウクライナへの資金調達を行っており、仮想通貨取引所はロシアとの取引を停止するよう求められている。
このような動きは、時代の流れを示している。21世紀という暗号時代における開戦に際し、世界は仮想通貨で武装する。
ウクライナの公式Twitterアカウントは2022年2月26日、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を送ることができるデジタルウォレットのアドレスを公開するという斬新な動きを見せた。
ブロックチェーン企業エリピティック(Ellipitic)のデータによると、このアドレスには現在までに1480万ドル(約17億200万円:1ドル=115円換算)が寄せられており、ビットコインとイーサリアムが寄付の大半を占めている。中には、ミュータント・フローキ(Mutant Floki)など、さまざまな価値のあるNFTを寄付して支援する人もいる。
一方、ウクライナの慈善団体「カム・バック・アライブ(Come Back Alive:生きて帰ろう)」は、400万ドル(約4億6000万円)相当の仮想通貨を集め、ウクライナへの軍装品や医療キットの供給活動を後押ししている。
エリピッティックによると、ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ政府やその関係組織は、2万3000件以上の仮想通貨による寄付を通じて、合計でなんと2200万ドル(約25億3000万円)もの資金を調達しているという。
対ロシア制裁の次の一手
2月24日にロシアが本格的な侵攻を開始し、多くの犠牲者を出したウクライナに対し、西側諸国もウクライナを支援するために仮想通貨を活用し始めている。
アメリカは、ロシアに対する制裁の次の一手として、ビットコインをはじめとする仮想通貨へのロシアのアクセスを制限することを検討している、とウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。仮想通貨制裁は、ブラックリストに掲載されたロシアの銀行との取引禁止に違反した取引所を対象とする可能性が高く、仮想通貨に避難しようとするロシアの能力を封じ込めることになる。
欧米による制裁は、すでにロシア経済に大きな打撃を与え始めている。ルーブルは機能不全に陥り、ロブロックス(Roblox)というメタバース上で使用されるデジタルトークン、ロバックス(Robux)よりも価値が低くなっていると、匿名のウォール街バンカーであるリットクイディティ(Litquidity)は言う。
ブルームバーグは、ルーブルとウクライナの通貨フリヴニャ(hryvnia)を利用したビットコイン取引量がここ数カ月で最高レベルに急増しており、仮想通貨がこれらの市場でより魅力的になる可能性があることを示していると報じている。
仮想通貨取引所も紛争に巻き込まれ、ウクライナはロシアの顧客の口座をブロックするよう取引所に要請している。
また、仮想通貨取引所コインベース(Coinbase)は「急速に侵略が進む中で、我々の役割を果たし、確実に義務を遂行するために警戒を怠らない」と表明。その取り組みの一環として、制裁対象地域のアドレスをブロックし、脅威となる人物の監視を行っていると述べている。
仮想通貨を通じたウクライナ支援
同じくFTXは、仮想通貨で億万長者となったサム・バンクマン=フリード(Sam Bankman-Fried)が「為すべきことを為そう」とつぶやいたように、同社のプラットフォーム上にアカウントを持つウクライナ人にそれぞれ25ドル(約2875円)を寄付した(Insiderは同社にコメントを求めたが回答は得られていない)。
仮想通貨愛好家たちは、仮想通貨の真の姿を体現し、政府の影響力とは別の形でウクライナを支援するために独自の力を結集している。
あるDAOは、ウクライナの活動資金を調達するためにNFTをオークションにかけている。ウクライナ国旗の絵が描かれたNFTの最高入札額は、オークション締め切りの2日前の時点で300万ドル(約3億4500万円)にのぼる。
しかし、現在の紛争における仮想通貨の影響力は、仮想通貨市場の広範な混乱を救うには至っていない。ロシアによるウクライナ侵攻が激化する2月25日、Insiderは、2000億ドル(約23兆円)以上が仮想通貨市場から消えたと報じた。しかし同28日には、ウクライナとロシアの代表団がベラルーシで第1回目の停戦交渉を行ったことを受け、仮想通貨は上昇を見せた。
仮想通貨インフルエンサーのアンソニー・ポンプリアノ(Anthony Pompliano)が有料ニュース配信サイトSubstackに投稿した内容によると、ビットコインや仮想通貨取引に大きく関与する国は「大きな優位性を持つことになる」という。世界の超大国にとって、ビットコインは「今後何十年も必要不可欠になる」とポンプリアノは記している。
[原文:From sanctions to bitcoin donations, here's how crypto is playing a major role in the Ukraine war]
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)